071:十八階

 夜間出入り口へ向かう。


 ビルを覆った「正式」纏いは、俺は出入り自由だが、それ以外の人は出切り出来なくなっている。気付いてはいないが、今、ビルの中にいるヤツラは既に外に出れないのだ。


「はい? 何か御用でしょうか?」

 

 脇にあった警備室の受付。ガラスを、コンコンと叩いた。


 中には警備員が二人。【気配】通り。


「はいーどうしましたー?」


「すいません、ちょっと……


「え? なんでしょうかー?」


「あそこに停めてある車両が~」


 正直、多分関係ないとは思うが、万が一興産関係者……ということもある。


 ちょっと見て欲しいというジェスチャーをする。中の二人が隣の扉を開けて外に出てきた。


 正直、格闘技とか武道なんて囓ったことすらないので、どんな技を使えば人間が気絶するか判らない。なので、「ごめんね」と思いながら、とんでもなく力を抜いて、首に向かって斜め四十五度くらいから手刀を落とす。


 トンって感じ。トンって。


 よかった。なんか、叩くと弾ける的な暴力ばかり経験していたので加減できないかな? と思ってたのだが……成功した。首折れてない。


 崩折れる二人。息もしてるけど、意識を失ってくれた様だ。


 首根っこを掴んで建物の外、【結界】「正式」の外へ放り出す。


(これでよしっと)


【気配】は大して動いてない。


 十八階に……13人? 十九階はいない。二十階に3人。いや……7人か。こいつら……また女を連れ込んでるのか。

 別に知りたくなかったが、身体、精神的に弱っている人、特に女性の気配が分かるようになってしまった。


 それにしても【気配】は俺に悪意がある、興味がある人の気配が分かるんだと思ってたんだけどな。被害者というか、関係者も判るのか。


 便利だからいいか。


 警備員室の机の上に置いてあった鍵で、「マスターカード取扱注意」と書かれていた金属製のキーボックスを開ける。


 これ、書いちゃダメなんじゃないの? と思いつつも、中からカードを取り出す。


 エレベーターでカードをかざすと、そのカードに紐付けられた階だけが利用可能になるセキュリティシステムだな。これはマスターカードだから、全階に対応しているはずだ。


 カードを持ってエレベーターホールへ。大きなビルとはいっても自社ビルなだけだ。多くのテナントが入ったビジネスビルではない。エレベーターは三基。


 ああ、奥のヤツが専用になってるのか。上層階用……一階→十六階以上にしか停止しない感じね。


 普通に乗り込み、カードをかざす。表示されていた停止階ボタンの下に小さい緑の光が点灯した。


 まあ、まずは、十八階かな。


ピンポン……


 普通に、エレベーターから降りる。


 戦闘中に無駄に移動されると面倒なので、エレベーターの電源を落としておく。ってまあ、大体この辺の電気だろっていうの停止させただけなんだけどね。多分、非常用電源みたいのも設置されてたみたいだけど、それも停止させておく。


 エレベーターホールの向こうに電気の付いているフロア入口が見える。

 ここにもセキュリティシステムが設置されていたので、マスターカードをかざして無造作にドアを開けた。


 広い……大部屋。半分くらいのスペースに通常のオフィスの様に机が並んでいる。

 

 で、半分は……大きめなソファと観葉植物みたいなの……そして、コーヒーメーカーや飲み物の置いてあるバー。


 オシャレなIT会社か。というか、こりゃ規模の大きい商いをしてるなぁ。


 実際に昔ながらの組事務所って感じに使われているのはこの階から上の四階層だとして。この下の二階~十七階までは様々な部署が組み込まれているハズだ。


 こいつらが堂々とこれだけのオフィスを構えているということは……それだけ多くの人が苦しんだってことだからなぁ。


 一般的な会社が大きくなるだけでも、何かしらトラブルや影響を受けて、怨嗟の声が発生することがある。


 ということで、ギルティ確定だな。


「なんだ、お前はっ!」


 フロアに入って【気配】を解く。これだといきなり黒いコートの男が出現したように思えるんだろうな。


「探されているとのことでしたので、自ら赴かせていただきました」


「ああ?」


「ああ、日本語が通じないのですね? では判りやすく翻訳させていただきます……」


 背中に装着していた六角棒を構える。


「俺が村野だ。探してたんだろ? 来てやったぜ?」


「ああ?」


 と、今度は多少状況を理解したようなその辺にいた数名が大声を上げた。


「バカか……お前……ここがどこだか判ってるんだろうな?」


「牧野興産……いや、牧野組のチンピラ部屋……ですよね?」


「テメェ」


 既に全員が戦闘態勢に入っている。速い。ここまでチンピラもどきや、チンピラ、ヤクザにヤクザ幹部と、様々なヤクザ系の敵と対峙してきたが、この反応速度はなかなかの精鋭だ。

 えーと。さっきの廃工場にいた、幹部っぽかった兄貴……と青ジャージの間って感じだろうか。


 全員得物、自分なりの武器を手にしている。大抵が拳銃で、青ジャージの持ってた長ドスを抜いた者が二名。ん? 警棒……かな? あ。俺も買おうかなと考えたヤツだ。それ、警察の特殊部隊が使ってるのと同じヤツでしょ……と話しかけるわけにもいかず。

 そうか。ここにいるヤツはそこそこ偉いからか、頭の悪そうな武器を持ってないな。


パン


 無造作に。ほぼノーモーションで発射された弾丸をわざとギリギリで避ける。そうすると素早く動かないといけなくなって、必然、弾をすり抜ける様な感じになる。


 これだと、弾が俺の身体を通り過ぎたように見えないかな? どうかな?


「なっ」


 ほら。撃った本人とそれ以外にも数名驚いている。


 手加減しようかと思ってたけど……やめた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る