112:【加速】

「村野様、大丈夫ですか?」


 お。三沢さんが心配してくれてる。ってまあ、そうだよね。明らかに素人だもんね。それが師匠の技で翻弄されてれば心配にもなるわ。


 とりあえず、逆手で手を振って、答えておく。まあ、うん、どうしてくれようかな。


 さすがに「ブロック」はなぁ……大人げないというか、超能力すぎるというか。それに近いことを生身でやられちゃってる以上、それを鍛錬なく似たようなことをされちゃったら……それは違うよなって気がする。


 あ。そういえば。俺、【蹴術】のスキルゲットしてたな……それと……ああ。使ったこと無かったけど【加速】……か。


 ここで使っても違和感が無いスキルはこの二つ……か。ちなみに【受流】【反撃】は既に使ってみたのだけれど、いまいち効果を実感出来なかった。

 というか、スキルは……使う使わないが良く判らないんだよな。【魔術】の呪文みたいなものは無いのかな? 拳闘士に転職した際には、魔術士の時の様な詳細な解説が無かったんだよなぁ。


【拳闘壱】【拳闘弐】って覚えてるのに……


「二撃」が使える様になりました。「三撃」が使える様になりました。

 

 なっ。これ、技か? 技なのか? 前に、技とか無いのかな? って考えた時は何一つ起こらなかったのに。何が違う? というか、【拳闘壱】のことを「ちゃんと」考えないとダメ……なのかな? その加減が良く判らないな……。


 ってことは【蹴術】もこれ自体を考えると……


 「脚回」を使える様になりました。


 お。来た。って、攻撃系の「二撃」「三撃」と違って、「脚回」は脚の回し方、捌き方、動かし方の様だ。

 足での防御や、回避、攻撃の流し方などが瞬時に反応できるようになるらしい。


 おお。これは即実践配備だ。今すぐ使おう、すぐ使おう。


 そもそも、構え自体が変わる。足技を組み込んだ、足技を繰り出すことが前提になっている。


 あれ? 俺今までどんな構えで立ってたっけ? そもそも、棒立ち? ってヤツ?


 松戸さんほどじゃないけれど。ホンの少し身体を斜めにして、足を開く。柔軟に動かせるように後脚を軸にして展開を考える。


 よし。松戸さんや行貞さんよりも、コンパクトにまとめよう。変に大胆な大きな構えをしちゃうと対応、反応が出来ない。ちょっと格好悪くてもいいや。


 俺の構えが変わったのに警戒したのか……行貞さんの動きが様子見に止まっていた。って何か考えがあるんだろうな……俺の構えなんて付け焼き刃だし。


 アレ? そういえば【加速】ってどんな感じになるんだろう? 試してなかったの痛いな……けど、アレだ、超有名なサイボーグ漫画のあれでしょ? あの主人公の使う加速装置と似たような感じでしょ? きっと。あれならアニメで何度か見たことあるからね。

 アレをほんのちょっと、それこそ……半秒くらい発動すれば、動いてる途中で素早くなって、少しは気を引けるんじゃないかな?

 

 よし。とりあえず、やってみるか。


 先ほどまで亡かったパターン。間合いを詰めつつ、ローキック。当然避けられる。さらに間合いを詰めてローキック……次の瞬間、【加速】「半秒」……加速する。


 うおお! 狙い通り、速くなった! だけど、速くなったけれど、自力でコントロール可能だ。避けた相手の足に合わせるように、回し蹴りを繰り出す。


ビシ……


 回し蹴りの途中で「半秒」は終了している。その刹那の隙間で、回し蹴りで狙った足に防御体勢を取られてしまったようだ。くそ。踏み込まれて力を入れられると、どうしても防御力が高くなる。


 ちなみに、「半秒」を使っての小さい回し蹴りに威力があるかどうか……は、正直判らない。行貞さんにダメージを受けた様子は見受けられない。

 多分、攻撃が軽いんだろうな。そりゃそうか。「加速」しちゃってる分、手打ちというか、勢い任せで当てただけというか。


 斜下に突き刺すように足を踏み出す。さっき、「ブロック」の様に足を止められたのを真似て、足先を潰す勢いで一歩を突き刺す。当然の様に避けられたが、それでも若干勢いは弱まった。


 多分、今、踏み込んでからの連続攻撃を考えていたであろう行貞さんが、次の手を打って来る前に、こちらから、さらに、相手の足を踏む勢いで距離を詰める。


 折角手に入れた必殺技……になるかもしれない【加速】は……ここぞという場面で使う事にしよう。あまり頻繁に見せてしまっては、即対策されてしまう。


 ということで、使い所……踏み込んだ先で、肘を当てに行く。その回転の瞬間……ッ半秒だけ【加速】を発動させた。

 

 そもそも、自分の肉体はレベルアップで頑強になってきている。それこそ、普通の人間との勝負なら、例え達人との勝負でも当り負けしないハズ……と願いながら、振り抜く。


 一瞬とはいえ、そのインパクト直前からの【加速】は、達人に避ける余裕を与えなかった様だ。


ビッ!


 あ。やばっ。今のは……なんか、骨が……いった? というか、既に動いていて、行貞さんのどの部分に当たったかが良く判らない。


(くっ……)

 

 速い……俺の【加速】状態ほどじゃないにしても、既に懐に入りこなれている。俺がやったことを逆手に……って……。


 こいつは……。


 気力か? 使ってる?




 

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