113:残存気力
部分部分だ。俺が「半秒」だけ【加速】を使った様に、行貞さんも要所要所で気力を使用している……。
「なんとか受けに使える程度といったところでな」
嘘じゃん。受け=防御にだけ使える……みたいなことを言っておいて、数瞬とはいえ、ちゃんと攻撃にも乗せてきている。
無意識……じゃないよな。まあ、駆引きの一つ……なんだろうな。さすが達人。一筋縄じゃいかないってことか。
ここぞというタイミングで確実に、気力を纏った突き、そして蹴りが繰り出される。
もう、こちらは完全に防戦一方だ。さっきの直撃一回で完全に本気になってしまわれた様だ。
不味いことになった……と思ったのだが、防御に専念しはじめたら、それなりに対応出来ている自分に驚いていた。
考えて見れば、【盾術】【受流】【反撃】【加速】なんていう防御向きのスキルを習得している。
正直【盾術】は盾を持っていない為にちゃんと発動はしていないと思う。が。腕を盾に見立てて防御姿勢を取り始めると、なんとなく「攻撃を受けやすい」気がするのだ。まずは、これで相手の攻撃を受ける。
【反撃】は……正直、そこまで余裕が無い。未だ激しい攻撃に対応出来ていないのでちょっと置いておこう。
で。そこから先。達人レベルの攻撃を【盾術】で弾き、さらに避け続けられているのは、【受流】と【加速】「1/4秒」の組み合わせだ。
実際にここまで相性が良いとは思わなかった。
俺が今、「拳闘士」という天職に就いているからかもしれないが、こうして一対一で対峙している相手の挙動の理解が早い気がする。
行貞さんが次に繰り出してくる攻撃を予想することは正直、難しい。それはもう、達人レベルの能力が無ければ不可能だろう。所謂、訓練、経験、そして勘なんていう総合経験値が高く無ければどうにもならないハズだ。幾らスキルでもそこは埋められない。未来予知とか出来ればまた、違うんだろうけど。
だが、来た瞬間に即対応……は出来ていると思う。
あっさり懐に踏み込まれる。そこで繰り出されるモーションの小さい掌底。
それを【盾術】を意識した肘で、ギリギリ弾き、さらに繰り出された「気力」を纏った掌を【受流】で方向や力、流れを判断して、その方向へ「1/4秒」【加速】する。
ここまでやって、なんとか。なんとか、だ。
悔しいかな、最後の【加速】の後に【反撃】を行うことが出来ない。というか、それを意識する隙が無く、連続した攻撃を仕掛けられている。
……それにしても。間が空かないな……。
この手の武術家の行う連続攻撃は、そう簡単に発動することが出来ない……というのを本で読んだ覚えがある。
そして、こうして実際に自分が戦うようになって、連続攻撃がどれだけ大変か身体で理解している。
それこそ、【拳闘壱】【拳闘弐】の技? が「二撃」「三撃」という、連続攻撃っぽいものなのも、それだけ、大変だからなのだろう。
ボクシングの中継とかを見てて、なんとなく、もっと連続攻撃すれば良いのに……なんて考えていたのを申し訳なく思う。
右、左……とパンチを繰り出すだけでも大変というか、難しいというか。さらに、急所目掛けてそれを「当てる」のはさらに難しい。
ビシッ!
ぐっ。流せなかった。しかも今のは気力をかなり濃く纏った一撃だった。
行貞さんは拳と掌底を織り交ぜて……いや、さらに、拳も、固く握った拳と、柔らかく握った拳……なんて感じで、複雑に効果を変えてきている。これを避けられているうちは良いのだが、間に合わない場合は、その打撃の種類に合わせて、対応しなければ、大ダメージを受けてしまう。
折れてはいない。だけど時間の問題だろう。じり貧だな……。
とはいえ、ここまでのラッシュは……さすがの達人でも限界が来るはずだ。
なんて考えていると、動きが……止まった。あ、諦めてくれたのかな?
目を見る。ふう……そんなことないや。
若干離れて構えた行貞さんが……さらに拳を前にした、明らかに攻撃性の高い構えを……っていや、それは……。
「止めましょう。稽古だったはずです」
その時、自分に可能だと思えた最大の【加速】を使用して、構えの直前に移動し、その両腕を掴んで、そう伝えた。
いま、行貞さんが使用しようと準備していたのは、多分……彼が現時点で使用出来る全ての気力だ。
それはヤバい。というか、アレだ、俺が一回失敗して命を落としかけたアレだ。
行貞さんが気力に対してはそこまででは無い……というのは確かにその通りだったのだろう。
今、勢いで技を放ってしまったら、そのまま倒れて、今際の際を彷徨うことになっていた……可能性が高い。
気力の扱い、コントロール、制御に関しては俺もまだまだ未熟というか、いまいち判っていない。
だが、今のがヤバいのだけは理解できた。ひょっとして「拳闘士」という天職だからこそ、気力について感じやすくなっているのかもしれない。
行貞さんが纏っていたオーラみたいのも見えたしね。
良く判らないけど……もあもあしてた明るい光が「気」で。それを何か戦闘等に使用出来る様にしたのが「気力」……なのかな。
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