121:敵

「陰陽寮は此方を敵だと判断した様ですね」


 包帯を巻いた鏑木さんが開口一番そう告げた。対応はやっ。っていうか、道場では怪我が日常茶飯事で応急処置道具はバッチリらしい。


「社長……良いのですね?」


「ああ。村野様と結んだ時点でその辺は覚悟している。それに元々師匠は嫌いだしな、陰陽寮ヤツらのこと」


「そうじゃな。確かに頃合いやもしれん。昔……な。使い潰された能力者を何人も見てきた。戦って大怪我をした者が、まるでゴミの様に燃やされるところもな。中には武人として一流の実力を持つ者も多かった。ソレを奴らは頑として認めやせんかった。武人としてだけではない。人としても、じゃ」


 師匠が怒ってる。気力が漏れてる。実際……身近で何かあったのだろう。


「現時点で判ってる事をお伝えします。牧野興産ビル上層階喪失事件は、「一級呪」もしくは「超級呪」現象として認定予定。それに関わったとされる星沢警備会社関係者、及び、株式会社堂東商事営業部所属のサラリーマン、村野久伸を拘束し、事情聴取の上、封印。又は消去するという勅命が出たようです」


「封印?」


「封印も消去も……言葉が違うだけで殺害指令です」


「あと……「呪」?」


「古より……日本を襲う外来の敵……の総称です。級は事件が発生した場合のランクの様な感じでしょうか。「呪は海の底より来たり」……ヤツラは人を捕らえ操り、浸食し……攻め込んで来ます。ですがここ最近は出現していません。あれば確実に我々にも情報が入ります。隠しきれるようなものではないので。今回の件はあまりに異様ということで、一級又は超級の「呪」と拡大解釈し認定する様です」


 なんとなくそんな気はしてたんだけど。能力者達は外来のマフィアとか海外組織と戦っていただけじゃない……よな。それこそ、それは近年の話だ。はるか昔には、彼らは海を乗り越えてこなかっただろうし。

 以前、師匠が「何か」と言っていた敵が、その「呪」なのだろう。


「それにしても消去か。相変わらずじゃな。そも。その勅命とは何ぞ? お上が、更に言えば国民が、知らず認めずの組織など、現代日本に存在しないというに」


「そろそろ、「呪」を世に示し、ソレを倒し続けて来た者達の「普通に生きる権利」を認めさせねならないだろ」


 三沢さんも乗り気だ。って、でも。俺的にはちょっと整理したい。

 

「ちょっと簡単にまとめて整理したいんだけど。敵は……誰? 何?」


 一同がキョトンと……こちらも見た。だってなんかよく判らないし。


「あ、ああ、そうですね……そもそも、能力者に関しては鏑木に説明させた方が良いだろうと……後回しになってましたね」


 三沢さんが鏑木さんに目線で促す。多分、ここに来る前にその辺を説明するという打ち合わせは済んでいたのだろう。


「簡単に……まとめます。日本は古来から……先ほどの、「海の底から来る」敵=「呪」に浸食され続けていました。それを食い止めていたのが能力者です」


 鏑木さんが青白い顔で話始める。というか、大丈夫なのかな。グリーンスムージーを飲んだとはいえ。


「その能力者を統べていたのが総領十二家と呼ばれる東北地方の有力豪族、十二の家です。当初がどうだったかは……記録に残っておりません。ですが、太古から能力者は十二家に支配されており……それがつい20年前まで続いてきました」


「つまり……今は、その海の底から来る敵と、海外組織と、さらに、人扱いしていなかったから日本に対して深い恨みを抱いている離反した能力者が……敵と」


「いえ、そう簡単ではありません……完全に敵なのは、「海から来るモノ」のみです。あれはもう、人間の天敵です。ですが他は……」


「そうじゃな。儂らが能力者側に付く……となるとイロイロと難しくなるな」


「はい……海外マフィアは取引次第で敵にも味方にもなりますし、総領十二家のうち生き残っているのは七家。その中でも最低でも一家は能力者側です。そして最大の敵は……先ほどの陰陽寮になります」


「鏑木、陰陽寮に実行能力は無いんじゃなかったのか?」


「これまで……歴史上彼らが直接的な戦力を保持したことはありません。十二家の長として君臨するのみ……でした。が。十二家崩壊後、特にここ最近……陰陽寮直属の能力者が増加しています。システムが……大きく変わり始めているのかもしれません」


 その辺全てに……気力による精神支配が関係してそうなのがもの凄く面倒くさい。


「と、いうことで、我々の敵は……まずは陰陽寮、そしてそれに続く総領六家。さらに……牧野文雄の様な明らかに日本社会の倫理から外れた能力者たち。そして彼らの組織。加えて海外マフィア……といったところか」


 スゲーたくさんいる気がする。


「さらに公権力……国家警察、自衛隊等の国内戦力がどんな感じで関わってくるのか……によって……彼らは海外のマフィア案件に関してはかなり踏み込んで来ますし」


 鏑木さんの顔が曇る。


「こないだのさ、牧野興産の件、警察とかはどんな感じなの?」


「陰陽寮が出てきて、捜査権が移譲された時点で、一切の手を引いてます。これは恒例、慣例通りですね……昔から「呪」という単語が登場したら触れぬことが正しいとされて来ましたし」



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