103:拳闘士

「シロ、俺は次は拳闘士になろうと思うよ」


「判ったのよぅ。断らなくていいのよぅ」


 マルチモニターを選択して、転職……拳闘士……と想像した。


 お。何かが切り替わった……気がした。転職によって、レベルは1からになるが、マイナスは無い、多分、能力値全般は下がったりしない的な……と聞いた通り、身体の動きなんかは変わらない。

 

 さらに、人型のアイコンに触れる。


名前 村野久伸むらの ひさのぶ


天職 拳闘士

階位 1

体力 24 魔力 76 


天職スキル:【先先】【拳闘壱】


=隠蔽=========

天職 迷宮創造主ダンジョンマスター

階位 25

体力 25 魔力 100 


天職スキル:【迷宮】【結界】【鑑定】【倉庫】【収納】


習得スキル:

【気配】【剣術】【盾術】【受流】【反撃】【隠形】【加速】【棒術】

=隠蔽=========


 あ。そうか。こうなると【魔術】は使え無く……あれ? 使えそうだな。


 んん?  でも、スゲー使いにくい、妨害されてる感じがする。ひょっとして、これも習得できるのかな? スキルとして。


 とりあえず、リハビリに使っていた川&温泉エリアでいいだろう。リハビリ階層とはいえ、それなりに広い。訓練用のスペースもちゃんと用意してあるしね。


「シロ……跳ばして」


「あいなのよぅ」


 着くなり、【魔術】を意識してみる。


ゲブッ……


 ぐあっ! ……なんだこれ。吐き気と共に、凄まじく大量のイメージが頭の中に流れ込む。

 今、思い浮かべたのは「風刃」。魔術士だった時は当たり前の様に使えた。初歩の初歩だ。

 レベル32最大二十程度、同時(厳密には同時と思えるくらいの速度で順番)に展開出来ていた術だ。


 くっ……頭痛が酷いことになる。ダメだ、複数展開なんてもっての外だ。完了確認せずに、早々に前方に撃ち出してしまう。


ガサッ


「風刃」が植えてあった木の枝を落とした。


 ふう……力が抜けた。これが……スキル無しで魔術を使うということなのか。キツイ。


 とはいえ……使わないと実験にならないもんな……と思って、今度は「火球」を思い浮かべる。


 ぐふっ……こ、これは……また……火の球を生成するというイメージに伴う、様々な情報が頭の中をグルグルと蠢く。蠢かれるたびに脳が焼ける気がする。これは……どうにも……。ぐぐぐぐぐ。


「ちっ」


 舌打ちと共に、火球を撃ち出す。目の前にあった大木にぶち当たり、その表面を漕がし、木の皮を抉って火が飛び散った。


 明らかに威力が弱い。


 さらに高温の炎っていうイメージが出来ていない。なので、全てを燃え尽くすような火球……は放ててない。


 しかも……今気付いたが、術が発動するまでの時間が……長い。

 自分が苦しんでいた時間がそのまま、詠唱時間というか、準備時間になってしまっている。


 発動までが一番早いと思われる「風刃」ですら……今、十五秒以上は必要だった。


「実戦での使用は厳しいぞ、こりゃ」


 現実問題、ファーストブレイク、初撃不意打ちで使用する分にはどうにでもなるだろうけど、近接戦闘中に魔術を使用するのは無しだ。

 しかも「少しでも」動きながらなんていうのも無理だ。魔術士だったころは、ある程度場所移動しながら術を放つことが可能だったんだけど。


 つまり、これは……魔術士の基本スキル【平静】や【魔術壱】【魔術弐】なんていうスキルが非常に大きい影響を与えていたっていうことなんだろう。


 スキルが無ければ、魔術の実戦での使用は中々難しいのだ。


 ってあれ? そういえば、魔術士って言うのは盾を持った戦士に護られて、長時間の呪文詠唱の末に、大ダメージを与える職じゃなかったっけ? そっちが普通だよね? 


 そっか。つまり、俺が異端か。本来は……この戦い方は、魔法剣士とかそういうのかな。


 魔術士の天職を持つ者って結構、生きにくいというか、肉盾となる仲間が必要というか、ぼっちな自分にはちょっと……というか。まあ、複雑な心持ちになってしまった。


 その後、数度、呪文を唱えてみる。それこそ、【魔術壱】で覚える


地:大地操作

水:水生成 回復水

火:着火 火球

風:風刃


 の全てを使ってみたが……一瞬でどうにかなる水生成、着火、以外は全て、凄まじい苦痛と吐き気、さらに脳の奥の焼き切れる様な感覚に襲われた。


 しかもそれが数十秒続くのだ。


 元々俺は苦痛には強い方だと思う。


 直接的な痛みを切り分けて、論理的に判断。今すぐ痛いのはどこ、もう少ししたら痛いのはここ……なんて感じで分散化することで痛みを鈍化させる事ができる(と信じている)のだ。 


 それこそ、何か一つのことを淡々とこなす事にあまり苦痛を覚えない。

 工場などに勤めてライン工として働くのがベストなんじゃ無いか? と思った事は無数にある。一度や二度じゃない。


 何ごとでも繰り返すウチに、感情を抑えて、苦痛を薄めることができるのが俺の長所だと思っていた。

 それこそ、ついこないだのリハビリで「六角棒」を振り、「紫雷のケスタス」を装備して、シャドウボクシングもどきを延々と繰り返したのも、別に大したことだとは思っていない。


 その俺が。毎回、呪文を使うたびに受けるその苦痛に身体が慣れない。


 これは……転職するまで【魔術】を使うのは難しいな……。


 攻撃関係は、新たに転職した「拳闘士」に期待するとして。


 回復水の生成が難しいという事になる。つまり、あのグリーンスムージーの主成分の入手が難しいのは辛い。


 三沢さんたちの関係を考えれば、アレが大量に必要なんて自体にはならないとは思うけど……。


 


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