128:警告

 虚空に向かって呟いた瞬間。スキルが解除された。そこには朧げな気配の男が立っていた。片矢だったか?


「それは我ら陰陽寮、すなわち日の本ひのもとに敵対するということか」


「……日の本ひのもとなんて国は知らないな。俺は日本という国に所属する日本人だ。そもそも、お前らの様な所属を明らかにしていない存在の言う事なんて、まともに聞くと思ってるのか?」


「非国民が!」


「国民の血税が、国民の知らない組織に流れていることが問題じゃ無いか?」


 陰陽寮は宮内庁所属ということだった。ということは、どういう流れかは判らないが、確実に運営資金には税金が流れ込んでいる。


「……」


 歯ぎしりでもしているのか、何も反論できないのか判らない。ただ、尋常じゃ無い怒りの感情がこちらに向けられているのは判る。


「隠し通せる時間は終了ってことだろ? 気力による呪縛は既に解かれてるんだ。俺がどうのというわけじゃなく、能力者達が「闘う姿」が動画でネット配信でもされてしまえば、誰もが知る事実になる。そして……そうなってからでは遅いというか、アンタの言う日の本を守ることはできないんじゃないのか? 少しは想像しろよ」


「くっ……化者カノモノに力を与えれば、確実に、普通の人々が追いやられる。生きる場を失っていく」


「だからって、能力者の人権を奪っていいって話にはならねぇよ……。あんた、「耳目」……目と耳ってことは、情報伝達すべき上のヤツラがいるんだろ? 伝えろよ。俺の言ったことを。自分たちが「全滅」する勇気があるのならいつでもかかってこい」


 なんとなく認識が出来る様になって来た気がする……。俺の目の前に立っているのは三十代のサラリーマン風の男性だった。ダークグレーの背広上下に通勤用の革鞄。革靴。顔は……相変わらず靄ってていまいち判らない。


「あ。その右手にあるの。こないだの爆薬だろ? それをここで使ったら、即、俺の敵認定するからな。すぐにお前を消して、さらにお前の気配の元を……消す。やっと追いかけられるようになって来たんだよな。あんたの気配」


 驚愕……の表情をしている気がする。まあ、そりゃそうか。気配を消すことに長けている自分を追跡できる……と言われたら。


 って実は、ハッタリで追跡までは出来ないんだけどね。でも、ヤツラは俺の能力を測りかねている。俺の家を突き止めるまでにもそれなりに時間がかかっていたし、偵察開始までもかなり間が空いた。

 で、さらに簡易結界によって何度か侵入を拒んでいる。師匠や三沢さんの反応を見るに、こういう魔道具は存在しないみたいだしね。


 俺の力がどれほどの物か、判らないんだろうな。なんだっけ、超級「呪」に認定したとかするとかそんな感じだっけ? それは元々、海からくる人間の天敵? みたいな敵用の警戒階級なわけで。

 現実問題として俺の力はダンジョンから発生している。確実に「海の敵に操られてて力を得た」わけじゃない。

 なのにヤツラがそんなことを言ってるということは、そういう風に判断しなければ理解が出来ないほど、「俺のことが計れていない」ってことになる。


「くっ……後悔するなよ……」


「す、捨て台詞が三下……そんなの言うヤツ今どきいるのか~」


 一瞬で姿が消えた。そしてあっという間に気配が遠ざかる。俺の感知可能な範囲を超えるのに……数秒か。早いな。

 つまり、俺の感知範囲外から、数秒で突っ込んでこれるってことだもんな。注意しないと。というか、もう少しレベル上げして俺自身を強化しておかないとだよなぁ……。


 お。家の周辺で簡易結界に阻まれて乗り込めて無かった「耳目」の部下の人達も一斉に退いた様だ。これで、周辺に怪しいヤツラは……いないな。よし。


 急いで家に帰って、そのまま、食堂に向かう。


「それで、松戸さんと森下さんは村野さんの事が好きなんですよね?」


「そんなこと許されるわけがありません。私達は御主人様にお仕えしているだけです」


「……なんか、変な感情が絡まってる気がするのですよ……」


 鋭いな。若島さん。


「確かに御主人様とは繋がっている部分はございますが……」


「繋がり? なにそれは、絆的な? え?」


「メイドさんにここまで慕われている事自体がスゴイと思うけど~」


「とにかく、御主人様に命じられなければ私達は何もありませんので」


「でも、命じられちゃったら?」


「……」


「ほら! 村野さんの命令なら何でもしちゃう気がするんですけど! それって尋常じゃ無いんですけど! ……あ」


「うん、そうかも~。もしかして、命……とか救われました~?」


 松戸さんはなんとかポーカーフェイスで耐えたが……森下さんがビクッと反応してしまった。彼女ちょっと不安定だしな。精神的に。


「やっぱり! そっか……それは……そうか……命の恩人か……というか、しかも惚れてるね?」


「いえ、そんなことは……」


「命令されれば、何されてもいいと思えるってことは惚れてる。絶対惚れてる」


「というか、私達と形は違うかもだけど、同じ様な感じじゃないかな……」


 ……なんていうか、俺は今……かなりヤバい話を聞いている気がする。ドアを開ける前に数歩戻り、ワザと音を立てて中に入る。


「すいませんね~折角の料理なのにちょっと急ぎの仕事が入ってしまって」


 急ぎ戻ってきたかの様にテーブルにつく。


「もう、大丈夫なんですか?」


「ええ、ちゃんと連絡しましたから」


 何も無かった様に……タダひたすらに「美味しい」食事を食べ続けた。いつもより多く……胸焼けするレベルで。


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