第11話

「おい聞いたか?指名手配犯がこの街に来てるらしいぜ」


「怖いよなぁ国家転覆罪、一発死刑なのにな」


「強姦や強盗もしてるらしいぜ!」


雑多の中から聞こえてくる会話の殆どは、今話題の指名手配犯の二人組の男の事だった。

そんな会話を聞き流しながら大きな広場へ出て、ベンチに座る。


「はー、やっぱり人混みはキツいぜ…にしてもこのバカでけーホテル、いくらすんだろうな〜ケッ!クソ金持ちどもめ。」


「今は仕方ない…野宿も覚悟しないとな」


2人は大きなため息をつく。

そこに一つの影が落ちた。


「お嬢さん、お嬢さん」


「なんでしょう。」


ナンパか?とギロリと睨みつけるセンカに、不用意に返事をするシンス。

視線の先には先程魔石を買ってくれたおじさんが手に2つ、アイスを持ってニコニコしながら立っていた。


「さっき魔石売ってくれた子だよね?連れの子も可愛いねぇ。良かったらうちの店のアイス、味見してみてよ。」


「あぅ…!さっきはどうも〜!」


立ち上がりぺこりと頭を下げるセンカ。

シンスも礼を言い、センカの分のアイスも受け取るが、おっさんはなんだかシンスの顔をジッと見ている。

そしてフルフルと頭を振ってまた笑顔に戻った。


「いやぁさっきの魔石、いいねぇ〜水魔石なんてちょっと魔力入れるだけですぐバケツ2、3杯分は貯まっちゃうよ!しかもそれが冷たいのなんの!ちょっと暖かくなってきたから助かるよ。火魔石は私の経営するレストランとホテルで使わせて貰うよ。」


「喜んでいただけて光栄ですわ♡それに、色んなお店を経営されてるんですね…凄い!」


おじさんの側に擦り寄り、上目遣いでぶりっ子するセンカを見ながらシンスは美味い、とアイスにかぶりついていた。

そんなセンカにデレデレするおじさんはいい気分になったのか、一つ提案をした


「お嬢さん方旅してるって言ってたよね?もう宿は取ったのかな?もし取ってないのならうちに泊まらないかい?」


「え?いいんですか?!でもどこの…」


「ここだよ。」


おじさんが後ろを指差す。

先程の高級ホテルだ。


「ええ!?!ここかよ!?」


驚きでちょっと素が出てしまった。


「うん、お嬢さん方が良ければだけど…」


「願ってもない!」


センカは大喜びで下の方で見えないようにガッツポーズをしている。


「ほ、本当によろしいのか…?」


流石のシンスも不安そうである。

おじさんはにっこり笑って是非と言う。


「そのかわり、今夜私とディナーしてくれないかい?」


夕飯もゲット。

2人は快く承諾した。


「あっ待って!実はもう1人ツレが…」


「うんうん、良いよ連れておいで」


「良かった…ありがとうおじさん♡」


センカはおじさんの頬にキスをした。

おじさんは悩殺され、とても満足そうにし、夜にまたここで待ち合わせを約束してスキップして去って行った。

去ったことを確認に高速で口を拭うセンカ。

それをみて感心しながら、


「徹底しているな。」


シンスは言った。


「こういうのは大袈裟なくらいがちょうど良いんだよ。」


ぺっと唾を吐いてまたくちを拭った。

宿も夕飯も確保できたので先程の店に戻ることにした。

うんざりするような人混みにまた2人は足を踏み入れ、シャムールを迎えに行く。


店に着くと奥からシャムールと娘の楽しそうな声が聞こえてくる。

歳の近い者同士で楽しいのだろうと微笑ましく感じる2人。

店主に許可を取り奥に入っていくと2人の会話が聞こえてくる。


「えー!シャムール趣味悪いよー!私は巨乳になりたいもん!」


「いやー貧乳もいいよ、それを恥じらってるのがまた堪らないんじゃん〜!お子ちゃまには分からないかもな!」


何つう会話をしているんだこのガキどもは…とあきれるセンカと苦笑いするシンス。


「あ!2人とも早かったね!どう?ヴィオラがやってくれたんだ〜!」


椅子から降りて、くるりと回ってみせる。

髪は器用に編み込んだハーフアップにしてある。


「髪も切ってもらったんだ〜」


床まで伸びていた髪は腰で整えられている。

黒い床かと思ったらそれはシャムールの髪だった。


「凄い、器用だなヴィオラ。シャムールと遊んでくれてありがとう。」


シンスが少し屈んで、ヴィオラの頭を撫でる。


「ふふ!これくらい私くらいの淑女ならできて当然なのよ!」


嬉しそうに頬を赤らめてエヘン!と胸を張る。


「良かったな、シャムール」


センカが背中をポンと押すと、エヘヘと嬉しそうに笑いながら見上げるシャムールを見下ろして笑いが溢れる。

シャムールはヴィオラの方へ駆け寄る。


「ヴィオラ、ありがとう!これ、お礼な!」


そう言ってヴィオラの唇にキスをした。


「ん!シャム…ん…」


「マセガキ…」


センカは真っ赤になって謎に怒っている。

シンスは驚き、何故か少し焦っている。


「ぷぁ…」


驚いてヴィオラが怒ろうとしたが悪戯っぽい瞳で見つめるシャムールの目にドキッとしてしまい、ただ顔が真っ赤になってしまう。

そしてぎゅっと抱き締められ、ドッドッと心臓が鳴り張り裂けそうになる。


「後で、ちゃんと見てみて」


離れ様にシャムールが耳元で呟いた。


「え…?」


パッと離れてシンスとセンカの腕を組み、ニッコリ笑って店から出てってしまった。

ポカンとしていると、何やら口の中が違和感…それを手に取ってみると、純金に光る紫色の宝石が入った指輪だった。


「…もう、仕方ないからもらってあげるわ!馬鹿なシャムール!」


ヴィオラは左の薬指にピッタリはめて、嬉しそうに眺めていた。

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