第9話

マッチョ長男に案内され4人はすぐ近くの立ち飲み屋に来た。

店はまだ早い時間にも関わらず既に3組程の客がいた。客の視線が集まる。

ユーリも背は高い方だがこのマッチョ三兄弟はそれより遥かにデカく、4人が入り口に立つととてつも無く威圧感があるため、一部は少し怯えている。

騒がしかったのが急に静かになったので変に思ったちょび髭にベストでピシッと決めた店主が出てきた。


「店主!今日は我らが若き星!ユーリさんを連れてきたぞ!あるだけの酒を出してくれ!」


マッチョ長男が大きな声でそう言うと店主は大きくため息をつく。


「出たなマッチョ三兄弟〜お前らはデカいんだからちょっとは自重してくれよ!ユーリ様を連れてきたなんて嘘もつきやがって」


一応マッチョ三兄弟も相当偉い立場にいるのだが店主と相当仲が良いのか本当に迷惑そうにしている。


「嘘ではなーい!!!」


マッチョ次男がまたまたデカい声で返事をする。

ユーリの心情は既に帰りたいの言葉で埋め尽くされていた。

店主は不機嫌そうにツカツカと4人の元に歩み寄りモフモフにコートを着たユーリをジッと見る。

するとみるみる内に顔を青くし、その場で土下座する。


「ま!まさかご本人とは!無礼をお許しくださいー!!!」


主人がそう言うと他の客もザワザワと騒ぎ始めた。


「いえ、私もあまりこういう場には来ないので…顔をあげてください」


ユーリも膝をつき店主の肩を持つ。


「おお、噂通りの聖人だ…」


マッチョ三兄弟が得意そうに笑っている。


「ささ!こちらにどうぞ。」


店主が4人を案内したのは奥の部屋、つまりVIPルームだ。

ユーリは特に有名で目立つので気を利かせてくれたのだった。


「店主、すみません気を使わせてしまって」


ユーリがペコリと頭を下げると店主は手と顔をブンブンと振ってとんでもない!と言う。


「店主、ここで一番いい酒を、我が上司に。」


突然マッチョ三男がキリッと顔を決めて言い出す。


「調子乗りやがって、言われずともだ!ユーリ様、飲み方はどうしますか?」


店主がユーリに聞くと、ユーリは少し顔を赤らめて顔をコートに埋める。


「実はあまり酒は得意でなくて…甘いのを頼めますか?」


「ぐ……っ!!!!」


あの剣の申し子のような戦場を駆け抜ける星が酒が苦手で甘い酒を要求するとはマッチョ三兄弟と店主はそのギャップにやられる。


「もちろんでございます!ではおすすめのカクテルをお持ちします。あーマッチョ共はストレートでいいでしょ」


そう言うと店主はどこから出したか分からない酒樽をドンドンドンと3つ机に置き、部屋を後にする。


「おお!酒だー!」


3人はガバッと蓋を開けると、ユーリの方を見て待っている。


「…あぁ、俺のことは気にしないで飲んでください!」


ユーリがどうぞどうぞと手を差し伸べると、


「いえ!ユーリさんと乾杯するのが夢なので!」


マッチョ長男が言い、次男三男もうんうんと頷く。

その様子を見てつい、笑ってしまう。


「あはは!夢だなんて大袈裟ですよ、いつだって誘ってください」


ユーリが声を上げて笑うと3人は驚く。

もう1年以上ユーリの下で働くがいつも冷静沈着で厳かな雰囲気を纏い、戦場では軍神とも思える程、血に塗れた姿も美しいそんな人が、年相応に笑うなどと思わなかったのだ。


「ユーリさんってそうやって笑うんですね…」


つい三男がそう溢すとユーリはハッとなりコホン!と咳払いをしてまた真面目な表情に戻る。


「あ!お前余計なこと言うな!」


「そうだぞ!ばか!もっと見たいぞ!」


「ご、ごめん〜」


マッチョ三男は長男次男に怒られる。

それを見てまたユーリはクスクス笑う。わざと笑うのをやめて三男をいじめてみたのだ。


「…ふふ、冗談です。仕事中には笑う機会なんてありませんでしたから。でもここでは無礼講という事で楽しませてもらいますね。」


「ユーリさぁん…」


マッチョ三男は少し困ったような、しかし嬉しそうな顔をしていた。

歓談していると、店主が入ってきた。


「ユーリ様、ヘーゼルナッツのリキュールをミルクで割りました。お口に合うといいのですが…」


店主は赤と緑で縫われたコースターを敷いて、丸みを帯びたグラスを置いた。

ユーリは会釈をし、手に持ちスンスンと香りを嗅いだ。

その所作の美しさに見惚れるマッチョ三兄弟と店主。


「ありがとう、とてもいい香りです。ではいただきましょう。店主も良ければどうぞ。」


「宜しいのですか!ではいただきます!」


またもやどこから出したかわからない泡の溢れそうなビールを片手に持っている。


「乾杯!」


長男がそういうのと同時に、5人はグラスを(内3人は樽)合わせ、酒を飲む。


「〜〜っはぁ!」


「美味い!」


「生き返るぅ」


ユーリはコーヒーを飲むかのようにチビチビと口にする。


「…!これは美味しい!酒の苦手な私でも飲みやすいです、店主、いい酒をありがとう。」


「喜んでいただけて光栄です!」


暫く飲み続けると酒も回りユーリが上着を全て脱ぐ。首の傷が露わになる。

酒のせいで余計赤みを帯びて目立つ。


「ユーリさん、その傷まだ痛みますか?」


三男が心配そうにしている。

ユーリは傷跡を手で触り確かめる。


「いいや、ローリエ様に治癒魔法をかけてもらえたお陰で全く。それにこれだけの傷をここまで治せるとは本当にすごいお方だ。」


「ローリエ様、俺も一度指を治して頂きましたよ!」


長男が大きな手をにぎにぎと3人に見せる。

指には傷痕ひとつなく5本揃っている。


「小指と薬指の二つ、無くなっちゃってたんですねどね、ローリエ様の魔法で生えたんですよ!」


「もはや化け物じみていますよね」


次男がそういうとうんうんと皆頷く。

そんな中三男が口を開く


「ローリエ様にお会いした事ないんですけど、あのお方は三色聖団みしきせいだんの中のえーっと」


「青色不死鳥の団長であり巫女様!30歳独身!とても美しい女性だ」


長男が答えるとうっとりとした顔をする。

ローリエの事を思い出しているのだろう。

長男が言うように神国には三色聖団という攻の赤色騎士団、守の黄色守護精、そして癒しの青色不死鳥の三つの団があり、その中で枝分かれになった団がある。神剣士団もそのうちの一つだ。


「おいおい、巫女様は結婚できねーぞ?」


次男がポン、と長男の肩に手を置きニヤニヤと笑うと、長男は顔が真っ赤になる


「ば!分かっている!ユーリ様には誰かいい人いないんですか?」


長男は話を逸らそうとユーリに振る。

突然振られて驚きつつも、少し困った顔をする。


「俺は一応、神に使える者として女性とそういう関係にはならないと決めているんですよ」


「勿体ない!!こんなに綺麗なのに!」


次男がそういうとパン!と頭を長男が叩く。


「男に綺麗とはなんか違うだろ!」


すると三男が長男の頭を叩く


「それすらを超える程ユーリさんは綺麗なんだよ!」


「あはは……喜んでいいのかな」


ユーリが苦笑いする。

そんな中三男が急に思い出したようにポンと手を叩く。


「あの罪状見ました!?」


3人の視線が三男に集まり、それぞれの表情が変わる。


「俺、あのシンスって奴らがあんな事するように思えないんですよね。」


次男が渋い顔をしながらユーリに言うと、ユーリは目を瞑り、一度頭をかく。

そして、


「あの罪状は嘘。私自ら調べてわかった事だから確実だ。しかしそれが我々が成す事の為ならば仕方のない事。あの罪状によって他の民もめくじらを立てて彼らに注意してくれるだろう。そうすればすぐに居場所もわかりますよ。」


ユーリの目は先程と違って輝きを失っていた。

3人はそんなユーリを見て、ただユーリが言うのだから間違いないと信じる。


「でも指名手配書のイメージとだいぶ違いますよね、2人とも女かと思うような容姿で最初びっくりしましたよ!」


長男がそういうと次男が続く


「そうそう、しかもあの見た目であの2人相当強い!センカは元々宝石持ちの魔法使いでしたよね。」


宝石持ちとは冒険者ギルドに登録した特に優れた者に与えられるもので世界でも100といない。


「そりゃ強いわけですね。あとシンス、確実に人を殺せる急所を突いてきてましたよね、恐ろしい奴だ。」


三男の言葉にユーリは思い出す。

あの長い銀髪を翻して目に追えぬ程のスピードで後ろに回り込まれてしまった。

狙われたのは喉。しかし咄嗟に避けて急所は外れたがもし当たっていれば確実に死んでいただろう。

あのシンスという男の目は、正直言って綺麗すぎて恐ろしかった。

自分の意思で動く、誰かの下ではなく全てが自分のため…そんな強い意思を感じさせる瞳だった。

自分を否定されている気持ちにさせられて不愉快だった事を思い出し、少し苛立ち酒を一気に飲み干す。


「人を殺す、それに対しては俺たちがどうこう奴らに言える立場ではない!」


一気に酔いが回ったユーリが大きな声で言う。

そして、フラッと目眩がして机に倒れ込んだ。

記憶がそこで途切れた。

それから、一番最初に目に飛び込んだのは…どしっとしたなんだろう服に包まれた肉…


「あ!ユーリ様起きた〜!」


「ユーリ様大丈夫ぅ〜?」


どうやら酔い潰れて介抱してもらっていたようだが、頭に乗る肉の塊は乳であった。

柔らかくていい匂いがする


「す、すまない!」


ユーリは顔を真っ赤にして起き上がり、近づいてくる女2人から後退りし、顔を背ける。


「やだ、ユーリ様可愛い〜照れてるの?」


1人の金髪をふたつに結んだ、恐らくユーリに膝枕をしていた女が露わになった胸を寄せるように手をソファについて顔を近づける。

心臓がはち切れるくらいに自分の中で響いて相手にも伝わる気がして息を止める。

女の顔がどんどん近づく。何をされるのかと身構えていると女のおでこがゴッとあたった。


「んー?熱はないみたいね、ほらお水飲んで飲んで!」


女に手渡されるまま水を飲む。

すると聞き慣れた声が外から聞こえ、ドアがバン!と乱暴に開く。


「ユーリさん!目が覚めましたか!!良かった!!!」


マッチョ長男だ。

ここはあの酒場の二階で泊まれるようになっている。その一室であった。

ユーリを介抱してくれたのはこの酒場のホステスであった。


「ユーリ様お酒弱いとかかわいい〜!」


「いや…その」


ユーリはタジタジである。

そして長男が寄ってきて、耳元で囁く。


「男たるもの、一度くらいは決めないと!ここの部屋取ったんで、明日は非番なんですから楽しんでください!」


ニタニタと笑う長男はそのまま去って行った。

そして女2人は顔を赤らめて既に面積の少ない服をピラリとめくる。

それにしても、2人相手にするのは流石にハードルが高すぎる。

それに、ユーリにとってそう言ったことは正直あまりいい思い出がない。


「すまないお嬢さん方!私は聖職者である。そういうことはできない。」


「どうしても?」


「どうしても。」


「私たちじゃ勃たない?」


「た…いやその」


「じゃあいいじゃん!楽しもーよ!」


2人が服を脱ぎ始め乳はモロ見え、下は下着になっている。

その姿に欲情しない男はいないはず。

ユーリも年頃の男である嫌なはずはないがどうしてもブレーキが掛かる。

2人がショーツに手をかけたその時


「やめなさい」


ユーリの声に2人の手が止まる。


「どおして?」


「2人はとても魅力的だ。私がこういう立場でなければ喜んで抱いていたと思う。でもすまない、これは譲れません…。」


ユーリの表情は何故か悲しそうであった。

あの先程の純情な青年は、叱られて泣いている少年のように見えた。


「え…」


「やだぁ…」


女2人は目を合わせる。

そしてユーリに抱きつく2人。


「可愛すぎる!!」


「もうセッ〇〇とかどうでもいい!可愛い!」


2人は年下のユーリに母性本能が働く。


「いいよいいよ!ユーリ様の言う通りにする!」


「そのかわりユーリ様の添い寝させてよ!我慢するから♡」


女2人に抱きしめられ乳に溺れるユーリは息ができなず問答無用で頷く他なかった。

やったー!とユーリはそのままベッドに押し倒される。

女2人はまるで子供のお泊まり会のようにはしゃいだ笑顔を向けてくる。


「ね、ユーリ様のお仕事のお話聞かせてよぉ」


「いや、秘匿事項だから…」


「いいじゃーん!年中戦争してるけど今どこでやってるのー?」


「私の知り合いがさぁ、南地方に住んでてぇ連絡つかなくて心配なんだぁ」


女たちはユーリの腕を胸に押し付けて甘えるような声で話す。

ユーリもついそんな彼女たちにドキドキしてしまっている。


「み、南地方ではしばらく戦争はないはず…」


「えー!本当?よかった〜私の実家西大陸なんだけど!両親大丈夫かなぁ…」


「西大陸は少し怪しいがすぐに戦争になるわけではないので安心して。その時期になればまた教えるよ」


ユーリは2人の乳への興奮を、取り繕うように爽やかはを心がけてニコリと笑ってみせる。


「ユーリ様…」


「優しい…」


綺麗な女性2人から熱い眼差しを受ける。

正直こんなの、堪らないに決まっている!しかし、そういうことはしないと決めているのだ。落ち着け、落ち着け…

ユーリは目を瞑り深呼吸する。


「ね、ね、他にも教えてよぉ!教会のお偉い様にお話聞けるなんて滅多にないんだしー!」


「私たちチクる相手とかいないしさぁ、ね?オ・ネ・ガ・イ♡」


そういうと女はユーリの耳に息をフゥっと吹きかける。

何かが這うようななんとも言えない感覚が耳から背中にかけて襲う。

しかもそれは何というか、嫌じゃない!むしろ…いやいや!ダメだ!馬鹿!俺!頑張れ!

女達と目が合う。2人の綺麗なグリーンの瞳に吸い込まれてしまいそうになる。

しかしここで負けるわけには…!


「ダメ?」


「う……あまり詳しい話は出来ないけどちょっとなら…」


ユーリは負けた。


「わーい!」


「ユーリ様だーいすき!♡」


2人に抱きしめられ、またもや豊満な乳に挟まれるユーリ。そして、ユーリは眠れない夜を過ごしたとさ…。

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