101:翼を授ける系×
到着直前に用意しておいたグリーンスムージーを松戸さんが運んできてくれた。
あ。ヤガンさんの顔色が変わった。松戸、森下の存在に気がついた……な。あれ? 三沢さんから聞いてなかったのかな?
「とりあえず、どうぞ」
「ありがとうございます。これが上手いんだよなぁ」
「ええ」
これ見よがしに、三沢さんとエミさんがグラスを傾ける。ヤガンさんは二人が気になるみたいだが、とりあえず、危険は無いと判断したのか、自分もグラスを持った。
「アイちゃん、これでエミは体調が回復したんだ。まあ、効果は人によるだろうけど、身体に悪いモノは入っていない……でしたよね? 村野様」
「ええ。それだけは保証しますよ。自分なんて何度も飲んでますし」
そう言って、俺もグラスを空ける。
「お、おお……これは……美味しい。申し訳ない、自分はこの手の野菜ジューズが苦手で……これまで敬遠していたのですが……アイ、これは美味いぞ」
ヤガンさんも一気に飲み干してしまった。
「最近はこの手の飲み物もあまり受け付けないのは判っているけど、飲んでみて少しでも体調が上向きになれば良いなと思ってさ、ボスからエミの話を聞いて、すぐに君にと思ってしまって……」
アイさんはグラスを見つめている。そうか。食べられる物とか少なくなってしまって辛いんだろうな……。よく見なくても手首や首筋が骨張っている。病人独特の痩せ方だ。
「ありがとう、ヤガン。すいません、いただきます」
アイさんが一口。口に含んだ。
「本当……美味しい……」
そう呟くと……ピッチが上がった。ごくごくと口にしていく。
さすがに一気に……とはいかなかったが、あっという間に一杯飲んでしまった。
「もう少し飲みますか? 御病気だと聞いていたのでアイさんのグラスは見ての通り、少々細目のものにしたんですよね」
アイさんが頷いた。
「ああ。こ、これだけでも来て良かった……アイが飲みたいとか食べたいとか言うのは……数年ぶりだと思います」
ヤガンさんが若干涙ぐんでいる。
再度、グリーンスムージーを用意してもらった。いくら最近食事が不自由になりつつある病人でも、これ位なら体調を壊すことは無いだろう。
若干便通が良くなるくらいか。まあ、そりゃ繊維質多いしね。
「お、美味しかったです。本当に。普通のグリーンスムージーとは違います……よね」
「ええ。違います。でなければここまで御足労いただきませんよ」
「三沢さん……あの。エミさんの怪我はどれくらい良くなったんですか?」
こうなると気になるよね。というか、アイさんの目から生命力が溢れている。なんていうか、好奇心というか、探究心というか……何かが切り替わったかの様な表情をしている。
ああ、彼女は病気に犯される前にはこんな感じの快活女性だったのだろう。その片鱗が垣間見えている。
グスン……
あ。既にヤガンさんんが、アイさんの顔を見て、涙ぐんでいる。いやいや、なんか、ここで泣いちゃったら、「死ぬ前に一瞬生気を取り戻した達人」的な感じで、命燃え尽きて死亡フラグ立っちゃうから。
「アイは……確か私の傷を見たことあったわよね?」
「はい、確か……4年位前でしょうか? 一緒に温泉に行った時に……」
「なら……村野様、また、レストルームをお借りしても?」
「ええ、どうぞ」
松戸さんに案内をお願いする。
「村野様……でよろしいですか?」
「ええ。本当は様じゃなくていいんですが、貴方のボスである三沢さんが俺の事を様付けですものね……しょうがないですよね」
「いえ……あの、今回は本当にありがとうございます。どう考えても極秘扱いの物を妻のために……」
ヤガンさんが立ち上がって頭を下げた。しかも、軽くではなく、日本式の深々とした御辞儀だ。
「いえいえ、気にしなくていいですよ。俺は必要以上に目立つつもりは無いんですが、自分の身内や味方に対して「出し惜しみ」するのだけは、自分で自分を許せないので」
何かしておけば良かった……と想い続けるのは両親の事故の件で十分味わった。オモチャ屋で泣いたのでもう、お腹いっぱいだ。
なので、できる限りのことはしようと思っている。そのせいで何か面倒毎に巻き込まれるのなら、仕方ないだろう。
というか、既に巻き込まれすぎている。そして自ら大きくかき混ぜてしまった。
今さら……多少のことは……グリーンスムージーで大事にならない……よな。多分。
「な。ヤガン。そういう事だよ。俺達は俺達に出来る事で村野様に恩返しをしていけば良い」
「ええ。そうですね。お願いします」
「はっ。それで……あの聞きにくいのですが……先ほどの女性二人は……その……」
「
「ああ。実際に戦うところは見たことが無いが。ヤツの護衛として常に張り付いていた。助けた女の中に戦える者がいて……とは聞いていたが、それが既に動けて、その上ここにいるなんて聞いていないぞ? ボス」
「それは……いや、それもこれもこのグリーンスムージーのせいだな。彼女達二人は当初、身動き出来ないレベルの怪我をしていた。それが、たった三日休養していただけで、回復。何一つ異常が無いと大学病院の検査機器が証明してくれたよ」
三沢さんがその辺の説明をしてくれる。楽だ。良かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます