125:来襲
稽古では前と同じようにコテンパンにやられた。
師匠曰く、俺はトコトン、下半身がなってないらしい。にも関わらず、目が良いのと、力があり、動きが速いのでイロイロ対処出来てしまうのが、逆にマズイのだそうだ。
純粋にステータス高いからね……。セーブするのはちゃんと出来てるんだけどなぁ。ドアノブ破壊とかしてないし。
これは……迂闊にダンジョンに籠もってレベルを上げてしまうと、能力値が向上して師匠に言い訳出来ないな。
うーん。気力に関係するスキルとか、ヒントが得られるまで、拳闘士を育てようと思ってたんだけどな。
森下さんに与えられた命令は、最近ドンドン絡まってしまっている。
本来、「使役者に必要な事は喋ることが可能」という縛りだった。が、俺に命令権が移行した際に「好きにしていい」と言ってしまった事で命令が複雑化。現在ではほとんど「しゃべれなく」なってしまっている。
その分、松戸さんがちゃんと説明はしてくれるのだが、本来出来たことが出来ないっていうのはツラいと思うんだよね。
特に森下さんの……えーと。気力による「呪縛」とでもしておこうか。松戸さんの「呪縛」は簡単に排除できて治療完了したからね……。
稽古から帰り、その翌日。今日は自宅勤務予定だ。数年間から発生している世界的な伝染病もすっかり当たり前の日常なのだが、そのおかげで自宅勤務制度はしっかり出来ている。まあ、うん、これまでは俺が雑魚過ぎて申請出来なかったんだよね。
ああ。俺が昇進していないのは、ただ単に「偉くなりたくなかった」だけだ。森下社長と切り抜けた戦火の中東がトラウマになって……とかならカッコイイのだけど、たただただ、純粋にやる気ゲージが低いままだったのだ。なので、一定以上の仕事もしなかった。
それがまあ……ダンジョンに潜るようになってから、あれやこれやで出来る範囲めいっぱいで仕事をしている。純粋にキチンと余暇を確保したいと思ったら、ソウせざるを得なかっただけだけど。
趣味を持つってこういうことなのかな? 違うんね。うん、違う。
等と考えていたら気を抜いていたのだろう。敵意や悪意ではないのも【気配】が反応しなかった原因のひとつか。
ピンポーン
誰かの訪問を知らせる玄関のチャイムが鳴った。
って……あれ? これは……うーんと。
「はい」
すかさず松戸さんが応対する。
「え、あ。あの、村野……さんはござい、ご在宅でしょうか?」
聞いたことのある声だ。
「あの、私たち、以前お世話になったあの、ファーベルの……」
「ああ、いいよ。俺が対応する」
玄関前に三人。なにげに緊張している様だ。
「いらっしゃい。今日は?」
「あ、む、村野さん、あの……その……」
「まあ、とりあえず、中へどうぞ」
と返答しておいて、自分の格好が思い切り寝間着のジャージのままだったことに気付く。今日はリモートで会議予定もなかったからな。
「さすがにこの格好はマズいか……お客様対応、お願いできる?」
「はい。畏まりました」
松戸さんが答える。森下さんも一緒に出て行った。
シャワーを浴びて、ヒゲを剃り。ラフなパンツとシャツに着替えると、応接スペースに向かう。
そこには、松山、最上、若島の受付三人娘が座っていた。ちゃんとお茶も出てる。
「今日は、どうしたの? 何かあった?」
というか、この三人は牧野興産の件があって以来、確か……若島さんのお家にほぼ軟禁状態にされていたハズだ。三沢さんの人達が護衛に付いていたようだけど、念には念を入れてって感じで。
「あ、あの、村野さんは……あ、いえ、お久しぶりです」
三人は軽く頭を下げると、松山さんが話始めた。他の二人も頷いている。
簡単に言えば、三日前まで、完全に隔離されて、いたらしい。まあ、聞いていた通りだ。外出禁止で。かなり長い。
それもこれも、牧野興産の件の後、証拠らしい証拠が無かったため、以前、襲われたり、被害に合った人達に警察やマスコミなどから様々なアプローチをあったという感じだから、だそうだ。
彼女達は実際に対応せずに、森下社長の雇った人(まあ、三沢さんの部下だろう)がイロイロとやってくれたみたいだけど。
「あ、あの。あの、メイドさんが……」
最上さんは相変わらず大人しい感じだ。
ん? そうか、そりゃしょうか。知らなかったか。
「ああ、ちょっと訳ありで。家の雑務をお願いすることになって」
「……そう……ですか」
「か、通いですよね?」
若島さんは相変わらず元気いっぱいだ。だけど、あれ?
「うちの客間って下宿にも使える造りになってるんだけど、そこに二人で生活してもらってるよ」
「え!」
「住み込み……なんですか?」
というか、うん、そんなにそれが重要なのだろうか。
「今回の件で最低限の護衛は必要って三沢さんに言われてね。彼女達はあそこの会社の所属なんだよね」
「え、あ。そうなんですか? 護衛……三沢さんの……」
「そうなんですね! 三沢さんの所の社員さん。メイド服も支給品ですよね?」
「え、あ、う、うん、彼女たちの趣味というか……目立つよね……」
「村野さんの趣味じゃないんですか?」
「え? ち、違うよ? 別に仕事しやすければなんでも良いと思うんだけど。逆にご近所さんの手前、普通の格好がいいんだよね……」
「でも好きなんですよね?」
「え? き、嫌いではないけど……」
「判りました」
松山さんは相変わらず……小さいのに迫力がある。というか、この三人の中で一番推しが強い。
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