093:感動シーン
彼女たちの診断結果は「若干の腫れ」があるものの、異常無しとのことだった。というか、傷跡がほぼ見つからなかったそうだ。
あれ? おかしいな。折ったよね? 俺が。特に松戸さんの右手とか。かなり派手に。他にもイロイロと……?
「御主人様、だから、あのグリーンスムージーです。アレを飲んでから異様に体調が良くなりましたから。腫れが引いてゆく感覚なんて初めて味わいました」
森下さんが大きく頷く。確かに彼女の首筋にあった凍傷も奇麗に消えている。
そうか〜まあ、多少は回復するかなと思ったけど、そんな劇的だとは思わないじゃない。
病院では、三沢さんと、えーと、秘書兼連絡係のエミ、エミ・ローレンバーグさんも同席してくれていた。そこは三沢さんの会社が懇意にしていて、内緒の治療や検査を請け負ってくれるらしい。
「村野様、ちょっと宜しいですか?」
あれ? 三沢さんの顔が妙にシリアスだ。
エミさんはイロイロと後処置をして、車を回してくれるそうだ。今はそれを待っている。
「松戸さんに聞いたのですが。何でも妙薬があると」
彼女達には三沢さんには本当の事を言って良いと伝えてある。妙薬か。タダのグリーンスムージーなんだけどな。
「お願いがあります。その妙薬を一人分いただけませんか?」
「?」
「実は、五年前、エミは爆発に巻き込まれて、重傷。大火傷を負いまして。右下半身に酷い跡が残っています。森下さんの凍傷が無くなったのでもしやと思いまして」
ああ、まあ、身内に出し惜しみする気は無いなら良いけど。
ひょっとして、森下さんの凍傷って、首筋だけでなく服の下とかもスゴかったのだろうか? あの娘、全裸だったしな。あの時。
「所詮、身体に良い食材を使った、グリーンスムージーですから、効き目は個人差あると思いますよ?」
「ええ、構いません。少しでも可能性があるのなら。賭けてみたいのです。重度のため、皮膚移植を繰り返すもままならず、引き攣りや、疼きが当たり前。さらに怪我の後遺症で右脚が上手く曲がらないため……本来は普通に生活するのも辛いはずなのです。本人の努力でカバーしてますが」
「そんなに……」
そうは見えなかった。というか、確かに言われてみれば、右を庇う様な感じだったけど……至って普通に見えた。
というか、「敵か味方か」判らない俺に、弱点を見せないのは当たり前か……。そういえば、彼女は常に椅子に座っていたな。歩く様子すらまともに見たこと無かったわ。
「判りました。まあ、多少良くなる可能性がある……程度の効果でよろしければ」
「はい。彼女にはそのくらいと言っておきます」
作ってすぐだと効果アップとかあるかもしれないので、自宅に来てもらうことにした。
というか……よく考えなくても、こんなに自宅に人を招き入れるのは数年ぶりだ。前彼女以来か。元裸女二人と、傭兵二人っていうバリエーションには苦笑しか浮かばないけれど。
三沢さんとエミさんは、車で病院から送ってくれたついでという感じで、うちに寄った。
ちなみに、うちのガレージには現在、自家用車は存在しない。元豪邸だけあってそこそこ大きめな車二台分のスペースがあるのだが。いつだか乗ったママチャリが置いてあるだけだ。
なので、若干装甲車みたいな特注SUVでも普通に駐車可能だ。
松戸、森下の時と同じ様に、玄関すぐの応接スペースに通す。
松戸&森下は部屋で休んでいて良いと言ったのに、私たちはできる限りお側に等と言い、玄関の端で立っている。威圧感強いよ……それ。
ああ、確かにこうして注意して見るとエミさんは若干右脚を庇って歩行している。しかも、確かに結構重傷だったようだ。
凄いな……これを俺に気付かれずにいたのか。別に自画自賛じゃ無いが、【気配】やレベルアップのおかげで俺の感知能力は異常だ。
悪意を持ったヤツに比べて、中立や善意派閥の人たちは後回しになってしまうが、それでも、俺の周辺感知能力は、以前の俺、つまり普通の人間に比べればとんでもない。
つまりは、よほどのウィークポイントとして考えて、それを補う訓練もしたのかもしれない。
まあ、大変だったろうな。少しでも良くなればいいか。
二人に飲ませたのと同じグリーンスムージーを用意した。ここまでに、自然な会話の流れで、健康に良い飲み物があるという話になっている。なので、俺も三沢さんも一緒に飲む。
エミさんは、この手の治療薬に敏感になっているらしく、効かなかったらイヤだなと思った俺が、そうしてもらったのだ。
「お。これは美味しいですね……」
「本当……美味しい」
エミさんは外見はバリバリ外国人なのだが、日本語は日本人よりもバリバリだ。三沢さんとの会話を聞いていると、日本人よりも敬語や丁寧語、謙遜語が完璧な気がする。
電話だったら確実にその外見を想像出来ないだろう。
「……村野様……こ、これ……」
ん? 三沢さんが指さしたのは自分の左手……だ。三沢さんの左手首のちょい上には、大きな切り傷が……あったのだ。
戦場で尖った鉄骨に引っかかって切れてしまったそうで、かなり派手にやってしまい、傷跡が消えなかったという。
それが。既に薄い線が残って……ああ! 目の前で消えた……。
ハッ! とした顔、目を見開いて、三沢さんがエミさんを見る。
いきなり見られたエミさんが……首をかしげ……たと思った瞬間。自分の右腰から脚を手で触った。
「え? な、何これ……」
スッと立ち上がった。あ。さっきまでの彼女にあった引っかかる感じの挙動が無い。
「あ、あの、村野様、れ、レストルームをお借りしても……」
「ええ。松戸さん、案内してあげてくれる?」
「はっ」
いやいや……イチイチ、礼はいらないってば。固い、固いよ……。
それほど時間は掛からず。駆け込むように彼女が戻ってきた。
「社長、あ、あの、あの……無いの。き、傷跡が……あの……」
戻ってきたエミさんは非常に判り易く動転してた。クールな、表情を崩さない彼女からは想像が出来ない。
「ほ、本当に治ったのか?」
三沢さんと顔を合わせて、何か思うところがあったのが、彼女は既にボロボロと涙をこぼしている。
「あ、脚が動くの……引っかからないし、変に熱を持ったりしない……何よりも、皮膚が……移植でボロボロだったのが……何も無かったように……」
「なんだって? 本当に? 本当なのか?」
頷く、エミさん。
「あぁ……タクヤ……」
あっという間に、熱い抱擁が交わされてるのだが、別に嫌な感じでは無い。二人とも号泣だしな。まあ、映画の感動シーンで良くある感じ?
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