072:蹂躙

 黒い軌跡を描いて……六角棒が舞う。


【気配】がレベルアップしているせいなのか、敵を俯瞰して見ることが出来る能力も格段に向上している。


 なので、俺自身の動きも客観的に見ることができるようになってきている。


 正直……ドタバタとしている部分は否めない。


 それこそ、青ジャージのあの動き……特に命を賭けた辺りからの動きとは比べものにならない。


(俺は本当にまだまだだな……)


 目の前に青ジャージほどでは無いが、そこそこ使える、さらに、かなり強いであろうヤクザ幹部が突っ込んできた。


 あれだ、得物は青ジャージの長ドスよりも若干短いか。突き込んできた刃を……横から薙払う。


キン


 刃の上半分がはじけ飛ぶ。


 ああ、すまんね。俯瞰で見ていると非常に申し訳ない気持ちになる。青ジャージとの戦闘のせいか判らないが、そういう余裕がね。生まれて来たわけでね。


 今のも、ヤツのとんでもなく鋭い突きに反応しただけだ。

【反撃】の様なノリで、強引な力技。振り回した六角棒、……「正式」を纏わしているので超絶固くなっているため、刃の側面に当たった瞬間に、はじけ飛んだだけだ。


 これは、相手がちゃんと柄を握って、刃を固定できていたから発生したと思う。それこそ。握りが甘かったり力の伝達が上手くいってなかったとしたら、長ドスが手から離れて、飛んでいって終了なハズだから。


 ゴブリンと戦闘していたとき、たまに剣や斧が飛んでいってたけど、スケルトン、特にスケルトンナイトくらいになると、武器を手放すことはほぼなかったからね。


【反撃】


 あ。最初はちょっと力を加減して、数名を生かして捕らえて、この上の階の幹部のことを聞こうと思ってたのに。


「ガギぁ!」


 頭から右腰に向けて、六角棒が長ドス男を断ち落とした。力技だ。研鑽による技術じゃない。


「一斉に撃てっ!」


 この中で一番偉いのかな? 眼鏡を掛けたインテリ系ヤクザが指示を出した。


 銃弾は……正直あまり怖くない。なぜなら、弾道が読めるのとそれを阻止する術があるからだ。


 一斉……とはいえ、ズレているので順番に発射されたのは六発。その軌道を読んで全てを躱すのはそれほど大したことじゃない……んだけど。

 

 全ての弾丸を「ブロック」で食い止める。もしも突き抜けるようなことがあったとしても、射線上から身体は外す。

 そもそも、俺に当たる軌道だったのは、六発中二発だけだ。射撃訓練あまりしてないんだろうな。日本じゃできないか。

 

「なっ……」


 透明な「ブロック」に食い止められた弾丸はそのまま床に落ちる。


「ちょ、超、能力者……なの……か?」


 超能力者か。まあ、普通に想像出来るのはそれだよね。


 左から。容赦せず、六角棒で頭を狙う。


 突き。はじけ飛ぶ頭部。


 そのまま、引く手で横に回転させて、隣に居る男の首を叩き折る。


 叩き折る……っていうのはそのままだ。当たり所が良かったのか、首から折れたその男は大きく横に跳び……窓ガラスにぶち当たってグシャッと歪んだ。


ビシッ!


 大きな窓ガラスに罅が入った。ああ、これ、【結界】「正式」でパッケージングしてなかったら、思い切りガラスが弾け飛んだケースか。


「な、なんだ……おまえ」


 畏れを感じる。ここまでやられる前に気付かない時点で、ダメなんだと思うな。

 じゃなければ、青ジャージみたいに、「最初から敵わないと判っていて向かってくる」とか。


 ああ。この部屋の隅のドア……あの向こうに一人……工場の女の子と同じ状態のがいるな。上の階の女はそれなりにハッキリ判ったんだけどな。この階の女子は……気配が弱い。っていうか、寝てるのか? 意識を失っているのか? 命が危ないとかじゃ無いな。何となく。


 ということで、このフロアにいたのは十二名。最初の長ドスのヤツで一。頭飛ばし、首折りで二。残りは九。


 ん? 見えてるのは八だな。……一人不明。うーん。どういうことだ?


パンパンパン!


 再度、一斉に銃弾が発射された。今度は……今度も酷い。一発も俺に当たる軌道で発射されてない。

 身動きしなければ当たらないだけだよ? これ。


 六角棒を振り回しながら、三人が固まっていた机の向こうへ飛び降りる。


 ビチビチと音を立てて三人の上半身が吹き飛んだ。凄惨な殺人現場……血煙が舞う中、「正式」を纏い、「ブロック」でガードした俺には返り血は一切無しだ。


 その妙なコントラストが……非現実的、ゲームの様な錯覚を受ける。


「クソがっ!」


 もう一人、長ドスを振り上げた白シャツが踏み込んできた。

 振り上げたままの持ち手を狙って六角棒が下から迎撃する。

 

ゲキッドバッ!


 右手が折れる。握力が弱まり手放す。そして、そのまま六角棒が振り抜かれた方向へ、長ドスが飛んでいった。


「ああああ!」


 返す六角棒で本体を吹き飛ばし、その後ろにいた拳銃持ちを肩口から袈裟懸けに斬り裂く。


(うーん。なんで六角棒で人間の身体が斬り裂けるのだろうか?)


 その後ろに四。拳銃持ちが二人。というか、残りは二人は逃げ腰だな。明らかに。全員拳銃持ち……か。


「この距離なら!」


 俺がちょっと考え事をしている隙に、二人が近付いて来ていた。至近距離から拳銃を撃とうとしているようだ。さすがに、一メートルなら外さないか。


(でも残念)


 というか、この距離だとさ。六角棒も当然届くけど、殴れるし……蹴りも届くんだけど。余裕で。


 ということで、一人を上からハンマーの様にして左手で殴る。頭が首に食い込む。目や口、鼻耳から血が溢れ出す。

 そして、もう一人も引き金を引く前に蹴る。あ。食い込んだ。鳩尾か。確実に内臓が……破裂した気がする。


ムギュァ


 あ。さっき長ドスが飛んでいって叫びながらのたうち回っていたヤツの喉を踏みつけてしまった。いいか。トドメだ。


「ま、まて、何が、何が望み、だ」


 望みなど……ない。


「武器輸出の利権に付いてなら、俺がオヤジに話をつける。なので、矛を収めてくれな……グギャ!」


 眼鏡インテリがなんか面倒くさそうなことを……言った。こいつ。いま。

 

 振り抜いた六角棒は肩口で回して、さらに、残りの一人を捉えて突く。胸の中央に穴を開けた。


 とりあえず、このフロア……階層はクリア……か。ボーナスとか貰えないしレベルアップも無いし。判っちゃ居るし別ものなんだけどさ。その辺ちょっと悲しいよなぁ。





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