第3話

「え…!?」


今の今まで仲間だなんだと甘い言葉を言っていたのに唐突な悪口に騙された気持ちになり、ひどくショックを受ける。頭の中を殴られているような表情を隠せない。


「許してくれ、センカは魔力を見ることができる。恐らく君の魔力に当てられたのだろう。」


「そういうことか!良かった俺自分の姿を見てないからすんげぇブサイクなのかと…!!」


何かを確かめるかのように自分の顔を触る。

それを見てシンスはクスッと笑う。その表情も実に可憐で、コロコロと表情が変わるセンカに対して全く変わらなかったシンスの口角が少し上がるだけでなんとも心が熱くなるようだ。

よいしょと立ち上がると隣に座り、顔に優しく触れてくる。

その手は温もりがあるが、少し硬い。マメができているようだ。

このまま唇を奪われるのではと思うほどに近づいてくる。

俺このまま童貞を〜!?!?

と思ったら目に掛かった長い前髪をバッと上げられ、顔があらわになる。

驚き目を見開いていると悪戯っぽく笑うシンスの顔があった。


「やはり、君はとても綺麗な顔立ちをしている。まるで作り物のようだ。」


「ふぇ…?」


サラリと髪を耳にかけられ、ポンと頭を撫でられた。


「こんなに小さいのに、記憶がないなんてな…」


シンスは切なそうに目を細める。

そんな優しいシンスの言葉より、綺麗な顔に見惚れてドキドキしてしまっている自分が情けない。


「おーい」


センカが呼びかけてくる。

ハッとしセンカの方を見ると楽に横たわっていた。


「そいつに惚れんなよ。お前、女か男か分かんねーけどこいつは人間タラシだからな。後で傷つくだけだぞ。」


そう言われ見透かされているかのようで恥ずかしさで顔が熱くなり、誤魔化そうとシンスの手を優しく退ける。


「あ、いやーちょっとね!うんちょっとビックリしただけだよねー!?なんか此処熱いし!?」


「さみーよ。」


わざとらしくパタパタと手を扇いでいると冷静にセンカが突っ込む。

そしてゆっくりと身体を起こし、あぐらをかく。

まだフラつくのか膝に肘をついて頭を支える。


「ちょっとこのままじゃキツイから漏れる魔力の蓋をする方法を教えてやる。魔法の初歩だからすぐ出来るはずだぜ。」


「あ、ありがとう…」


「シンスちょっとそこ代われ。」


そう言われシンスがスッと立ち上がり、席を譲る。

センカが入れ替わりで隣に座った。


「あまり子供を虐めたりするなよ…?」


心配そうにするシンスが後ろから声をかけるがそれに舌打ちをする


「お前に言われたくねーわ」


シッシとシンスを追い払う。2人のやり取りにちょっと笑いが込み上げてくる。

仲が良くて羨ましいなぁと素直に思ったのだ。

クスクス笑っていると目の前に座ったセンカが唐突に鼻をぎゅっと摘む。


「んぬぁ!?」


「息止めろ」


言われるがまま、息を大きく吸って止める。


「よりさっきより魔力を感じるだろ?」


言われてみれば血液とともに身体に充満している物を感じる。

発汗するようにそれが体から漏れているのも、皮膚で感じ取れる。


「それをこのまま息と一緒に肺に吸い込め」


クッと口の中にあった空気を吸い込む。鼻がつままれているので少し鼓膜も内側にへこんで耳がおかしく感じる。

その様をサングラスをずらしてジッと見つめてくる。

なんだか恥ずかしくなり目を斜め上に逸らす。


「集中しろ、また魔力が緩んで来てるぞ」


そう言われハッとなり身体の中の魔力に集中してみる。肺というか、身体の中心に徐々に集まってきている何かを感じ取れる。

それは熱もなく、しかしとてつも無いエネルギーである事はハッキリと分かる。

それが一つになり、中心でパチっと固まる


「よし!上出来だ!呼吸して良いぞ!」


「ぷはー!もう大丈夫?」


「おう!よく頑張ったな!一回で出来るなんてすげぇじゃねえか!」


頭をワシワシと撫でられ、少し照れる。

シンスはおおーと拍手をしている。


「えへへ…何となく体がおぼえてたのかもしれない。」


「よし!じゃ今度は魔法を作り出す感覚を思い出させてやる!外来い!」


センカは新しい遊びに誘う子供のような笑顔で手を引っ張り外へ出る。

「魔法っても細かいのは追々教えるとして、としてとりあえずさっき感じたもんを手から絞り出してみろ!」


「はい!」


左右の手の間に造るイメージでグッと力を入れる。


「ちげぇ!力むんじゃねぇ、魔力を感じろ!それをお前の血管に沿って出すんだ!慎重に、丁寧にだ!」


「はいいい!!!」


さっき固めた魔力を少し解いて、身体の血管に沿って出すようなイメージ…慎重に、慎重に…丁寧に丁寧に…

徐々に魔力が集まってくる


「お!その調子だ!もっと濃く出せ!小さくな!そう!そ…うお!?」


すると両手の間に拳より一回り小さい程の真っ黒な球ができた。

黒すぎて怖い。そこだけ空間に穴が空いたように光すら吸収しているようだ。


「センカ!できたよー!これどうしたら良い?」


「ヤッベェ何それ怖…」


「え?!!?」


センカの反応に動揺し、その動揺が魔力の球にも波紋し、揺れる。


「うわわとりあえず空高く投げろ!爆発する!!!!!」


「御意〜〜〜えあぁあぁいい!!!!」


変な声を出しながらもう兎に角思いっきり投げ飛ばす。

必死だったので目を瞑っていてその様子は見えなかったが、洞窟の入り口で座って見ていたシンスの動体視力ですら捉え切れないほどのスピードで空にその穴は登っていく。

三人はビクビクとしながら空を見上げる。

上空80メートル程度のところ、雲にスッポリ入ったと思ったその瞬間、重たく真っ黒な雪雲が大きな渦を巻いてその穴に吸い込まれていく。

まるで水が排水溝に流れるようにそれはあまりに自然であった。

唖然とする三人の阿呆面を馬鹿にするかのように青空に浮かぶ太陽が三人を煌々と照らした。

こうして出会い、始まる人間っぽい何かと2人の人間のちょっぴり辛く?切ない?生きるという事の物語。

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