126:素材と食材

「あの。今日はお礼に来たのです。私たちのせいで色々と御迷惑をおかけしたみたいで」


 そうだったのか。


「あと、ただ会いたかったので来ました!」


 若島さんは元気だね……。


「食材とかも買ってきてますから、お台所お借りして、御食事用意してもいいですか?」


 お。それは嬉しい……けど。


「ちなみに……あの……いま、御食事はメイドさんが用意を?」


「あ、うん、でも、俺も作ったりしてるかな。さすがに彼女達は料理人ではないので」


 そう。あの二人は家事全般を完璧にこなすが、料理だけは普通……というか、あまりしていなかったからか、肉を焼くとかサラダとか、素材を生かした(笑)、単純な料理が中心になる。

 食べてる肉はちゃんと近所のスーパーで俺が買ってきたヤツだ。魔物の肉やダンジョン産の食材は出してない。何か変な影響があったら怖いからね。


 とりあえず、現状はグリーンスムージーだけで精一杯。


「そうなんですね? なら、今日は頑張っちゃいますね?」


 松山さんの有無を言わせぬ迫力に、思わず頷いてしまった。


(まあでも、良かったじゃない~三沢さんの会社の人なら警備員というか、ボディーガード~ってことでしょ~?)


(そうですけど。美南先輩、前に自分で言いましたよね? 村野さんが先手必勝タイプって)


(村野さんが押しに弱そうってこと? それは今も思ってるけど)


(そうです。あんな美人でモデル体型でしかも気が利くメイドさんと一緒に暮らしていたら、なし崩しでそういう関係になって、さらに責任取って~とかそういう感じになる可能性が高いというか)


(あ。そうか~)


(そうですよね。というか、あの二人。立ち振る舞いとか……完璧じゃ無いですか? 秘書としても一流な感じというか……私、箕尾秘書室長が被るんですけど)


(あら~きぐ~私もそう思ってた~)


(ええ。あの美貌で箕尾秘書室長レベルで秘書仕事が出来て、さらにメイドさんとして家政婦。その上、ボディーガードも出来るとかやばすぎなんですって! しかも二人! 二倍! ですよ、危険度二倍! 本当に料理はそこまでじゃなくて良かった……)


(そうか……そうですよね)


(というか、一つ屋根の下で一緒に美人が暮らしているという事実だけでもヤバいんですって! なのでもっと必死になってくださいよ!)


 いや……あのさ、松山さんそんなに力いれなくても。食材を前にして、台所で三人が会議を始めた。こしょこしょと。全部聞こえてるけどね。


(私なんて、会えなくて会えなくて愛しいで欲求不満バリバリでって清純派の歌詞からいつの間にかヤバい方向に流されてしまうくらい、ドキドキなんですから)


(それはもう、私だってそうですよ!)


(私も~心配で心配で~村野さん荒事は苦手そうだし~)


(もっと短期間に距離を縮めて、そして選んでもらう予定だったのに、とんだハプニングです。まあでも、予定通り、やれる最上級をやりましょう……)


(はいっ)


(は~い)


 なんか事前に打ち合わせをしていたのだろうか? そう言った瞬間からいきなり、分担して調理がスタートした。テキパキしてる。

 そういえば、彼女達、バーベキューでももの凄く甲斐甲斐しく作る側に周ってた気がするな。


(キッチン……広くて素敵)


(冷蔵庫もスゴイですよねぇ)


 まあ、ちょっと前まで溢れていたモンスターとかダンジョン産の食材とかは全部、向こうに戻してある。さすがにメイド二人が一緒に暮らすとなった瞬間に移動しておいた。


 量としてはとんでもないことになってたからちょっと不安だったんだけど……。


 でも大丈夫でした。


 牧野興産の件の後、一気にレベルアップした際のドサクサで紛れてしまっていたのだが、【倉庫弐】のスキルがスゴイコトになっていたのだ。

 最初はね。使えねぇなと。思いましたよ。ええ。最初、【倉庫壱】でショボイ、使えねぇ判断した俺がバカでした。というか、そういうの多いな。「大地操作」とか。


 特化型地域限定マジックバック的空間魔法であるこのスキルはバック内時間経過無し。異世界物作品の定番とはいえ、これはとんでもなくスゴイ。特に時間経過無しは入れた物が劣化しないから、薬草とかの鮮度が必要な素材はここに入れて置けばいつでも新鮮な状態で取り出せる。

 グリーンスムージーを作る際に、わざわざ採集階層まで行かず、すぐに戻れてたのはここから取り出していたからだ。


 まあ、とはいえ。ダンジョン外では一切使えないし、量もそこまでじゃなかったから、あまり意味が無いって判断だったんだけど。


 最初は内容量一キロまでだったけど……。


 現在、俺の迷宮創造主ダンジョンマスターのレベルは28。


 師匠と稽古した後だったので、早々に一瞬ダンジョンに行って戻ってきた。スキルなどは覚えなかったが、本職のレベルが1上がったのだ。素晴らしい!


 レベル28での【倉庫弐】はレベル10。約1tの空間収納……となっている。


 ね? いやいや、ここまでの容量になればもう、ほぼ無敵よ?


 ということで、ダンジョンから溢れていた素材食材は全てそこに収容してある。肉とか葉物、果物なんかもバンバン放り込んで収納中だ。


 師匠に言い訳できないから、ここ最近は長期の引きこもりは避けている。


 でも、命がけの戦闘勘を失わないためにも日課として二、三周はダンジョンチャレンジしていたのだ。素材食材関係は、そのついでに回収しているから続々と増えちゃってるな。

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