106:お帰りなさいませ
会社。仕事中にもイロイロと考えてしまう。
現在の仕事は、既に細かいところでプロジェクトが実働、動き始めている。
俺の提案した大量のコンセプトまとめや企画書は圧倒的な速度と物量で他を圧倒し、さらに森下社長の後押しもあって、契約は締結。
ただ、あまりに規模が大きいという事で、親会社が各種契約を仲介するという面倒なことになったが、彼らには名をということで、実際の利益は我が社に落ちる筋道が出来た様だ。
なので、現状、プロジェクトを提案した我が部署は細かい調整書、仕様書を作成する仕事に移行している。さらにその仕様書は多方面にチェックを受けて、訂正される。その内容をすり合わせて、妥協点を探り……向上させようとしている。
とまあ、うん、よくある新規事業立ち上げ業務だ。初動が早かったせいで余裕のある進行となっているため、かなりイイ感じにまとまりそうだ。
なのでかどうかしらないが、これまでやっていた営業業務は常連さん、馴染みの担当会社以外は手を出さなくて良いとなった。
そりゃ……楽ちんだよね。自販機のコーヒー片手に、企画でも練り込んでいる様な振りで考える。
それにしてもちょっと考え忘れていた事がある。
俺は……ついこないだ(現実時間)、魔術士、迷宮創造主が一気にレベルアップした。
というか、
魔術士レベル9→32
迷宮創造主レベル12→25
というムチャクチャな飛び級、飛びレベルだ。
このレベルアップの主な原因は、牧野興産戦だ。特に経験値が高かったであろうと思えるのは、対人戦、そして結果としての殺人だ。
その結果、大量の経験値を入手した……ということになる。
さて。問題はなぜ、大量の経験値を得られたのか。だ。
まずは、経験値の相場が地球世界とダンジョン世界で違う可能性。
これは多少はあるかもしれないが、そこまでではないと予想する。
なぜなら、今回の牧野興産戦の前の……チンピラギャング戦で得た経験値は、それほどではなかった。というか、今回の様な大幅レベルアップは無かった。実は多少あったかもしれないが、体感しなかった。
つまり、現実世界で戦闘行為を行ったり、殺人を行うと、経験値どっさりの法則は無い。
となると、戦った相手の質……ということになる。
分配方法は良く判らないが(なんとなくだけど)、能力者との戦闘が大きかったんじゃ無いか? と思う。
つまり、気力や、魔力などの「能力」を持つ者と戦って勝つ。さらに現在の自分にとっての強敵と戦って勝つ。
これなのかなぁ。レベルアップへの早道は。現状の俺に足りない経験値はそこにあったか。
まあ、当然、あったからって、んじゃそこに稼ぎにいきますね~とはいかないわけで。強敵と書いて友と読む。そんな相手が次から次へと登場しちゃうようじゃ心が安まらないし。
現状……三沢さんからの報告に寄れば、各種調査機関が、牧野興産の調査を行っているらしい。
が。それら全ての機関の報告書の最終結論が尽く、原因不明となっているそうだ。良かった。
さらに、三沢さんには、その調査を行っている機関の「調査」もお願いしている。
(特に……牧野文雄との戦いだろうなぁ。あれ、かなり疲れたもんな)
能力者との戦闘は、技と技の応酬。初見殺し合いだ。極論で言えば、先に見敵できた方の勝ち。
以前に忍術合戦を描いた小説を読んだことがある。甲賀と伊賀の戦いだったかな?
忍者が忍術を使って戦うのだが、如何にして自らの忍術で相手を塗りつぶすのか? が戦闘の基本になっていた。「いつから仕掛けられていたか気付いていたか?」ってやつだ。
まあ、俺もいつ仕掛けられても対応出来る様に、現在も警戒している。
その結果、【気配】はメキメキと上昇していると思う。悪意には特に遠距離でも察知できている(敵意と害意は「俺」自身に対するモノなので、早々感じることは無い)。
そんな仕事状況なので、確認作業終了後、早々に帰宅する。
レベルは上がらない、上がりにくいとはいえ……まだ一日目(現実世界では)だ。諦めるワケにはいかんですからね。
「お帰りなさいませ」
!
「ちょ……ちょっとまった……」
お出迎え。目の前に、玄関で出迎えるメイドが二人。
そう。何がどうなっているか判らないけれど、目の前にメイド……さんが二人。濃い茶と白のコントラスト……。折り目正しく、長袖、ロングスカート、その上に白いフリル付きの白エプロン。
エロくは無い。うん。中世世界から抜け出てきたようなクラシカルなデザイン。あの時代のイギリスなイメージなのかな? それは。
「そ、その服装は?」
「お帰りなさいませ、御主人様」
松戸さんと森下さんが頭を下げる。
どういうこと?
森下さんが、俺の上着を脱がしにかかる。っていつの間にそんなことを? どういうこと? というか、そういうのってどこで覚えたの? それ。
「だから、どういうこと?」
「私たち二人の主な仕事は、使用人、お手伝い、ボディーガードとのことでしたので」
「うん、だから?」
「日本でお手伝い=メイドといえば。これかと」
「いやいやいやいや……」
「お嫌いですか?」
いや、二人でポーズを取らなくていいから……。
「似合っているとは思います、よ?」
二人が極上の笑顔を浮かべた。
「ありがとうございます」
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