第10話

まだ夜が明けきらない、夜空と太陽が同居する空の下、3人は山守に礼をして出立した。

危険な道では病み上がりのセンカをシンスが途中で抱えたりして、街へは昼前には着いた。

この街はチャルナ王国の領地、タルゴリァ。辺境にも関わらず栄えている大きな街だ。

街へ入る為の門は警備がしっかりとしていた。

入る際に名前もわざわざ書かされ、何しにきたのかを質問される。

昨日新しくもらった名前をシャムールは早速記名する。


「あれ、そういえばあいつ字書けるのか?」


記名し終えて門番と対面するのに並んでいたセンカは後ろにいたシンスに聞く


「そういえばすっかり忘れていたな…シャ…」


振り返りシャムールに話しかけようと声を出したその瞬間だった


「貴様!!何だこの文字は!!」


門番の声が鳴り響く。


「え?これじゃない?じゃあこれかな?これでもないなら…そうかここは神国文字か…危ない危ない」


シャムールは何度も書き直している。

シンスがフォローに向かうとその紙には見たことの無い文字が並んでいる。


「ごめんねぇおじさん!俺の国の文字でさ、つい癖で書いちゃったんだよね〜許して?」


シャムールの瞳が一瞬、妖しく光る。

キツく睨んでいた門番の顔が緩む


「そうでしたか、分かりました。お通りください」


「ありがとー!」


さぁ行こうとシンスの背中を押してセンカのいる奥へ進んだ。

しかし、あの見たことのない文字は一体…中には多分難しいアラビアーテの文字もあった。

つくづくこの子の能力の高さに驚かされる。

その後は何事もなく街に入ることができた。


門を抜けた先にある街並みは石造の家が建ち並び、道路も舗装されている。

広場には噴水もあり、とても整備された美しい街だ。

街ゆく人々の顔は明るい。

少し奥へ進めば市場があり、果物や雑貨などが売られている。

賑わい、というより客引きでもはや戦争状態とも言える。


「センカ、シャムールの服を買った方がいいと思うのだが…」


「あーそうだな、いつまでもその格好はちょっとな…俺の血も付いてるし」


シャムールは自分の服を見下ろす。

確かに見窄らしいしちょっと汚い…よくこれであの検問をやり過ごせたな、と思う2人。

しかしシンスはあのシャムールの妖しい光る目を思い出していた。

2人の服装はとても清潔感があった。

羽織っていた厚手の上着は此処では暑く、手に持っている。

シンスはピッタリとしたノースリーブのタートルネックに刺繍の施されたちょっと豪勢なシースルーを羽織、下はピタッとした黒のパンツだ。セクシー!

センカはシャツに民族衣装のようなサロペットの短めのスカートを着ている。可愛い!

2人とも遠目から見ても美しいお姉さん達である。

そんな2人に紛れた子汚いガキはどう見ても不自然だ。


「つっても手持ちがなーこの服買うのにちょっと使いすぎちまったから…あ、シャムール魔石吐ける?」


まるで小銭持ってる?的な感覚で聞いてくる。


「え?うん、何か石とかある?」


センカが下山の途中で何個か拾ってきた艶のある手のひらより小さい丸い石を渡す。

それを口に入れてモゴモゴする。口の中に入れた方が魔力の調節がしやすい事に気づいた。


「なんふぁーふぇんほ?」


「そうだなー30%くらいで!」


「ほっへー!」


三人は建物の間の小道に入り、日陰で座り、シャムールの作業を待つ。

集中しないと純魔石ができてしまうのでとりわけ慎重だ。


「んべぇ」


最後の一つを口から出した。

唾液を服で拭い、センカに渡す。

合計四つ、火三つに水一つ。この辺は住宅も多いのでこの二つが割と需要があると思われる。


「おーいい感じ!良質な魔石感出てるな!俺ちょっと金に変えてくるから待っててくれよ」


センカが手を振り、人混みに消えていく。

シンスと2人きりになり、少し意識してしまい緊張するシャムール。

そんなことは露知らずのシンスがシャムールの方へ向き、少し笑って頭を撫でる。


「センカは愛想がいいのでな、こういった役はいつも任せてしまっているのだ。シャムールも人懐こいからきっと上手くできるのだろうな」


「そ、そうかなぁ〜えへへ…でもシンスは綺麗だからなんでも許されそうだよね」


シンスの柔らかい手付きに顔が高揚するシャムール。しかしシンスはその言葉にあまりいい顔をしなかった。というより複雑そうである。


「綺麗…だろうか、私が」


「え?どう見たってちょ〜〜美人じゃん!シンスみたいな美人、惚れない男はいないと思うよ」


シンスの顔が淀む。


「私としては…」


「おーい!いい金になったぜー!」


シンスの言葉を遮りセンカが帰ってきた。


「ギルドに行ってきたのか?」


「いやあそこ俺ら出禁だしバレたらやべぇから行けねーよ…その辺のおっさんに売ってきた!全部で10万ロル!これで暫くは困んねーな!」


「それは凄いな!シャムール、好きな服が買える、よかったな。」


シャムールは値段よりギルドという言葉と出禁という言葉が気になっていたが、あまり聞かない方がいい気がしてあえて黙っているシャムールだった。


三人はシャムールの服を揃えるために露店へ出た。

本当であれば素敵なお店にウィンドウショッピングと行きたいところだが、返り血を浴びててあまりにも汚い格好では入れないので、とりあえず露店で揃える事にしたのだ。


「やっぱりよ、アラビアーテの服装がいいかなって思うんだよな」


センカはシャムールをジロジロと見る。


「確かに暗い髪に褐色の肌の見た目はアラビアーテ人に多い。…そう言えばシャムール、君は先程アラビアーテ文字を書いていたな。もしかしてアラビアーテの言葉も話せるのか?」


「え!そうなのかよ!?やべーなあの難解文字見ただけで頭痛くなるぜ」


「いや、どうかな分からないけど…確かに文字は何種類か書けるみたい!」


「じゃあやっぱりお前アラビアーテ人って事にしておこう。あそこ多分アラビアーテ人がやってる店だな。」


センカが指差す先に頭にターバンを巻いた男性が煌びやかな金の刺繍をされた長い服を着て接客をしている。

シンスはシャムールの手を取る。それにドキリとする。


「ハグれてはいけない、手を繋いでおこう」


「は、はひ…」


脈の速さが伝わってしまうような気がして余計緊張し、指先が冷たくなるのを感じる。


「さぁセンカも。」


「いや俺はいいわ!ガキじゃねーんだからよ」


シンスの手をパチンと一払いする。

シンスへの悪態にちょっとムッとするシャムールに気づき、センカはベッと下を出し、悪戯っぽく笑った。

サングラスを外したセンカの笑顔は結構な凶器だった。

純情な幼い俺、これからこんな美女2人と旅なんて…どうなっちゃうの〜〜〜!?とシャムールは心配していた。

そんなシャムールを他所に露店に到着したセンカとシンスは早速店主にこの子の服をと頼んでいる。


「オー!可愛いお嬢ちゃん!お二人の妹…?とはちょっと違うネ!」


店主がシャムールを見た後、センカとシンスの顔をジロジロと見る。


「私達、孤児院の出で、三人で旅してるんです♡」


え…誰?今の声?

シャムールが声の方を見るとあらびっくりセンカが可愛い声と話し方をしてる。


「わ、私たちぃ、怪しくないわよ」


いやシンスめっちゃ怪しいよ…

青ざめるシャムールとセンカ。

しかし店主はここの言葉はネイティブではないらしく、おーなるほどねー!と笑っているので誤魔化せたのだろう。


「んー、お嬢ちゃんの身長に合うのはこの辺カナ!安くするヨー!」


どれも結構派手で、露出の多いものばかり。

しかしサイズ的にそういうものしかない…があまり目立ちたくない…


「おじさま?アラビアーテの子供はこういう服着てるの?」


センカが聞く。

ナイス、確かにアラビアーテ人の子供がみんな着ているのであればむしろ怪しくない!


「んー着てないね。この辺のはもうコスプレ。」


コスプレとか言った今!?

三人は苦笑いすら出ない


「あーじゃあアラビアーテの子供がよく着ている服がいいなぁ〜…」


「ならコレね!」


出してきたのは肩が丸見えなスケスケのオフショルダーでおなかが丸見えのになっていて、下は真っ白のゆったりとしたズボンに尖った靴だった。

確かに先ほどより派手ではないが、十分目立つ服装だ。


「…これでいいか?」


センカがシャムールに聞くがちょっと嫌そうである。


「コレしかないよー」


「本当にこれアラビアーテの子供みんな着てるの?」


「着てるよー私の娘も着てる。ヴィオラ〜!おいで!」


店の奥からシャムールと同じくらいの年の女の子がひょこっと顔を出した。

手招きする店主の元へ駆け寄る。


「パパどうしたの?」


その子の格好は確かに、お腹丸見え肩丸見えの服装だった。


「この子、ヴィオラと同じくらい年、これ似合うネ?」


シャムールの方にハンガーにかけた一式を並べて見せる。


「うん!とても素敵だわ!貴女可愛いから、このシースルーもとても映えるわ!そうだ!そんな髪を粗末にしないで、私が結ってあげる!パパこの髪飾り頂戴!」


「おーそれはちょっと高い商品…」


「もらうねー!ほら、来て来て!」


「えっ!あちょっと!」


店主の娘ヴィオラにシャムールは奥へ攫われていった。


「…あーじゃあアレ買いで…」


「5000ロルぽっきりで良いよ!おじさん美女大好きネ!」


「あはは…ありがとう…じゃピッタシで。」


袋から金色のコインを5枚出して渡す。

それを受け取り首にかけたポーチにしまう店主。


「毎度あり!お嬢ちゃんどうする?奥で待つ?」


「いや、ちょっと宿も探さなきゃいけないから…後でまた迎えにくるよ。その間うちの子任せてもいい?」


「イイよー!ゆっくりしてってー!あ!最近この辺キケンみたいだから気をつけて!」


「ありがと、じゃあまたきますね。」


店主にお辞儀して2人は店を離れる。

人混みで歩きづらいので一度市場から離れたところへ出る事にした。

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