088:電車移動
三沢さんの会社……星沢警備会社からの帰り道。さっきの会話を思い出していた。
「提案させてください。今後どの様な展開になるか判らない状況ではありますが……村野様とは共同戦線を張らせていただければ幸いかと。個人と会社ではありますが、同盟と思っていただいても問題ありません」
スゴイ提案だよなぁ……。これ、完全に、俺の様な個人とする契約内容じゃないもんな。なんでそこまで……とも思ったんだけど……まあ、それはそれで仕方ないか。
三沢さんは……昨日の夜、牧野興産に対して俺が何かをしたことを知っている。というか、襲撃したことを知っている。偵察部隊を引き上げさせたりして、思い切り「匂わせた」しね。
どんなに鈍感な人でも、ああいう会話や一連の流れがあった後で、廃工場が更地になり、本社ビルの上層階が消失したのだ。
関係ないと嘘を言うのは簡単だが……まあ、無理がある。
それが判った上で。それを俺がどうやって行ったのかを聞かぬまま。下につく、傘下に入るではなく、連合、同盟なんていう、共同戦線を張ることを提案してきた。
これは多分……「我々は味方だ」宣言と取っていいだろう。最初、どうしてそういう感じになったのか判らなかったが……よく考えればまあ、そりゃそうかとなる。
三沢さんたちは……多分、怖かったんだと思う。未知の力、超能力のことは知っていても、話を聞くに、あんな大規模な力ではないらしい。
そりゃそうか。
俺が昨日使った力を……軍施設に使えば、一瞬でその施設を無力化できる。怖いな。うん。
結果から想定した俺個人の戦力に対してどういう態度を取るかの選択肢を上げてみる。
俺と敵対=謎の力と直接戦闘を含め、牧野興産と同じく一瞬で消し去られる可能性も考えて戦う必要あり。
俺から事情を聞く=事情を聞いたところで謎の力だと言われれば、そこまで。俺が自分の力を隠しているのは明らかなので、心象が悪くなる可能性が高い。敵対に移行する可能性あり。
普通に考えて、三沢さんたちの選択はこの二つだろう。元々俺は、三人娘の依頼をしてきた森下社長という依頼主側の人間だ。
なので、いくら強大な力を目の当たりしたといっても、俺がいきなり敵対行動を取るとは思わないだろう。
現実にアプリで連絡は取り合えているのだから、話は簡単だ。残されている選択肢は一つ。事情を聞く。のみだ。
だが、三沢さんは、「事情など、どうでも良い、俺の能力の詳細などどうでもいい」と、力が存在する事実のみで、その次の選択肢を提案してきた。
俺と同盟=俺の情報……幾つかの秘密を掴んでしまった三沢さんたちに、俺の力が向く可能性を無くしたかった。一緒に行動したり話をしたりするうちに、事情なんて伝わってしまうのだから、今の時点で知る必要は無い。とりあえず、俺と敵対さえしなければいいのだから。
お見事。正直、俺はそこまで好戦的じゃないんだけど、彼らは俺の為人を知らない。力を見せつけられたら、「そうなるかもしれない」と考えるのは当然だろう。
ミスしてしまえば……後で後悔できない事態に陥っている可能性もあるのだ。
俺に様付けして、優良顧客的に扱ってきたのも上手い。
共闘するから俺たちを守れ……なんて方向には持っていかずに、ちゃんと情報屋的に動くという、俺に無い部分を補う提案をしてくるのも上手い。
ということで、今回の会談は完全に三沢さんの思うがままにやり込まれてしまった。
ちょっとやり返せたのは、くずダイヤの原石の小袋を渡した時くらいかな。アレがどれくらいの金額で売れるかは判らないけど、ネットで調べた限り、数百万円はくだらないと思うんだけど……。
まあ、とりあえず、三沢さんとは今後も上手いことやっていけそうだと実感した。
助け出しておいた女子たちを、ちゃんと人目に付かない形で保護して、さらにケアしている。
で。まともに行動できる様になったら、警察に引き渡すなどでは無く、最終的にこっそり家族の元に帰すそうだ。まあ、事情的に帰りたくない場合はフォローもしてくれるらしい。
これは俺も考えていたが、一番うまいやり方なんじゃないかと思う。
今回の件で牧野興産の構成員はほぼほぼ壊滅した。幹部は軒並み消えたらしい。多分このあと、残存戦力は掃討されていくのだろう。三沢さんたちやライバルの反社の人たちに。
つまり、確保した女子は今後脅威になる敵が消えたのだ。ならば、何も無かったことにした方が、社会復帰もできるってなものだろう。精神的に大きく壊れてしまっている娘がいなければいいのだが。
それこそ、救急や警察に引き渡す方が、お金も手間も掛からない。
だが、その場合、彼女たちがヤツラに何をされたか、何が行われていたのか、薬で朦朧としていた状態で何も知らなかったとしても、根掘り葉掘り取り調べを受けることになる。
どう考えたって、彼女たちが望んであの状態で裸になっていたわけじゃないのに。
三沢さんの会社の人たちの【気配】は悪意がほぼ無い。邪悪じゃないとでもいうのか。
未知の生物でもある俺に対して、善意を向けているわけじゃないんだけど、こちらがちゃんと対応すれば「話が通じる」と思える感じがするのだ。
三沢さんに対して俺が一定の信頼を寄せているのは、その事実が一番大きい気がする。
電車での帰り道。既に閉店したオモチャのタチバナを横目に、まだ開いていたスーパーで食料を買い込みながら歩く。
(うーん。昨日の今日だからなぁ……うーん。何だろうなぁ。三沢さんの所から……か)
俺の【気配】スキルが遠巻きに尾行している不審者を感知していた。
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