123:屋守

 えーと。なんていうか、それにしても情報がスゴイあやふやな気がするんだけど……。


「なんで曖昧なことが多いの?」


「能力者に関しては、今ココに「ヤモリ」の関係者である鏑木がいるからここまで判明していると思って良いかと思います。我が社は十数年前、仕事で関係を持った能力者集団を丸ごと社員として雇いました。現在所属しているのは10名」

 

 三沢さんがこれまで以上に神妙な顔で言う。


「彼らは非常に優秀です。正直、我が社自慢の世界的ハッカーの方が「世界の情報」収集に関しては優秀でしょう。ですが。日本国内に関して、特に能力者に関してであれば間違い無く彼らの方が上です」


 そりゃね。イロイロと知ってるだろうしね。


「それでも、詳細は判明していないことが多いのです」


「えーと。もしかして、「ヤモリ」は「屋守」で能力者ってこと?」


「はい。私は今でこそ鏑木昌也という名前を持ち、日本国籍を有していますが……10歳まで名がありませんでした」


「そっか……」


 直接的な被害者がここに。そうか。


「それこそ……先ほどから村野様がまとめているご様子のメモ。そのテキストデータを持っているというだけで、陰陽寮からは襲われる可能性が高いです。極秘データというヤツですね」


 げげっ。そういうレベルか。


「つまり、日本有数の、しかも能力者に関する情報収集にも長けた集団がいるにも関わらずこの程度ということは、他の勢力はもっとあやふやな状態で動いているということです」


 それにしちゃ……。


「それにしてはいきなり襲い掛かって来たね……」


「確かに……ですが……あの、村野様……先ほどの「耳目」片矢の存在に……よく気付かれましたね……」


 ぬ。まあ……うん、なんとなく……余りに怪しい「敵意」持ちがいきなり現れた……からね。


「正直、私は気付きませんでした……」


 え? 鏑木さん、俺とほぼ同時に動いてたじゃない?


「村野様の動きに只事ではない気を感じまして、追従するのがやっとの状態でした。そして、飛び出た目の前に「耳目」が」


 そうだったのか。それにしてはとっさにあそこまで動けるって凄いな。


「片矢は襲撃班とは別に……我々の情報を入手して持ち帰る役目だったのでしょう。そしてそんな役割を担うということは、自分の能力に絶対の自信を持っていたハズです」


「まあそうじゃな……少しでもやる気を漏らせば即判ったと思うが……その手の気配は一切無かった」


 師匠でもそういう感じなのか。


「つまり、自分の能力を見破るほどの力=脅威と判定して、即対応で攻撃を仕掛けたって感じなのかな?」


「はい。まあ、それにしても判断が早い気がしますが、ヤツの隠密行動能力は日本でも随一。そう考えると順当かなと」


「というか、何故、ここ……道場で狙ってきたんだろう? うちの家……自宅もバレてるんだよね?」


「行動に出たのはここ数日……最近ですね。以前からかなり遠方から監視はしていた様ですし……近辺での偵察もしようと試みていたようです。が、何故か襲撃には至りませんでした」


「ああ、そういうことか。うち、簡易だけど結界が張ってあるからね」


「結界?」


「うん。えっと、俺に対する「悪意」や「敵意」に反応する結界」


「そ、そんなことが……あの……」


「鏑木。その辺は後で俺からも説明するよ」


 うん。三沢さんに細かいことは丸投げだ。といいつつ、三沢さんは大した説明も無いのにイロイロと理解してくれている。


「はい」


「さてと。どうする? 稽古を付けていくか? そのために来たんじゃろ?」


 ああ、そうだった。二人の身体も癒えて、それなりに室内でのリハビリ筋トレもこなして来たから、そろそろと思って来たんだった。


「そうですね。鏑木さんはちゃんとお医者さんに診てもらってくださいね」


「はい、手配します」


 三沢さんがスマホ片手に出て行く。


「よし、稽古とするか」


 みんなで道場に向かおうと移動開始したところで、三沢さんが慌てて戻ってきた。


「村野様、あの、先ほどの爆発による穴……クレーターって……」


「あ。歩くのに邪魔っぽかったから、直しておいたんだけど……ダメだった?」


「い、いえ、その……ダメでは無いのです……が」


「なんじゃ?」


 みんなでさっきの現場へ向かう。


 うん、一部地面に焼け焦げたような跡が残っているが、それ以外は原形が復元されている。ほぼ使ったことも無い「大地操作」でここまで出来るなんて。最初に使えない魔法だと判断したのを反省しないとな。


「こりゃ……家主としてはありがたい……と感謝しかないの」


「あ。それは良かった。三沢さん、ごめん、アレ、状況証拠として残しておかないとだった?」


「いえ……問題ありません……あそこから判る証拠はほぼ無いに等しいですし。それにしても。村野様は……こんなことも出来るのですね」


「まあ、慣れてなくてこんなだから、もう少し訓練して上達したら、もっと綺麗に直せるかもね」


「は、はあ」


 呆れたような顔は……三沢さんだけではなく、師匠も同様だった。そしてさらに、ほんのちょっとだが、鏑木さんも似たような表情を見せた……気がした。一瞬だけど。





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