ぼくたちは勉強ができない X=未来編

YoSHI

ぼくたちは勉強ができない X=未来編


この作品は私が大好きな作品である「ぼくたちは勉強ができない」をオマージュしたものであり、本編とは一線を画しております。

なお、二次創作の項目にこの作品がなかったため、オリジナルとして投稿しております


文化祭のジンクスでは、一発目の打ち上げ花火が打ち上がった瞬間に触れ合っていた男女は結ばれるというものだった。

これはその文化祭から20年後の物語である。


目覚まし時計がけたたましく鳴る朝。手探りでアラームを止め、眼鏡をかけ、ワイシャツに着替える四十路前の男性。彼の名は唯我成幸。彼は母校である一ノ瀬学園の教師を15年間務めている。

顔を洗い、食卓へ向かうと赤髪のミディアムヘアの妻がキッチンで朝食の準備をしていた。彼女は成幸の妻である唯我うるか(旧姓:武元)である。彼女は20歳の頃からオリンピックの水泳に3度出場し、金メダルを総なめにしてきた。5年前に現役を引退し、今は専業主婦として成幸のサポートに徹している。

うるか「成幸さん、おはよ。」

成幸「うん、おはよう。うるか。」

うるか「2人とも〜!ご飯できるよ〜!」

その呼びかけに応じ、欠伸をしながら階段を降りてきたのは、兄の大希(たいき)13歳。後を追うように降りてきたのは妹の志保(しほ)9歳。唯我家では全員が食卓に着いてから朝食を取り始めるのだった。

成幸「それじゃ、いただきます。」

全員「いただきます」

終わりは各自バラバラなので統一はしないのが唯我家なりのルールであった。

大希「ごちそうさま〜。行ってきま〜す」

うるか「行ってらっしゃい。気をつけてね」

成幸「ごちそうさま。志保は遅れないようにな。行ってくるよ。」

うるか「お弁当もった?成幸さん。」

成幸「ああ、ごめん。忘れてた。ありがとう」

うるか「気をつけてね。」

成幸が家を出た後、志保はうるかに質問した。

志保「ねえお母さん。お母さんはどうしてお父さんを選んだの?」

うるかは少し取り乱した。

うるか「うぇえ!?う〜ん…。」

暫く考えた後、思い出したように取り繕った。

うるか「あっ!ほら!学校遅れるよ!」

志保「む〜。また誤魔化した〜!」

うるか「また今度お話しするから!はい!いってらっしゃい!」

志保を送り出した後、うるかはソファにもたれ掛かった。そしてため息をついた。

うるか(初めは燃える様な恋だったのに…。ここ最近少しすれ違ってるなぁ…。)

うるかは携帯の中に入っている写真を見つめた。そこには一ノ瀬学園の同級生たちが写っていた。


成幸が歩いて一ノ瀬学園に向かっていると、後ろから原付のクラクションが鳴った。振り返るとヘルメットを被った紫髪の女性、小美浪あすみであった。

あすみ「お〜っす後輩。」

成幸「あすみ先輩!今日も出勤ですか?」

舌を鳴らして首を横に振って、あすみは怪しげな笑みを浮かべた。

あすみ「チッチッチッ。今日はお医者さんじゃないんだなぁ。」

成幸「へ?じゃあどうして朝から…?」

あすみ「それはな…じゃじゃーん!」

あすみが来ているパーカーを脱ぐとそこには白黒のメイド服が現れた。

あすみ「今日は月一の小妖精(ピクシー)メイド・あしゅみーデイなんだぞ〜」

成幸は胸元から目を逸らしつつ応答した。

成幸「それは…すごいですね…。今年でもう40歳とは思えない…。」

あすみ「あぁ?なんか言ったか?後輩ィ…。」

成幸「いいいえ!何も!僕は遅れちゃいけないのでお暇します!それじゃあお気をつけて!」

走って逃げていく成幸を見てあすみはニヤニヤしていた。

あすみ(後輩は何歳になっても変わらないな)

ポケットから取り出した写真には若かりし日の写真。High Stageのメンバーと成幸が写っている。その後、あすみは原付を走らせた。


7時30分、成幸は一ノ瀬学園の校門を潜った。

成幸(はぁ…はぁ…怖かった…。とりあえず、学校に着いたから職員室に…。)

「唯我先生、こちらへ。」

成幸「は!はひ!」

聞き慣れた冷たく鋭い声が成幸を捕まえる。

職員室に入ると声の主である桐須真冬が物凄い形相で成幸を見つめていた。

真冬「質問。唯我先生、本日7時40分から何があるかご存知ですか?」

成幸「今日の7時40分…?…あっ!世界史の成績があまり良くない子たちの補習でした…!」

真冬「忘れてもらっては困ります。後5分後に始まります。プリントは刷ってあるので其方から持っていって下さい。」

成幸「ありがとうございます!なんか、こういうの、新人時代を思い出しますね」

真冬「そんなことを言ってる暇はありません。至急。早くお行きなさい。」

プリントを抱えて職員室を出ていったのを見届けると真冬は机上の写真立てを見つめた。

真冬(ええ。あなた…いや、あなた達は大人になったとはいえ一生の私の生徒ですもの…。)

そこには卒業式の朝に撮った写真で、色々な生徒、家族、そして真冬が写っている。真冬は微笑むと授業の準備のためにパソコンを開いた。


成幸「…というわけで、今日の補習は終わり!ちゃんと予習復習をするんだよ!」

成幸(ふう、これでひと段落。今日は2限からだから1限は少し休めるな…。)

職員室に戻ると、成幸は真冬に呼ばれた。

真冬「唯我先生、実は国語科の藤田先生が急遽今日一日出張となってしまって、でもどうしても今日の授業は外せなかったらしいのです。」

成幸「はあ、それは大変ですね。ええと、つまり…僕はどうしろと…?」

真冬「提案。今日は一日貴方に国語科の教師をやってもらうわ。」

成幸「えぇえぇえぇえぇ!?」

真冬「大丈夫よ。貴方なら教えられるわ。私の空き時間を唯我先生のクラスに入れるわ。」

そんなこんなあって成幸は国語(現代文)を教えることになった。

成幸(うう…大丈夫かな…。まずは1年E組か)

ガララッ…

成幸「こんにちは〜…。」

生徒「先生、間違ってませんか?」

成幸「え〜っと…。藤田先生が急遽出張になってしまったので今日は代打で僕が国語の授業をすることになりました…。」

生徒「あれ?先生って確か世界史でしたよね」

成幸「うん。いつもは世界史を教えてるよ。あっ、僕は唯我成幸って言います。それじゃあ、授業に早速取り掛かろうか。」

成幸(取り敢えず、教科書32ページからだな)

成幸「もしかしたらいつもの授業と違うかもしれないけど、今日は僕のやり方に合わせてくれたら嬉しいな。まずは音読をしようか。」

暫く音読が進み、一区切りがついたところで成幸は音読を止めさせた。そして板書を始めた。

成幸「はい、それではこの『目から鱗』の意味分かる人いるかな?」

半分ぐらいの生徒が手を挙げる。成幸は頷くと1人の生徒を指名して意味を言わせた。

生徒「ええと、『とても感動する様』だと思います。」

成幸「同じ考えの人はどれぐらいいるかな?」

今度はクラスの殆どが手を挙げた。

成幸「実はね、この慣用句は間違えてる人が多いんだ。本当は『急に物事が分かること』なんだ。間違えやすいから気をつけてね。」

生徒は成幸が意味を書かなくてもノートに自発的に意味を書いていた。

成幸「授業で間違えることは悪いことじゃない。寧ろ、間違えた方が覚えやすいからメリットにもなるんだ。」

そんな感じでどんどん授業は進んでいった。


キーンコーンカーンコーン


成幸「お、チャイムが鳴ったね。それじゃあ今日はここら辺で終わりにしよう。」

号令が終わり、次の時間、また次の時間も同じ様にこなしていき、そして昼休みを迎えた。弁当を食べ終えて一休みした成幸は天井を眺めながら一息ついた。

成幸(国語を教えたのは久しぶりだなぁ。もしかして緒方に教えた以来か?そういや、緒方は今ごろどうしてるんだろう?)


理珠「へくちっ…。誰かに噂でもされているのでしょうかね?」

関城「緒方理珠を噂している人物ッ!?そんな人物、この関城紗和子が許さないわッ!」

嘗て機械仕掛けの親指姫と呼ばれた緒方理珠は現在、緒方うどんに併設したクリニックで臨床心理士、並びにカウンセラーとしてとして働いている。関城はそこに頻繁に出入りしているのだった。

理珠「紗和子…いくら貴方の務める保険会社が向かいにあるとはいえ、こんな時間に抜け出してきて良いのですか。」

関城「ノープロブレムよ!緒方理珠!だって私の保険会社、殆ど人が来ないもの!」

関城は得意げな顔で胸を張った。

理珠「では、あの列は何ですか。」

関城「列って…あぁ!?そういえば今日、お得意様がいらっしゃるの忘れてた!それでは緒方理珠!また会う日まで!シーユーよ!」

向かいの保険会社に駆けていく関城を見つめて理珠は仕方がない様な笑みを浮かべた。

すると、控室の扉が開いて老人が鼻の下を伸ばして出てきた。

理珠父「理珠たま〜お昼だよ〜。愛情たっぷりのうどん、食べさせてあげるからね〜」

理珠「1人で食べます。それと、この事務所には入らない約束でしたよね?」

理珠はうどんを受け取ると父親を追い出した。父親は涙を流しながら自分の店へ戻った。

それを確認すると、壁に飾られている額縁に目を向けた。

理珠(懐かしいですね。皆さんは今頃元気でしょうか。)

理珠はうどんを啜り始めた。


うどんを食べ終わると、とある客が理珠の診療所に入ってきた。

「こんにちは〜…」

理珠「いらっしゃいませ…って、文乃じゃないですか!」

そう、診療所に現れたのは現在、天文学者を生業としている理珠の親友、古橋文乃であった。

理珠「どうしたのですか。こんな昼間から。」

文乃「うん、実はね、最近部屋の掃除をしてたら卒業式の日の写真が出てきて…、それを見てたらまた皆んなで集まりたいなぁって思って色々な人に声をかけてるんだ。」

理珠「フンス!奇遇ですね。実は私も皆さんと暫く会っていなかったので会いたいと思ってたんです。」

理珠は鼻息を荒くしている。

文乃「でも、私この前携帯の機種変して、連絡先が繋がってるのがお父さんと職場の人しか居なくて…。だからりっちゃんを通して色々な人に伝えてもらいたくて…。」

理珠「それなら、武元さん…いえ、うるかさんが最も交友関係が広そうですし、今から一緒にお家にお伺いしませんか?」

文乃「うん!いいかも!」

二人はうるかの家、もとい成幸の家に向かって歩き始めた。

文乃「りっちゃん、最近のクリニックはどんな感じ?」

理珠「お客さんはよく来てくれます。かつての紗和子と同じ、学校に行きたく無いと思う学生さんも偶に来ますし。そういう文乃はどうですか?最近は新しい星を見つけてますか?」

文乃「う〜ん、ここ4、5年は見つかってないんだ。天体望遠鏡も良いやつを使ってるんだけど、見える範囲がやっぱり限られてるから…」

理珠「そうなんですね…。でも、諦めずに頑張ってればいつか見つかるはずですよ。」

緒方クリニックから唯我家は歩いて10分ぐらいの所にある。到着すると文乃がインターホンを鳴らした。

ピンポーン

中からは直ぐにうるかが顔を出した。

うるか「は〜いって、文乃っちとりずりん!?どうしたの急に?まあ、入って入って!」

二人は中に入るとリビングに招待された。

うるか「今お茶とお菓子出すから待っててよ」

お洒落なティーカップと洋菓子が二人の前に置かれると、二人は経緯を説明した。

うるか「なるほどね〜。確かにここ5年ぐらい同窓会とかしてないね。」

文乃「たまに鹿島さん達と女子会をしたりするんだけど、やっぱり大勢いた方が盛り上がるかな、って思ってるんだ。」

理珠「私は紗和子が毎日のように出入りして来るのですが、やはりここ数年来、紗和子以外の人とはそれ程接点がないかと思われます。」

うるか「でも、集まるにしても皆んなそれぞれ仕事とかで忙しいだろうし…。」

理珠「そうですが、何も全員集まるわけではないので接点が特に深かった人を集めれば良いのではないでしょうか。」

文乃「確かにそうだね。でも、いつが良いかな?」

うるか「文化祭の日に一般客も出入りできるし、後夜祭の前に集まって、少し談話してから行けばいいんじゃないかな?」

理珠「それではそうしましょう。では、各自で連絡を取り合って、途中経過は各々報告していきましょう。」

うるか「うん!あ、そうだ。私の連絡先登録しておいてよ!」


二人が帰った後、うるかは親友の川瀬あゆ子と海原智波に電話をした。二人とも二つ返事で参加が決まり、あゆ子の夫の大森奏と智波の夫の小林陽真も参加が出来るとの報告を受けた。

その報告を受けると直ぐに文乃、理珠に連絡を入れた。

時計の短針は間もなく四時を知らせようとしている。

うるか(成幸さん、今電話に出れるかな…?)

呼び出し音2回で成幸は電話に出た。

成幸『もしもし?どうかした?』

うるか「実は、さっき理珠りんと文乃っちが家に来て…」

そこからうるかは早口で、成幸が意見を入れる暇もないぐらい一気に事情を説明し尽くした。言いたいことが言い終わると、うるかは恰も運動した後のように息が上がっていた。

成幸『別に構わないよ。何だったら文化祭を手伝ってもらってもいいよ。』

うるか「ええ!本当に?」

成幸『ああ。さっき桐須先生と話してたんだ。文化祭の人出が足りないかもしれないって。だから手伝ってくれたらすごく助かるんだ。』

うるか「分かった!皆に伝えておくね!」


うるかとの電話の後、成幸は真冬に電話の旨を伝えた。

真冬「感謝。助かるわ唯我先生。早速来る人を振り分けましょう。」

二人は淡々と当日に来れる人数を振り分け、30分後に全てを済ませていた。

成幸「ええと、僕と桐須先生は手伝えるところ全般で水希とうるかは調理の手伝い、古橋と美春さんは見回り、大森夫妻と小林夫妻は本部、関城と緒方は会計の援助という感じですね」

真冬「ええ。当日が楽しみですね。」

成幸「なんだか、20年前が懐かしいですね」

真冬「同意…。踊るようにその青春を駆け抜けていた貴方たちの笑顔、私は1日たりとも忘れたことはないわ。」

成幸「当時、3人に教えることと桐須先生のお陰で今の自分があるんだと思います。」

真冬は少し頬を赤らめた。

真冬「感謝…。私はあの頃、何かと“可能性”というものを否定して生徒を傷つけてしまった。でも、変わらなくちゃと気づかせてくれたのは唯我先生…いえ、唯我くん、貴方なのよ。」

成幸は照れ臭そうに頭を掻いた。

成幸「そうなんですね。初耳です。」

真冬「貴方は絶対に他人を見放さなかった。その才能は今も続いていると思うわ。テストで良くない点を取る生徒にも決して怒らずに温かく接している…並大抵の人では匙を投げるのに、本当に素晴らしいと思うわ、唯我先生。」

成幸「いつしか話したと思いますけど、俺は親父に言われたんです。『出来ないやつを分かってやれる男になれ』って。俺はできない人の気持ちが分かります。親父との約束というわけじゃないですが、この信念は揺るがないです。」

真冬はいつの日か見せた笑顔を成幸に見せた。

真冬「文化祭、当日が楽しみですね。」

成幸「ええ、とても。」


文化祭当日、一ノ瀬学園には生徒の他に数多くの参加者がいた。成幸と真冬は所構わず手伝いが必要になりそうな場所に奔走した。

成幸「桐須先生!次は3年A組お願いします!」

真冬「了解!1年F組も援助が必要そうだわ!」

うるかは2年B組、成幸の妹の水希は3年E組で手際良く調理の手伝いをした。

うるか「この材料切り終わったから入れておくね!あ、あとその鍋は火を少し弱めてね!」

水希(早く終わらせて兄さんと一緒に…)

生徒「水希さん!溢れてます!」

水希「えっ!?本当だ!ああ…勿体ない…」

その教室の前を1人の少女が心配そうな面持ちで通り過ぎて行った。

少女「お母さ〜ん、どこにいるの〜?」

その時、とある女性の背中にぶつかった。

文乃「大丈夫?もしかして逸れちゃったの?」

少女は黙って頷く。

文乃「そっか。じゃあ私と一緒にお母さん探そっか!」

少女「うん!」

文乃は美春と連絡を取りながら少女の母親を探した。

美春「悪戦苦闘。お母さん、一向に見つかりませんね…。」

少女の表情が暗くなり始めたその時

志保「あれ?カナちゃん、何してるの?」

文乃「あ、唯我くん…いや、唯我先生の娘の志保ちゃん。今ね、この子のお母さんを一緒に探してるの。何処かにいないかな?」

志保「いたよ!さっき1年生の階でクレープを買ってたよ!そこに行けばいるかも!」

美春「叩頭三拝!助かります!さあ今すぐに行きましょう!」

カナの母「カナ〜?どこにいるの〜?」

カナ「お母さん!」

カナの母「あ、何処にいたの?すみません、カナがご迷惑をお掛けしまして…。」

文乃「いえ、実は志保ちゃんが見つけてくれて…」

カナの母「まあ、そうなんですか!今度、お詫びをしなきゃ!本当にありがとうございました!」

文乃と美春は2人が去っていくのを見守った。

その頃、会計では理珠と関城が中心となって行き交う金を管理していた。

関城「私はチケットを売るわ!緒方理珠はお釣りを出して頂戴!」

理珠は半ば押しつけられる形であったが、小銭や紙幣をどんどんと捌いた。初めの2時間はチケットを買いに来た客でごった返していたが、段々とその波も収まりつつあった。理珠はそれでもなお、最先端に立ってチケットを売り捌く紗和子を見つめていた。

理珠「少し休んだらどうですか、紗和子。」

関城「いえ、緒方理珠と共同して仕事ができるならば私はいつまでも仕事をこなせるわ!」

理珠「…ふふっ」

関城「何かおかしいこと言ったかしら?」

理珠「いえ、紗和子の私好きはずっと変わってないな、と思ったのです。いつも何かしらで私の側にいて、でも私はそれが嬉しかったんです。」

関城「緒方理珠…。ええ、私も貴女に何度と救われたことか…。勉強や仕事が辛い時、私が貴女の側に居ても決して煙たがらずに接してくれた。まさに貴女こそ私のベストフレンドよ。」

2人は照れ臭そうに笑った。

生徒「おいおい!この学校にメイドさんがいるらしいぜ!」

生徒「マジか!見に行こうぜ!」

成幸「メイド…?桐須先生、そんな出し物ありましたっけ?」

真冬「いえ…なかったはずよ…。」

成幸「確認しに行きましょう!」

2人が体育館に走っていくと、入り口には理珠と関城と文乃と美春がいた。

関城「あっ、唯我成幸!」

美春「姉様も!」

文乃「唯我くん、あそこ!」

理珠「あちらでメイド服姿でバンドをやってるのって…!」

あすみ「おっかえりなさいませ〜!一ノ瀬学園の皆さん!小妖精(ピクシー)メイド、あしゅみぃで〜っす!今日は文化祭ということで、いっぱい、い〜っぱい歌っちゃいましゅみ〜!」

そう、あすみがステージ上でメイド服姿でエレキギターを持ってバンドをしていたのだ。ドラムやベース、キーボードは彼女が勤めていたHigh Stageの同僚が務めている。場内は大盛り上がりだ。ついにクライマックス。会場の熱は最高潮だ。

あすみ「右手にはペンを、左手にオムライス持って、今日も戦うよ。」

曲が終わったその瞬間、会場が大歓声に包まれた。

理珠「およそ116dbといったところですね…」

アンコールという声も響くが、あすみはステージを降りた。しかし、マイクは握ったままであった。

あすみ「アンコール、あたしは出来ないけど、彼女たちがやってくれるそうだよ。」

その時、ステージに照明が当てられた。そこに立っていた3人は、一昔前の少女向けアニメの格好をしていた。

成幸「う、うるか!?」

その脇には智波とあゆ子も立っている。会場はさらに爆音に包まれた。彼女たちの歌とダンスに合いの手が重なる。間違いなくこの日1番の盛り上がりを見せていた。成幸たちも気付かぬうちに手拍子を打っていた。


数時間後、いよいよクライマックスの花火10分前となった。校庭には数多くの参加者が集った。成幸はうるかと大希と志保と共に花火がよく見える位置にいた。文乃、理珠、あすみもその近くにいた。

志保「お母さん、すごくカッコ良かったよ!」

うるか「ほんと?ありがとうね。でも、明日は筋肉痛になりそう…。」

花火が上がる1分前、人々はカウントダウンを始めた。そんな中、とある人を探して歩き回っていた人が1人。

水希「兄さま〜?何処にいるの〜?もうっ…今年こそ一緒に花火を見ようって決めてたのに…。って、いた!」

その時にはもうカウントダウンは5まで来ていた。水希が成幸に抱きつこうと手を伸ばした時、脚がもつれて3人の女性を押してしまった。そしてその3人は4人の家族にぶつかって倒れた。その瞬間、1発目の花火が夜空に咲き誇った。


ーーなあ、こんなジンクス知ってるか?後夜祭の花火の1発目が上がった時に触れ合っていた男女は結ばれて絆は永遠に途切れないってーー


いつしか、一ノ瀬学園の教師に成るであろう青年の父親が残した言葉、それは30年以上経った今も語り継がれている。成幸の父、唯我輝明の遺影を抱えた成幸の母、花枝はその花火を眺めて呟いた。

花枝「輝明さん、あの日貴方は冗談で言ったのかもしれないけど、本当の事だったのよ。見えるかしら、貴方と同じ立派な教師になってる成幸は20年前の今頃、触れ合っていたうるかちゃんと結婚して幸せになっているのよ。」


輝明(ああ、見えてるよ。)


成幸「いたた…。うるか、怪我はないか?」

うるか「うん、大丈夫だよ。って、何で皆んなも倒れてるの?」

文乃「そんなの…自明だよ…。」

あすみ「ああ、誰かに押されたと思ったら…」

理珠「成幸さんの妹さんでしたね…。」

後ろで水希は顔を青くしている。文乃と理珠とあすみの3人は水希を捕まえて引きずっていった。

志保「やっぱりお父さんとお母さんは仲良しだね!」

うるか「うう…。なんか照れるよ…。」

大希「せめて子供が居る前ではいちゃつくなよな!」

成幸「すまんすまん。さあ、花火はまだ上がるから続きを見よう!」

唯我一家は次々と打ち上がる花火を眺めていた。

うるか「ねえ、志保。お母さんがお父さんを選んだ理由だけどね…真面目で努力家で、学生時代ダメダメだったお母さんを絶対に見捨てずに助けてくれた恩人だからなの。」

志保「うん。お父さんらしいや。自分第一じゃなくて、他の人に尽くせるって。だから文乃さんとか、理珠さんとか、あすみさん、桐須先生もお父さんのことが好きだと思うよ。」

うるか「でも、最後に選んでくれたのはお父さんだったんだ。お母さんがオーストラリアに留学に行く日、飛行機に乗る前に告白してくれたんだ。本当に嬉しかったんだよ!」

志保「お母さん可愛い〜。お父さんが本当に大好きなんだね。」

それを聞いていた成幸は腹を括ったように頷いた。

成幸「お父さんもお母さんのことが大好きさ。なあ、うるか」

うるか「…うん。」

成幸はうるかのことを真っ直ぐ見つめて肩に手を置いた。そして、クライマックスの花火が上がった瞬間に唇を重ねた。

成幸(親父、俺は今本当に幸せだよ。)

流れ星が花火の中を縫うように通り過ぎて行った。

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ぼくたちは勉強ができない X=未来編 YoSHI @Take-Naka

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