第14話

「もういいや、別にここの人間殺しても仕方ないし。お前だけ殺してお前と王子の首もって帰る。絶対殺す!」


女はまたグッと体を屈める。

あの技がくる。

物凄いスピードでこちらにあの針がまっすぐ向かってくる。

そう、真っ直ぐに。


一か八か、いいか、これミスったら俺、死ぬからな今度こそ…


センカは噴水まで走って行き、ヘリに立ち、両手を前にかざす。

パチッ

そう音が聞こえた。女が飛び出した時に跳ねた小石の音だった。


「【ファーヒルナールセヘル】!!!!」


「甘いんだよ!!!!」


火に包まれながら女は姿を表した。針が頬の肉と耳をガリッと裂いていくのを感じながらも、何とか避け切った。

先程火を足にくらってだいぶスピードが落ちていたこともあり、間一髪だった。

そのまま女ばバシャンと水に落ちた。


「【タルジュセヘル《氷魔法》】」


噴水の水に向かって氷魔法を放つと、飛び散った水滴まで凍る。

女は体を起こす前に氷漬けにされてしまった。

凍った女の体に凍った水滴が美しい音を立てて落ちた。


それを確認し、安堵で腰が抜け、へたり込む。

周りの残った野次馬達は大きな歓声を挙げた。


「おねーちゃんすげぇなぁ!」


「やるじゃねぇか!!!」


「救世主だ!!!ありがとう!!!」


そこにシャムールとシンスが降りてきた。


「センカやったね!」


「すまなかった、私がやられたばかりに…」


シャムールの真っ黒な大きな羽根は役割を終え、パリンとガラスが割れるように消えて行った。

野次馬の中に、それに畏怖する者がいた。


「おい、あのガキ魔族じゃねぇのか?」


「モンスター?何でこの街に?」


「あいつらを狙ってあの蜂は暴れてたんだ!あいつらさえこの街に来なかったらこんな事にはなってなかっただろ!」


「そんな事よりここにいたみんなを庇って戦ってたじゃない!」


「そうだ、命の恩人だろう!」


街の人々で喧嘩になってしまった。

そんなこともお構いなしに先程シンスの治療に使った血清で解毒し、傷を癒すシャムール。

しかし、逃げ隠れていた街の人間も出てきて、シャムールに石を投げてくる者もいた。


「あだっ!はは、

ナイスコントロールじゃん」


頭に当たった石を笑いながら拾うシャムール


「おい、あいつ投げ返してくるんじゃないか?バケモン!出ていけ!」


「な、お前らが投げてきたんだろ!」


センカが言い返すがシャムールは止める。


「まぁ仕方ないよね、俺も自分が何者かよく分かってないし、折角センカとシンスが命張って守った人たちなんだから…殺しちゃうのも勿体無いしもう行こ?」


センカはシャムールが最後に言った言葉が冗談なのかわからず、突っ込めなかった。


飛んでくる石は増える。


「やめんか!!!!!!」


男の声がこだまし、騒ぎ声も静まった。


大きなホテルの入り口から出てきた、声の主はルーブだった。


「この者達は私の命の恩人だ。仮に彼らが原因の騒ぎであっても命を張ってこの街の人間を守り抜いたではないか!」


「でもそいつらのせいで街が壊れて…」


1人の男が言い返すがその男の方をギッと睨み、言った


「街?私の敷地内ではないか。私の私有地に傷がついてなぜお前が文句を言うのだ?ん?お前が立っているその整備された場所も、私の私有地なのだが?」


男は何も言えず俯く。


「今よりこの者達に石を投げる者はこの私の私有地を利用する事を禁じる!おお、ここの街の殆どが私の土地だから生きてはいけまいな。」


街の住人達は黙りこくり、自分は関係ないとばかりにそそくさと立ち去る者、心配そうに3人を見つめる者、悔しそうに睨みつけている者。まだ少し騒めく広場の真ん中にいる3人の元へ歩み寄る。


「約束だったよね?僕のホテルに泊まるって」


「でも…」


困ったような顔をするセンカに優しくニッコリと笑って見せるルーブ。


「約束は守る主義なんだよね、僕。さ、ほら3人とも一緒に戻ろう。」


3人がホテルに入ると、自然と人々も散り、街は静まりかえっていった。


テラスのあった最上階に用意された奥の部屋に案内された3人は、ルーブを待っていた。

見せたいものがあると一度退室していったのだ。

その間、3人は無言だった。

無言の空間に乾いたノック音が響いた。

ルーブだった。


「いやぁお待たせしちゃったね。」


ルーブの手には手紙。


丸テーブルに4人、腰掛け、ルーブが真ん中の豪勢なランプの光を魔力で調節している。


「…あの、ルーブさん…俺たちの事気付いてますよね?」


センカは、シエンナではなくセンカとして話しかける。


「…まぁ流石にビックリしたけどね」


「…」


3人は何も言えない。


「まさか惚れた美女達が国際指名手配犯の男二人組だなんてね」


「え!?だれが?!」


シャムールが立ち上がる


「え?蘭ちゃんシエンナちゃん改め龍國シンスドルヴァ・スーア王子、宝石持ちの元冒険者のセンカ君。男の子だなんて今でも信じられないよ」


「え、うそ、おれもしらなかったよ…え?2人とも男なの?」


「…なんでお前が1番驚いてんだよ…」


センカはシャムールの視線に耐えられず頬を掻き、目を逸らす。


「まぁ…女装してるなんてみっともなくて言いにくくてな、黙ってて悪かった。」


「すまなかった…」


「見して。」


立ち上がったまま表情一つ変えずに2人をじっと見下ろすシャムール。


「は?何を?」


「ち◯こ!!!!!!!!!」


「はあ!?」


「ちょっと僕も見たいかも」


「ばっ!ルーブさんまで何言ってんだよ!」


「構わないが」


「シンス!!!お前は黙るんだ!!!」


センカはシャムールの頭をポカッと殴る。


「シャムールお前馬鹿か!」


「馬鹿じゃない!大事な事だろ!仲間なんだから!さー!」


シャムールの顔は悲しみでも怒りでもなく、ただの好奇心に溢れた馬鹿なエロガキそのものであった。


「バーカどうせ一緒に風呂入ったりする機会があんだから別に今じゃなくてもいいだろ」


「いつか見せるなら今でもいいじゃん」


揚げ足取りやがってこのガキ…!


「それも一理あるな…」


何納得してんだシンス


「僕は見る機会ないからぁ」


何期待してんだルーブさん


「だー!!!ち◯この話はもういいんだよ!ルーブさん、見せたいものって?」


「あぁ…そうだったね…」


明らかに残念そうにするルーブにちょっと引きつつもルーブが開ける手紙に全員の視線が集まる。

手紙はしっかりとした厚紙で金粉が散りばめられた封筒に入れられている。

中身を開くとそれはゴールドの招待状であった。


「オークション?」


「うん、これはいわゆる闇オークションでね、二日後に行われるんだ」


「それが何かあるのでしょうか」


シンスが質問する。


「シンス王子、一応お聞きしますが腰の短剣は本物ですかな?」


シンスが短剣を取り出し、机に置く。


「ただの鈍だ。王族が使っていた国宝の一つ、龍牙双剣りゅうがそうけんは失われている。」


「それが、今回のオークションにでます。」


「それは本当なのか!」


封筒の中のもう一枚の紙をだし、広げる。

そこには当日出品されるオークションの品名が列挙され、上部には目玉商品として絵まで添えられている。

そこには確かに龍牙双剣と書かれ、その下に龍を彷彿させる柄や形をした短剣が描かれている。


「取り戻すのに協力してもいいと思っているんだ」


ルーブの言葉にシンスはゴクリと緊張する。

その言葉の続きにはどのような条件が述べられるのだろうかと。


「命の恩人だからね」


「…条件は?」


「え?だから命の恩人だから」


「救ったのは私ではない、私個人に貴殿が協力する義理などないはずだ。」


ルーブは少し困った顔をし、顔を赤らめて頭をかいた。


「いやぁははは、ただの好意じゃダメかなぁ?」


「俺からも聞きたい。ルーブさん、ここは神国の支配下になったばかりの国。神国の敵である俺たちに協力していいのか?」


「神国…うんまぁそうだねぇ僕は神国を好きじゃないんだよねぇ、他の国民はだいぶ洗脳されてるけど上に立つものとしてやり方は好きじゃないんだ」


「…」


シンスはルーブを見つめる。

シンスの瞳をセンカが見て理解する。


「なるほどね」


「ねぇごめん俺全然ついて行けてないや神国が何したの?龍國がシンスの国?」


「すまない、シャムール後で私がゆっくり説明しよう。…ルーブ殿、私に協力していただけるという事だが、何かできることはあるだろうか?」


「実は…ね、一つ条件はあるんだ」


「なんなりと。」


ルーブは真っ赤になってモジモジしている。

センカとシャムールはその動きに警戒していた。


「シ、シンス王子をぅ…!エスコートさせてくだひゃ!!!!」


もはや緊張で滑舌が悪すぎて何を言っているのか分からない…が、そのオークションにシンスも妻として同伴してほしいとの事だ。


「私は男だが…」


「フリでいいんです…!ドレスアップとか、全て私の方で用意させていただくので!」


「いいんじゃねぇの?シンスの容姿ならその辺の女より美人だぜ」


「センカもよ…♡」


チュッと投げキッスをしてパチッとウィンクして見せるシャムール


「ガキ黙れ」


シンスは少し戸惑いつつも、分かった、とだけ答えた。

するとルーブは告白が成功したかのように立ち上がってガッツポーズをし、ちゃっかりシンスの手を握った。


「ルーブ殿、宜しく頼む。」


シンスはそれを握手だと勘違いし、握り返すとルーブは無事逝った。


穏やかな空気に包まれる中、カサ…と物陰で何かが蠢いた。

それにシャムールだけが気付き、ショックを受ける。


「うわ…ゴキブリ…」

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