031:上達
ということで、現実世界でいきなり忙しくなった。
仕事では、あの新規案件を俺主導で動かす事になったのだ。安中係長とは、まあ、表向き和解して、実利の部分を彼と、自部署に割り振る事になった。そのため、当然、それなりの実務を担当する必要がある。
何よりも新規案件のため、やり甲斐があるが、仕事量は膨大だ。それこそ様々な要素で企画書、仕様書を提案したくなってしまう。
自由にやって良いよと言われると、逆にまとまりきらなくて何も出来ない感じだろうか?
といいつつも、実は、最大の問題……時間は無限にある。ダンジョン攻略をしなくても、あの白い部屋へ行けばいいのだ。あそこにノートパソコンと予備のバッテリーを持ち込んで作業。すると、翌朝には「出来るハズの無い物量」の企画書&仕様書、各種資料が完成するという……ある意味、これ、チートだよね。ありがとう、扉! ありがとう、ダンジョン!
「こういうこともあろうかと企画書のストックは結構あるんだ」とでも言えばなんとでもなる。ついでに「これまでは企画書を出しても、俺の企画じゃなくなってたからな」と言えば、周囲は全員納得してくれた。というか、これ、事実だからなぁ~。そうか、みんな知ってたか。
元々、今日出来る事を明日に振るのはあまり好きな質ではない。やっちゃうよねぇ~。だって、疲れたって向こう側で寝れば、睡眠も十分バッチリで仕事に行けるワケだし。
たった数日とはいえ、既にある程度の見通しが付いた。あとは……親会社から変な横槍が入らないように上手くやるだけだ。そこはもう、安中係長を初め、その上の派閥のお歴々にお任せということになる。膨大な利益が見込めるんだ。それくらいの仕事はしてくれ。
一方、プライベートでは三人娘にギュウギュウにやり込まれている。なんか迫力満点なので言い返せないというか、フェイドアウト出来る隙間が無いというか。こないだ登録させられたグループチャットで、早々に日曜日の表参道デート&食事会が決定していた。全てワリカンだそうだ。
土日はダンジョン攻略ドップリ……と予定していただけにがっくりなのだが、美人、しかも×三人に誘われて嬉しくない訳がない。
(まあ、土曜日だけでも一ヶ月篭もるのは全然可能だしな)
向こうに持ち込む食糧を多めにして、風呂の時間も短縮。あ。そうだ! カセットコンロを持ち込めばカップ麺もいけるな。水は災害時の緊急用に買い置きがあったし。そろそろ賞味期限切れだから使い切って、新しいの買おう。缶詰も幾つかあったな。うんうん。丁度良い。
そうだ、あの、パンの缶詰! あれも持って入ろう。五年から七年も保つのにスゲー美味しいやつ。保存食のつもりで買ったのについつい食べちゃったんだよな。でもまだ残ってたハズ。
ということで、山積みになった大量の企画書、仕様書の精査、さらにプレゼン準備は係長たちに任せて、俺は定時に帰宅する。だって自宅作業の方が捗るからね。明らかに。
日々の会社帰りに量販店や、ホームセンターなどに寄って、様々な備蓄資材を購入して持ち帰っている。
あっという間に多くのインスタント食品、水、災害用の栄養食品なんていうダンジョンおこもり用物資が整い始めた。
そして金曜の夜20時……仕事にけりを付けて、風呂も入った。今から土曜丸一日はダンジョン日和だ! 俺の時間だ! 待ちに待った瞬間だ! やっほーい! ということで、ウキウキ気分で扉を開ける。
「よし、シロ! いくぞ! レベル4になりたいしな!」
「はいなのよぅ」
実際には、仕事の資料を作りながら、毎日数回はダンジョンチャレンジは行っている。なので、戦いの勘を失ったりはしていない。
「そういえば、シロ、【結界】も現実世界で使えるのな。しかもかなりの強度、強さで。アレ、ダンジョン内だともう少し強いのかな? 差があるの?」
「? わからないのよぅ」
「そうか」
まあいいか。今回の件で【結界】に現実世界でもソレなりの密度、硬さがあると知れたのはものすごく大きい。あの場で鑑識官が言っていたとおり、あの件は銃の暴発が原因だ。
つまり、俺の生み出した【結界】は暴発を引き起こせるし、暴発で弾け飛んだ散弾を防ぐこともできるのだ。
自分たちを守るための透明の壁には傷一つ付いていなかった。散弾程度では撃ち抜く事は不可能なのだろう。
【結界】
透明なので目には見えないが、俺とのアックスゴブリンの間にブロックの壁が出来上がる。
ゴッ!
可哀想に彼は思い切り駆けだしていた。その衝撃がそのまま、彼に変換されたようだ。吹き飛ぶように後ろに転がった。
これはやり過ぎか。では……。
ガツ
再度、気を取り直して向かってきたゴブの足元に、ブロック。当然、躓く。隙有りすぎだ。
その隙を逃すこと無く、斬り落とす。チート剣の斬れ味は健在だ。あっさりと首が跳ぶ。
剣の扱いも結構、上手くなってきていると思う。ちゃんと刃を獲物に向けることもできるようになってきた。……これ、簡単なようで結構難しい。これから斬ろうとしている面、鎧とか筋肉の角度に合わせて刃を添わせると、斬れ味が各段に上がるのだ。
ゴブリンは技術の全く無い最初の一太刀から、容易に切り刻めていた。が。それも面に刃を合わせるとなんの手応えも無く、敵を寸断できる。これに気付き始めたのも最近だ。少しは慣れた、上達したということだろうか?
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