第22話


「お着替え中でしたか、失礼致しました。」


「いや、入れと言ったは私だからね。それにしてもこんな早朝から会議なんてやる意味あるのか…」


アレスはふぁっと欠伸をしてダルそうにしている。

よく見ると机の上に書類が大量に積み重なっている。

遅くまで業務をしていたことが伺える。


「私も正直会議にあまり意味を感じていません…やるにしても頻度を減らしてもいいかと。」


「そう思うよね。」


週に一回の会議に出席できるのは団長、副団長、そして補佐の3人だ。

だがほとんどの団は団長副団長だけの出席だがユーリが基本的に会議の内容をまとめる書記係として参加している。

戦場に出ている団もあるが総勢で30人弱出席する。


「あ、そうだ今日は珍しく魔導士団が来るらしいよ」


「あの人達が?」


「そう、会った事ないよね?」


「はい、お初にお目にかかります。」


魔導士団とは赤色騎士団の一つで魔法に特化した団で、黄色守護精にも所属しているという特殊な団だ。

その団長がとても変わり者でアレス曰くとにかく高圧的傲慢的で性格がひん曲がった奴らしい。

しかし魔法力は段違いで青色不死鳥団の化け物級と言われている巫女と同等、もしくはそれ以上で、それも年々強くなっているらしい。

使える魔法の手数も多く古代魔法まで使えると噂。

ちなみに古代魔法というのはアラビアーテ産の魔法であり、原初の魔法といわれている。

現在使い手は少ない。

今主流で世界でも一番使われている魔法は神国産の神国魔法。アラビアーテの魔法は神国では禁忌魔法とされており、強大で凶悪と呼ばれている。

というのも、一度の詠唱で大量の魔力を使い、破壊に特化した魔法が多いのだ。

そして何より魔力が尽きれば魂を削って使うこともできる。

例の魔導士団の団長が古代魔法を使って先日東方であった小国の反乱を1人で全滅させたという噂が立っている。

それに比べて神国魔法は一般人も使い易く魔法の種類も豊富であり、魔法層と呼ばれる魔法のレベルのランクが分かれている。

初階層魔法〜7階層魔法まであり、一般人で良くて3階層、冒険者であれば4階層、魔導士と呼ばれるのは5階層以上で実質7階層魔法はレジェンド級で世界でも数人しか使えず、この国でも魔導士団の団長と青色不死鳥団の巫女しか使えない。

こうしてみると魔導士団団長1人でも強大な魔導士である事は明白であり、今日の神国で重大な戦力である。

しかし、名前すら殆どの人は知らないのだ。

アレスが服を着替え終わり、皮のブーツを紐でギュッと締め上げてベッドから立ち上がる。

そして机の上の資料を見繕い纏め、ユーリが立つドアに近づく。


「待たせたね。ボスを迎えに…ん?ユーリ、なんだか良い匂いがするね。」


アレスがスンスンとユーリに近付いて匂いを嗅ぐ。

それがなんだかこそばゆくて恥ずかしいユーリ


「あ、はい…頂き物のシャンプーを使ったんです」



「なるほどねえ〜女の子かな?ユーリもお年頃だからね。」


アレスがニヤニヤと笑ってユーリを揶揄うとユーリは真っ赤になって言う 


「お…っ!おれ…私は聖職者ですから!」


「あはは、そんな事気にしてるのユーリと巫女様くらいだよ。私だって結婚してるんだし」


アレスは話しながらユーリにドアを開けてあげるとユーリはペコリと頭を下げて通る。


「それはそうですが…」


廊下に出て少し奥に進むとすぐに団長の部屋だ。

よくよく耳を傾けてみるとグォーグォーと中から聞こえてくる。

アレスが少し強めにドアをノックするがイビキはおさまらない。

はぁ、とため息をついて鍵穴に手をかざす。

すると少しチカッと光り、鍵が開く。

ドアを躊躇なく開けると、ベッドから落ちた大男がゴッツゴツの腹筋を出していびきをかいている。

ツカツカとアレスが近寄り拳を振り上げてそのまま思いっきり顔を殴る。

見慣れた光景とはいえいつもヒヤヒヤするユーリを他所に大欠伸をしてのそっと起きる。殴られたにも関わらずアザや血ひとつ垂れていない。


「おぉ〜おはようアレス、ユーリ!いやはやまた寝坊してしまったかな?」


「ウイース、君はまた遅くまで鍛錬をしていたな?会議の日は早く寝るよう言っているじゃないか」


アレスが呆れた顔をしてため息をつくとケラケラと笑うウイースこと団長。


「俺が遅くまで鍛錬していたのをなぜ知っているのかね!はっはっはっ!アレスも遅くまで事務仕事ご苦労!」


なんとも言えず苦い顔をするアレス。

ウイースは立ち上がり洗面器へと向かう。


「今何時だ?」


顔をバシャバシャと洗い、タオルで顔を拭きながら聞くウイースに懐中時計をパカリと開けて時間を確認するユーリの前にアレスが答える。


「もう8時25分。会議は8時45分から!さっさと着替えて!」


「おぉ〜そうかそうか。2人とも先に行っていて良いぞ。歯を磨いて着替えたら直ぐに行く。」


そう言われるがまま2人は部屋の外に出て会議室のある階へ向かっていった。


会議室の扉は開けられていて、中には既に何組もの団が座って待っている。

団は小さいものからユーリの所属している神剣士団のように大きな団も勢揃いだ。

自分たちの席へ向かう途中、花瓶に向かって何かをしている小柄な者がいる。

白を基調にし、青い薔薇の刺繍が施されているローブの下から背伸びをしている足が少し見えている。

その者を他の団の者が不安げに見守っている。


「巫女様、おはようございます。」


「おはようございます」


アレスとユーリが立ち止まり、一礼すると、その者も手を止め、枯葉が付いた服をパッパッと払い恥ずかしそうにしながらシスターのベールから落ちた茶色い長い髪を耳に掛けている。


「あら、神剣士団のお二人、おはよう。今朝も良い天気ですね。」


この者はローリエ。青色不死鳥団の主にして団そのものと言える存在の巫女である。


「何をされていたのですか?」


アレスが大きな花瓶の方を見上げると、後ろから声がする。


「ローリエ様!大きめの椅子をお持ちしました!こちらにお乗りください!」


ローリエと同じような格好をした女性2人が重たそうな椅子を2人がかりで運んできている。

彼女達はローリエの元で働くルリとアイリスだ。

それを見たユーリとアレスは何も言わずにその女性たちに手を貸す。


「私たちが持ちますよ、レディ。」


アレスはそう言いニコリと笑うとルリとアイリスは顔を赤らめて頭を下げる。

ユーリはアレスが持つ資料を受け取り、アレスは重厚感のある椅子をヒョイっといとも簡単に持ち上げる。

そしてローリエの元へ運ぶと、ローリエはお礼を言い、椅子に乗ろうとするが、椅子が高くて乗れない。ローリエは身長が小さく側から見たら子供と同じくらいの身長だ。


「ごめんなさいな、私には少し高くて…」


「これはこれは、気付かずすみません」


アレスがローリエに手をかけようとするとルリとアイリスが走って来る。


「アレス様!私どもが!」


大きな声で驚くアレスもすぐに理解した。

巫女様に男性が軽々しく触れてはいけない。増してや他の団の者の目の付く場所であれば尚更である。

背の高いルリがローリエを抱き抱えて椅子に乗せる。そしてローリエは花瓶に刺さったもはや手の施しようがないほど茶色に渇いた花々に手をかざす。


「【レスレーク】《中位蘇生魔法》」


ローリエが詠唱すると大きな四つの魔法陣がローリエ自身をも包む。

するとみるみるうちに花々は色を取り戻し、水々しくまた咲き誇る。

周りからは喝采のようなざわめきが起きる。

ローリエはその声に驚いて顔を真っ赤に染めた。


「ローリエ様流石です!」


ルリは自分のことのようにフフンと鼻高々である。

アイリスはローリエを受け止めて床に下ろす。


「ルリ、何故貴女がそんなに偉そうなのよ」


「えぇだって…」


「こらこらお二人、皆さんの前ですよ。皆さんお騒がせしました。アレス様、ユーリ様、ご協力感謝します。」


ローリエはニコリと笑い、一礼して自分の席へ戻っていく。

そんなこんなをしているうちに時刻は8時45分を回りそうだ。

ユーリ達は椅子に座ろうとするとウイースが入ってきて、2人を見つけるとニカッと笑い大きく手を振りながら駆け寄ってきた。


「いやー間に合って良かった!」


「ギリギリだよ。」


ちょうど時間になるとやはり殆どの席が空いている。しかし例の魔導士団は見当たらずユーリはキョロキョロと見渡す。

議長がコホン!と咳払いを一つし、声を出そうと息を吸うと、閉められていた扉がギィ…と音を立てて1人でに開く。

そこには影が二つと、後からもう二つが現れる。


「いやぁ遅れてしまったねぇ。すまない皆様」

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