070:牧野興産本社ビル

 廃工場……跡地を出た俺は。そのまま、牧野興産の本社ビル? に向かっていた。


 救出した女子達のフォローは周りに居た三沢さんの部下の人達がちゃんとしてくれるだろう。


 あの人たちの【気配】は本当に気持ちがいい。


 裏家業とも近しい職業柄、多少なりともあまり口には出来ない様な事もしてきたはずだ。三沢さんはまあ、ともかく、部下にはその手の犯罪に手を染めた、手を貸したなんてヤツも居ると思う。


 ここ最近、俺の周りを遠くから警護をしてくれている人たち、廃工場の周りにいた人たちは全部、三沢さんの部下だと思う。


 この【気配】は敵対心や悪意を感じるだけでなく、俺に関心がある場合にも反応する。


 彼らからはこちらを意識している……イロイロな意味で「心配」や「心地良い」【気配】を感じる事が多いのだ。


 俺が三沢さんを全面的に信用しているのは本人に会って話をした感覚に加えて、これだけ多くの仲間が全て、彼の元に意識統一されているという素晴らしさだ。

 まあ、みんなは【気配】を感じるコトが無いだろうから、あの会社がそんなに一致団結していると判ってないんだろうな。自分たちも。


 GPS頼りに着いた場所は……結構大きなビルだった。


(というか……うちの会社よりも立派だよな……確実に。こりゃ……個人的なひがみとか妬みとか入っちゃうなぁ)


 うちの会社は……全体の方針決定が遅く、要領は悪いし、上司は賢いと言えないし、部下の成果は横取りするし……いいとこ無いな。くそう。

 まあでも、俺の知る限り、犯罪行為に荷担するような商売はしていない。中小商社だからってだけで、大規模な商いを始めたら……そういう分野を担当する人も必要になるのかもしれないけどね。


(合法な興業を行っていたとしても……これだけのビルを作るってことは……うーん。怪しんじゃうよな。何人くらい、泣かされた人がいたのかな?)


 三沢さんによれば、ここ数日、会社は臨時休業となっていて、中に……いるのは所謂「構成員」だけだそうだ。

 泊まり込みで頑張ってるわけじゃない。そりゃそうか。夜中の仕事が規制されて久しい。こんな時間に会社に居るのなんてまともなヤツじゃ無いよな。


 なんでも、本来であれば、牧野興産は近日中に大規模な「商い」を行う予定だったそうだ。それがどういう内容かは、三沢さんでも未だ掴めていないそうで……かなりどす黒い取引らしく、これが成立すれば、会社……いや組の規模が数段階上がる……と、うそ吹いている幹部が確認されている(そうだ)。


 それが、今回の息子のしでかした件で泣く泣く延期することになり、その怨みが全て、俺に集中しているとのことだ。

 本来は三人娘にも向けられていた敵意が、事実が判明するに従って俺に集中していったということなので、それは良かったと思った。


 そんなワケで、現在の牧野興産のビル(ちなみに自社ビル)はこんな大会社になる前の、組時代からの人間しかいない状況とのことだった。

 ……なんて都合がいい。


 さっきの工場跡は、自宅をワザと襲撃させて、その帰還を狙ったから上手く行った。

 

 こっちは俺が手を加えなくても勝手につどってくれていたという。


 素晴らしい。


【隠形】が効いているのにも慣れてきたのだろう。大胆に行動するようになってきている。無造作に近付いて、ビルの表面に触る。


【結界】「正式」を纏わせるのはある程度の距離があっても可能なのだが、実際に存在するモノにかける場合は、直接そこに触ってスキルを使うと、「なんとなくこれくらいで問題なし」という限界点がハッキリと判る。

 自宅や廃工場に「正式」を纏わせた際も、外塀に直接触れて発動した。


 まあ、今回発動するのは規模が違う。巨大な会社ビルだ。なので、直接触る。いくら魔力だかなんだかの消費量が少ない感じだからといって、消耗していることには変わりは無い。この後のことを考えるとね……。


 等と考えつつ。本日三度目の大規模な「正式」を発動させる。


 うん。そこまで負担では無いようだ。というか、「正式」って、最初のドーム型がとんでもなく効率が悪いのか、異常に消耗するだけで、元になるモノがある「纏い」は異様に効率が良い。「ブロック」と同レベル……いや、薄く引き延ばせる分だけ「ブロック」よりも上じゃないだろうか?


 薄く引き延ばして発動させた「正式」。その強度が気になるが……多分、普通の人間に外へ出る術は無いハズだ。大規模発動は自宅に続いて三回目だけど、なんとなくコツは掴んだ。

 薄いけど強度的には自宅の「正式」と変わらないと思う。


 全てを遮断する。こういうことも出来る様になった、気付いた。電気、水道くらいは残しておいた方がいいか。……電話、ネット、ガス……ってこのビル、ガス無いや。その辺は全部遮断だ。

 

 お。このビルは地下もあるな……。地下をくり抜く感じで「正式」を伸ばしていく。


 これでこのビルから誰も外へ出れなくなった。それと同時に、ビルの中にいるヤツの気配がなんとなく伝わってくる。


(ああ、これは「正式」を纏わせることで把握したってことなんだな)


 複数存在する気配は上層階に集中している。


(んーと。二十一階建てで……十八階までは誰もいない……か。一階にいるのは警備員だろうな。巡回とかは行かない感じかな)


 よし、んじゃ、いっちょいってみよう。


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