127:再来
豚汁、酢豚、生姜焼き、炊き込み御飯、エビフライ、小さいロールキャベツ、煮込みハンバーグ、いろんなナッツとか入ってるサラダ、千切りキャベツ山盛りに各種付け合わせ……。沢庵に野沢菜、キムチ……漬物まで用意されている。
ここに来る前にどれだけ準備してきたんだろうか? 新規開店の定食屋の試食会かってくらい充実している。
とんでもないな。これ。内容的に嫌いな男がいるのか? っていう献立だ。ぱっと見で見あたらないのはカレーくらいだろうか?
その上……完成した料理はどれも美味しかった。素晴らしかった。一つ位失敗してるのがあっても……と思っていたが、そんなことなかった。
しかも、三人がかりで作業したからか、調理終了までの時間もさほど掛かっていない。
この家には今、6名もの大人がいる。その人数に分の品数、量……普通に考えて大変だよね。
「食材とか、二人分増えて大変だったんじゃ?」
「ちゃんと多めに買ってきていましたから~問題ないです~」
「それよりも、本当に……いいんですか? 一緒に食べなくて」
そう。メイドの二人はどんなに俺が言っても一緒のテーブルに付いて食事をしようとしない。給仕するのが仕事ですから……が彼女達の言い分だ。
既に料理は彼女達の二人分は取り分けてもらってある。
一人暮らしが長かったから、孤食には慣れているけれど、メイド二人に見られながら(給仕されながら)食べる食事はどうにもこうにもというか。緊張するというか。でも頑固に首を縦に振ってくれない。
今も二人は三人娘が作った料理を給仕してくれている。温かい内に一緒に食べようと言ったのだが聞く耳持たずなままだ。
なんか、特にお客様が来ている以上はちゃんとしないと……だそうだ。むむむ。気にしないよなぁ。
さて。そんな中。
多分、存在を希薄にしていると思うのだが、近付いて来ているヤツらがいる。
昨日の
なので、まだ言っていないが、三沢さんの会社と師匠の家にうちと同じ、結界の魔道具を配置させてもらおうと思っている。
「こりゃ早めに設置した方がいいかな……」
襲撃する気満々の……多分、陰陽寮の手の者は合計……6名か。そして今回はもう、見逃さない。1人……隠れてその襲撃を観察しているヤツがいる。なんとなく判った。
ヤツの気配は相変わらず分からない。ただ、気配が全く感じられない「部分」を感じればいいのだ。
襲撃などのイベントが発生している場合、その周辺に必ずその手の観察者がいたりするのであれば、意識してそれを探そうとすればいいのかなと、思ったら案の定だ。
といいつつ、慌てない、慌てない。この家にいる限りは多分大丈夫だ。
ただ。結界破壊の為に外側から昨日の爆弾でも使用されたら困る。ああ、うちは困らないけど、ご近所さんが困る。
正直、うちの周囲は元はうちの土地で、その土地を借地として貸していた。現在では相続税の関係で売り払ってしまっているが、昔からの付き合いもそれなりにあるし、根が深いのだ。
なので、大元を刈りに行こうと思う。
「御主人様?」
「ああ。ちょっと片付けてくる」
「それでしたら私達が……」
「いやいいよ。騒ぎたくない。というか、何も無かった感じで追い払うから、俺だけでいい。君らはお客様のお相手をしていて」
「は……畏まりました」
松戸さんにコソコソとお願いして、ちょっと仕事の連絡をしないといけないので……と席を外す。言い訳としてリモートワークの浸透は非常に便利だ。
隠れてる……多分、「耳目」の片矢ってやつだ。さっきまで無かった気配が……一瞬、現れた。昨日感じた気配だ。
多分、ヤツのスキルには制限がある。動くと……とかそういう感じかな……。
そもそも、元の気配が薄い。さらにスキルを使うと気配が完全に消える。再度動き出すにはそのスキルを切らなければならないって感じじゃないかな。
で。家は簡易結界に任せて、俺は気配の無い部分がある場所……2エリア向こうのコインパーキングに移動した。
「うちに向かって昨日の様な爆薬を使用した瞬間に、お前達は完全に俺の敵になる。その結果はお前は実際に体験して知っているハズだ。それでいいのなら。何でもするがいい。古の昔から存在している
そう。思い出した。こいつは……多分、牧野興産ビルに……いた。
俺の数え間違いかと思っていたんだけど、最初にあのビルにいる人間の数を数えたとき、十八階に13人いた。だが、実際に確認出来たのは12名。数が合わなかった。その1人が……多分、コイツなのだ。
俺が上で戦っている隙に下の階に降りてスキルで気配を消していたんじゃないだろうか。
つまり、コイツはあそこで何が起こったか……全て知っている。
虚空に向かって呟いた瞬間。スキルが解除された。そこには朧げな気配の男が立っていた。まあ、片矢だったかな?
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