第2話
時は変わり、斑雪はだれゆき
シンスとセンカがちょうど山に入った頃だった。
呪われた山の頂上、不自然な春が訪れた中心に横たわる人影。
うぅん…暫く目をつぶっていたは良いが、眠れない。流石にこのままでは埒もあかないし、そろそろ動くとするか…
その小さな体をよっと体を起こす。
とても軽く、起きてすぐの怠さを感じない。今にも駆け出したくなるほどだ。
体を見てみるととても小さい。自分の視点から見ても小柄だ。
身体には真っ白な絹の様な滑らかな手触りの布でできたやけに大きなシャツ。下は何やら服が落ちているがサイズが大き過ぎるのでとりあえずワンピースの様だが、仕方ないこのままでいる他ない。
シャツの下から覗く細い脚は少し日に焼けた様な健康的な色をしている。
そして何より真っ黒で長い髪が身長をゆうに越している。後ろを見ると完全に髪を引きずっている状態だ。
邪魔になりそうなのでとりあえず首に何周か巻き付け、マフラーの様にする。
それでもまだ髪の長さはあまり、引きずってしまうがこれ以上はこの細い首と肩には収まらない。
「まぁこんなところか?」
とりあえず準備は終わり、立ち上がると、辺りは真っ白な雪に覆われている。
周りに目立った木々はなく、恐らく平野…に思える。
自分が横たわっていたところは不自然に盛り上がっていたようで、腰をかけて下を見てみる。降りれない高さでは無いか?恐る恐るその場所からピョンと降りると足が着地した場所から緑が生える。
そこそこの高さだったが足に痛みは感じない。骨に響く感覚もなく身の軽さに感動を覚えた。
そして振り返ると自分がいた場所は何と、高密度の緑と花のベッドだった。
身体の周りに草が生えていたのを見てもしかしたらと思ってはいたが、草を生やしてたのはやはり自分だった様だ。
いちいち草を生やしていてはここの生態系にも影響を及ぼしてしまうのでは…とも思うがやめ方が分からない。
誰かに止め方を教わるしかない。
意を決してとりあえず地平線の方へ歩き出した。
暫く緩やかな坂を降ると、遠くに景色が見えてきて分かったのは、自分がいたのは山であること。
それにしても、ここの山は意外と高いのか、遠くの方までよく見える…と言うかなんかよく見えてしまう。目の調子もおかしい。
視力で言うと100くらいある気がする。いやもっとあるかもしれない。
見ようと思えば向かいの山の木の葉に着いた虫が見える。
遠くの民家がある街は殆ど大きな壁で囲まれている。皆表情が明るくここは平和な国であることが分かった。勿論、乞食や飢えるものもいるようだが、こんな田舎の街なのに殆どが自分で働き、自分の力で生活をしている。とても豊かな生活だ。
他にも見えないかと別の景色の良い場所を探し歩いていて気付いたが、この山は雪が深く、寒さで凍っては雪が降り積りと硬く分厚い層ができているようだ。
その下から植物が生えているのはどういう原理なのか気になって少し掘ってみると土から生えているのではなく、雪に根を張っているようだ。
雪を舐めてみると何かのエネルギーを感じる。
この辺の空気に混ざって香るなんとも懐かしくて美味しい香り…きっと知っているが全く思い出せない。
暫くブラブラと散策していると、随分と降ってきたようだ。山梁を眺めていると何やら光る場所がある。
人がいるかもしれないと思い、早速急坂を下ることにした。
所々出る岩を伝って降りる。目に見えたものの意外と遠かったようでなかなか着かない。
懸命に降っていき、光が大きく見えてきて、光っていた洞窟あたりは少し傾斜が緩やかになっていた。
しかし、この先にいるのは本当に人なのか…もし危険な人間や獣だったら…いやでもこのままではどちらにしろ不安だ。
勇気を出して入ることを決心。
洞窟の中を端からチラリと覗いてみる。
すると、中には横たわる人を庇うかの様にこちらを警戒している人影があった。
しかも驚くことにそこにいた人間はとても美しい女性達ではないか!
1人を庇う様に膝を立てて座る者は長い銀髪をポニーテールにして、白い素肌に黄金の瞳。
横たわる赤毛の子は…なんだかサングラスをしているためよくわからないが多分可愛い。
美人な女性に緊張してしまい、ほんの小さな声ですみませんと言い、近づいて行く。
何も言わずジッとこちらを見ているのでこちらから話しかける事にした。
「あの……俺迷子で…その…」
緊張でなかなか言葉が出てこない。
「此処もどこだかわからなく、って、困ってる…です!」
「「は…?」」
2人が口を揃えて言うと、それに対してビクッとする。何か失礼があったのか!?いやそれとも言葉が通じてないのかも?
「えっ!?言葉が違う!?」
どうしようどうしようと慌ててジェスチャーを試みようと腕をバタバタ動かしていると、銀髪の人が言った。
「いや、言葉は通じている…ただ君は…人間なのか?」
「…」
それにはすぐ答えられなかった。
歩くと草が生えてきちゃう様な者、多分人間ではない気がする…。
二人に人間では無いと言えば逃げられてしまうだろうか?しかし嘘をつき続けるわけにもいかないし、それに嘘をつく事に罪悪感を感じてしまう。
なのでここは!本当に素直に答える!
「すみません!分からないです!」
申し訳なくなり、大きく腰から思い切り頭を下げる。
その勢いで生じた風に円を作っていた岩がゴロゴロと動き、2人は飛ばされそうになるのを必死で耐える。赤毛の子は吹っ飛びそうだったが銀髪の子が服を掴んで押さえる。
何が起きたのか今のは自分のせいなのかわからない。今のは俺が?後ろから風が吹いてきたんだな…そう思い本人の中では解決した。
一瞬の風が収まり、唖然とする銀髪に比べ、吹っ飛びかけたくせに落ち着いている赤毛の子がゆっくりお身体を起こした。
「なぁ、お前記憶がないのか?」
話しかけられて驚き、すぐに返事できず吃る。
「え、そふ…です…」
「つまり迷子で記憶喪失で困ってると」
膝を立ててあぐらをかき、サングラス越しから目を離さない。
それにドキドキしながらも、
「はい!」
いい返事ができた。
「ふーんちょうど良かった、俺たちお前に会いにきたんだよ。」
「へ?」
ニコリと広角を上げ、少しずらしたサングラスから小豆のような変わった色の瞳が見える。
その目は笑っていなかった。
それ以前に、センカは震えていたのだ。
「俺のこと知ってるってこと?」
「いや、俺たちはお前の魔力が必要で来たんだ。そこでよう、俺たちに協力してくれるならお前を世話してやるよ。つまり、仲間になってくれっつー話だ。」
願っても無い話に驚きつつも喜びを隠せないが、魔力というワードが少し気がかりである。
「えっ!本当に!でも俺魔法とか使えないけど…」
「とりあえず座ると良い。私たちのことを少し話させてくれ。」
銀髪の人が臨戦態勢を解いて、赤毛の隣にドサリと座り、その正面を手で示した。
一度だけ頷きその場所へ座る。
最初に口を開いたのは銀髪の人だった
「早速だが、先ほどこちらの提示した案は飲んでいただけるか」
「本当にいいの!?」
「いい!じゃあ決まりな!!」
間髪入れずにサングラスの人がそう言いパンと手を叩いた。
「ほんじゃとりあえず軽く自己紹介な。俺はセンカ。そっちはシンス。簡単に言えばお前の魔力でコイツの呪いを解きたい。」
「えっ!いやだから俺魔法使えない…」
「いや良いんだ。お前の魔力はあくまでエネルギーとして使うだけだからな。あと本当に俺たちについて来るで良いんだな?後で無しはないからな?」
「わ、分かったよ…センカ、シンス、よろしく。」
2人に握手の両手を差し出す。
「私のことに巻き込んでしまって悪いな、よろしく頼む。」
シンスは右手に
「ま、ちょっと長い付き合いになるかもしれねーから、よろしく頼むぜ」
センカは左手を取り、握手を交わした。
「あれ…センカの手めっちゃ冷たいね。それに震えてるし大丈夫?」
「あーー!!そうだ!大丈夫じゃねーよ!お前が魔力ダダ漏れのせいで俺の魔石が壊れちまったんだよ!」
実のところこの小さな体から発せられる異常な魔力に当てられて震えが止まらないだけなのだが、それを誤魔化すためにセンカはペシッと手を振り払う。
「えぇ!魔石が!?それは悪かったね…弁償するよ。」
すると口の中をモゴモゴとさせていると、大きな飴玉をコロリと転がすように頬が膨らみ、歯に当たったのかコロコロと鳴る。
それを口からポトっと真っ赤な宝石の様なものを出し、袖で拭いてセンカに渡す。
「はい。」
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「…は?」
センカもシンスもそれが何か分からないし見たこともないのに何故かとんでも無いことをコイツがした事は分かる。
それでいて理解が追いつかない。
「あごめん汚いか!」
「いやそうじゃねぇよ!…みせろ!」
センカがサングラスをずらし、手から奪い取ってクルクルと回しながらそれをみる。
それはまるで、賢者の石とも言えるほどに鮮やかでいて少し不気味な程に輝いている。
その石が持つエネルギー量は未だかつて無いほどでセンカの持つ全魔力の2倍、いや3倍以上はただそこにあるだけで感じる。
「すげぇ…これ多分、純魔石だ…まさかお前盗んできたのか!?」
センカに大きく肩を揺らされカクカクと首が動く。
しかし何のことか分からない。
というのも魔石のことも知らないし全くの無意識な言葉と行動であった。
自分が自分でないような感覚。
正直本人も怖い。
「まって、俺今なんかしたしなんか言ったけど全く身に覚えがないっていうか…」
「はぁ!?何じゃそりゃお前誤魔化してんじゃねぇの?」
センカは声を荒げて強く肩を握る。
「いや本当!本当!」
自分でも自分の今の行動がよく分からなすぎて、もう本当恐ろしい。
そんな自分をシンスがジッと観察して口を開く
「嘘を言っている様には見えない。君の記憶が無意識にさせたのかもしれないな。」
きっとそう!と言ってみたものの、センカはまだ少し疑ってるようだった。
「まぁ良いか…どうであれお前が必要なのは変わりないしな。あーで、なぁ、この魔石俺にくれるんだよな?」
センカは既にその魔石を手にギュッと握りしまおうとしている。
「え、うん、俺が壊しちゃった代わりにそれで良ければ」
「よっしゃー!んでよ、お前その魔石の純度調整できるか?多分だけどお前が作った魔石はお前の意味不明な魔力を集中させて作ったんだと思うんだよな。だから普通の石とかにその属性毎の魔力を入れれば割と作れるんじゃないかと思うんだ。」
そう言いながら何個か石を見繕う。
ちょうど良さそうな大きさの石を手渡す。
「これに魔力を?どうやって?」
「さっきやったときに身体にの奥から流れてきたものを感じなかったか?それを手から汗みたいにじんわりと出すイメージだ。30%くらいでやってみてくれ。出来るか?」
センカの、かつてないほどの心の底から期待が溢れた笑顔が嬉しい。
「やってみてる!」
言われた通り、まず先ほど感じた体の中にある物を見つける…うん、何となくわかるような気がする。モヤモヤ〜とした、いや見えているわけではないが形のある煙のようなものが湧いてくる。
それを手から流す…
すると石が触れている所から赤みがかかり、石の表面が赤い結晶となっていく。
全体にそれが覆われて中まで石そのものの性質が変わっていく
「待った!離せ!」
突然大きな声で叫ぶセンカ。
ビクッ身体が反応し、そのまま石を落とした。
落ちた石を手に取りまたサングラスをずらして見る
「うーんまぁ…85%くらいか…ちょっと怪しいな」
「ダメだった?」
「いや!上出来だ!ただなぁこれじゃちょっと良質すぎんな。」
石をくるくると回して色んな面から見る。
そんなセンカを見て何かを察したシンスはため息をつく
しかし自分のことでため息を吐かれたのかと思い、下を向いてごめんなさい…と呟くとシンスがそれに気付き
「いや、すまない今のは君ではなく、センカに対してだ。それにその力は素晴らしい。しかし、センカは何やら邪な事を考えているな?」
魔石を見ながら少しニヤニヤと笑うセンカはシンスにそう言われ、顔をしかめる。
「いや馬鹿かよこれ商売にしないやついねーだろ!なぁお前もっと魔石作ってくれよ!」
「センカ!出会ったばかりでこの様に利用するのは失礼だ。」
「はぁ?つってももう俺たち金ないんだぜ?この装備とか買い換えちゃったし…ほんっとーに頭がかてーのな!」
センカはうんざりとした顔で少しレースやフリルなどがあしらわれている服を指で邪魔そうに、わざとらしくピラッとめくる。
「…」
シンスも少し複雑そうであるが引かない。
そんな2人の険悪な空気に耐えられなくなり、ついつい口を挟む
「あーいやいいよ!俺多分こういう事でしか役に立てないからさ!作ろう!じゃんじゃん作ろー!!」
そういうとセンカはパッと表情が変わりとてつもなく嬉しそうな顔で手を握り顔を近づけてくる。
「お前ならやってくれると思ったぜ!さすが仲間だな…♡」
「え?あはは…」
サングラス越しに切長の綺麗な目と合う。
なんだか早速利用されてる感が否めないが、まぁ今は仕方ないと割り切る。
それを見たシンスはやれやれと横に首を振る。
「…センカ、また私を利用したな。」
「え?」
「ワザと空気を悪くして君からやるって言わせたんだ。」
「そうなの!?」
「何のことだ?俺は等身大のままでいるだけなのに…?♡」
潤う瞳をサングラスをずらして見せつけてくるセンカ。
それになんとも綺麗な瞳にときめいてそれどころではなくなる。
顔がいいと言うのはもはや罪だ。
「う…っ」
「え?」
センカの顔がみるみるうちに元から白い肌が青くなっていく。
そして握っていた手は力を無くしそのままばたりと倒れた。
「うぇ…お前見てると気持ち悪りぃ
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