100:派遣社員
三沢さんに連絡を入れて、彼女たちの生活用品を買って来てもらうことにした。
あれ? そういえば、そういえばさ。
「森下さんって……森下社長とは関係ないよね? 同姓だけど」
「森下社長というのは、株式会社ファーベルの森下大悟様でしょうか? 今回、御主人様が牧野興産に関わるキッカケとなった」
松戸さんが答える。頷く。
森下さんが首を横に振った。
「ございません。ただ、過去に森下の父親が三沢社長と関係があったようですが……」
へーそうなのか。
「言い辛いことかもだけどさ。今回のファーベルとの件で、君たち二人は「実戦」に加わった?」
「加わっておりません。我々は……ヤツの奥の手でありましたので……御主人様との戦闘が今年初の戦闘となりました」
ならよかった。何か遺恨が残ってたら厄介だしな。
というか、隠されてたんだろうなぁ。この二人……見た目重視な部下に思われるだろうし。
「御主人様、現在、リハビリ待機状態なのですが……肉体のセルフチェックの結果、既に十全な状態と思われます」
「ん? どういうこと?」
「既に傷は癒えています。ストレッチ以外の運動の許可を頂きたいのですが……」
……一般人はそこまで運動しないよね……ってここで言ってるのは散歩やマラソンとかジョギング……じゃないよな……。
「運動って……ジムとか?」
「それが理想ですが……現状ここから動くのは得策では無いと理解しています。なので部屋で本格的なストレッチ、筋トレをしてかまわないでしょうか? その場合、シャワー等の使用頻度が上がってしまうかと思いまして」
「う、うん、いいけど……別に機材とか使用しないタイプの筋トレだよね?」
「はい」
「なら気にしなくていい。というか、これからの話をしようか。しばらく……いつまでになるか判らないけど、俺は君たちを雇用するのがベストだと思うんだが」
「はい。それは形式的にですね?」
「形式的にも実質的にも……だな。現在、三沢さんに君たちの「身分」を用意してもらっている。多分……顔立ちから大陸系帰化外国人になるのかな。これはどうにもならない」
二人が神妙な顔で頷く。
まあ、そりゃそうだよね。精神的に支配されていてさらに薬を使用されていた……としても、彼女たち二人はかなりの数の人間を殺している。大雑把に聞いたところ、二十人程度は確実らしい。怪我や重症者は数え切れない。正直、その辺の過去を考えると、二人一緒に行動させたくないのが本音だ。
「仕事は……正直必要無いんだけど、うちのガードマン&お手伝いということでお願いしたい」
正直ガードマンは「結界」があるので必要無いのだが……そう言っておいた方が彼女達に存在価値が生まれるかなと。
「ガードマンは……現状敵が存在しないと思うので、保留で、まずは使用人だな。家事全般は任せることになる。その際、外に出るのは、各種交渉が可能な松戸さんで。現状、普通に話せない以上、森下さんは家から出ないでほしい。そもそも、二人の容姿は日本では歩いているだけで目立ちすぎる」
高身長な上に手足が長く、どこからどう見てもモデルさんだ。
「了解しました」
彼女たちが知っていた口座番号、パスワード、さらに証券口座のアクセスキーなどの牧野興産の裏財産は……すでに三沢さんに預けてしまった。適度に資産運用してくれるそうだ。利益は儲かった分から天引きされる。
で、それを担保に……じゃないが、彼女たちの身分の確立と雇用をお願いした。
なので、彼女たち二人は三沢さんの会社から派遣されたニュータイプの警備員という肩書きになる。給料もそちらから支払われ、俺は三沢さんに毎月のセキュリティ&家事代行費用を振り込む。という仕組みだ。
……このシステム、エミさんが契約書の単純化等を含めて、数時間で構築したらしい。恩人のために張り切っていた……そうだ。
「正直、買い物のために、松戸さんの外出は認める……けれど、なるべく回数は減らして欲しい。髪型を変えて化粧も変えてである程度ごまかせるとは思うけど……どこに目があるか判らないしね」
「はい」
特に二人一緒に行動するのはダメだ。
「まあ、寝ていなくて良いくらい回復しているかもしれないけれど、戸籍や身分証明、カードなんかが出来るまでは大人しくしてて。あ。今まで使っていたネット通販やサイトのアドレスなんかは既に使えなくなっているし、アクセスしたりしないで欲しいってさ。なので、自分で通販利用はNG」
「はい。了解しました」
しばらくして……三沢さん達が到着した。三沢さんとエミさん。そこに二人追加だ。ヤガンさんと、その奥さんのアイさんだ。
「彼はヤガン・マーシュ……業界では「シャープエッジ」ヤガン・マドロスと呼ばれている。うちの会社には勿体ない、超一流の傭兵です」
三沢さんに紹介されたのは、ごく普通の茶髪の欧米人……眼鏡をかけていてどこぞのIT関連の経営者と言われれば納得してしまいそうな男だった。
年齢は三十歳半ばといったところだろうか? その奥さんのアイさんは小柄で……非常に若く見える。
頭を下げた彼が顔を上げる。トムクルーズ系とでも言えばいいのか? 正統派の海外イケメンだ。
「マーシュ? マドロス?」
「ああ、マドロスは偽名です。自分の出身地ではマーシュは少々厄介な家名でして。なので、若い頃から違う姓を名乗っていたのが残ってしまって」
何か意味があるわけではないのね。
「彼女が私の妻のアイです」
アイさんが頭を下げた。緊張してる? いや、若干症状が見え隠れしているのか。現在は小康状態が続いているが、一時期はベッドから起き上がれなかったらしいし。
「いらっしゃい。まずはお座り下さい。話をするのは……自慢のグリーンスムージーを召し上がってもらってから……にしましょうか」
ドアの脇に立っていた森下さんに目で合図を送る。一礼して彼女が出て行った。
こういうのもいらないって言ったんだけど、「使用人として譲れない」と頑なに拒否された。
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