120:局所
「屋守か」
と、こちらに反応した直後。
次の瞬間。男が……ここまで会話もしていて未だに認識しづらいが、男が、何かを落とした。
「ちっ。こちらへ!」
鏑木さんに腕を掴まれて、後ろに下がらされた。おうふ。後ろからそうやられるとは思っていなかったので油断してしまっていた。バランスが崩れ、そのまま、後ろに投げ出される俺。
俺の盾になる様な感じで鏑木さんが何かを構えた。
念のため、その前に、ブロックで壁を展開した……のだが。
グバンッ!
大地を揺るがす震動。何か光。爆発……だ。懐かしい。というか、日本で爆発物……しかも、これ、小規模というか……局所限定というか。いや、バカ。今は!
倒れ込んできた鏑木さんを支える。
「鏑木さんっ!」
「大丈夫かっ!」
爆発直後。
三沢さんと師匠、そしてメイド二人、エミさんが駆けつけた様だ。
ちっ! 後ろに下がらされたせいで展開が遅れてしまった……。
足元から腰の上あたりまではブロックが間に合ったのだが、上半身を護ることが出来なかった。
鏑木さんはとっさに盾……のようなものを展開した様だが、それがすっかり吹き飛ばされてしまっている。
はじけ飛んだ砂利が当たったのか、鏑木さんの頭から血が出ている。
「鏑木!」
三沢さんに彼を預けた。
この爆発を起こした犯人は既に影も形も無い。
【気配】に集中し、周囲に展開する。それなりに広い範囲で探れるようになっているが、さっきのヤツは認識阻害のスキルか技かを使用していた。
案の定……その存在は知れなかった。まだそれほど遠くへ行っていないだろうから集中してみたのだが、網に引っかからない。
あれ? さっきのヤツ……そして気配……なんか知ってる様な……うーん。思い出せないな。認識阻害で顔とか姿がハッキリしなかったし気のせいかな。気のせいか。
索敵と言うことに関しては俺の能力よりも確実に上にいる様だからな……今は……どうにも出来ないか。
しかし……いきなり、問答無用で殺しにくるのか……日本で。あるんだな。そういう世界が。信じていなかったワケじゃないけど、改めて現実に直面するとため息がでる。
牧野文雄、牧野興産が、特殊じゃなかったんだな。と。
振り向いて、首を横に振る。師匠が頷く。
目の前に立ち上がっていた濛々とした煙、そして埃。それが晴れてくると、現場状況がやっと理解出来た。
駐車場に爆発による1メートル程度の窪みができていた。
師匠の道場の周辺は雑木林だ。民家はないので多分、今の爆発音で誰かが駆けつけるという事も無いだろう。
「爆発の被害は大きく無いですね。……鏑木は運悪く、小石か何かが頭に当たったのでしょう。意識は失ってますが、大した怪我じゃ無いです。念のため後で検査させますが」
鏑木さんは……エミさんとうちの二人が先ほどの離れへ連れて行くようだ。さすがというかなんというか、三人とも慣れてる……な。
「こいつは……純粋に超指向性の高性能爆薬を……改良した感じでしょうかね……。爆発した力を多分、全て上に逃がす事で自分の思い通りの効果範囲を実現するというか。というか、あいつら、最初からこちらを敵認識ですか。腹立たしいな」
「あやつらはとにかく、表に出ることを避けるからな……もう少し追い込めば自らを犠牲にして証拠隠滅しかねん」
自爆テロ有りの狂信者よりも質が悪い。
「鏑木様、意識を取り戻されました」
松戸さんが報告に来た。そして。小さい声で。
「御主人様。念のためアレを飲ませてもよろしいでしょうか?」
ああ。今日はエミさんの治療用にグリーンスムージーを作成して持って来ている。まあ、もう師匠は巻き込みまくってるというか、完全に標的にされちゃってるからなぁ……。迷惑かけちゃってるし。
なので一蓮托生、何かあればってことでいいかな。
「ああ。構わない。エミさんに確認は?」
「もう既に完治していると思う、だそうです。会社の医療関係者からもそう言われたと」
「ならOK。飲ませちゃって」
「かしこまりました」
三沢さんが現場検証を終えた様だ。
「何一つ証拠になりそうなモノは残ってないですね……。師匠、これ、どうします?」
「腹立つなぁ。人の家に穴掘りおって」
まあ、確かに、この道場前の駐車場スペースは広めだが、1メートル程度大きさで、深さが50センチ程度の穴はなかなか大きい。車を停めてある場所の反対側で良かった。
「まあ、それは後でいいじゃろう。敵が判っただけでも良しとするか」
三沢さんと師匠が、離れに戻り始めた。
あ。そういえば。俺「大地操作」使えるや。と思いつつ、この凹んだ跡を「なかったこと」にするようなイメージで、魔術を意識する。
お。相変わらず、時間はかかりそうだが……としばらく集中していたら、いつの間にか目の前の穴が平らになっていた。
うん。爆発による焦げた跡は散見しているが、元々、影響というか、規模が小さい。ここで何かが……という痕跡は消えたと思う。
「大地操作」が初めて役に立った気がする。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます