第24話ノーネット皇国との海戦。
何でまた内陸領のうちに?。
「昔の男爵の子息の護衛の件かと」
フランの言葉にあれかと天を仰ぐ。
国王からノーネット皇国の動きがおかしいので、海岸部への兵の派遣を要請された。
むしろ俺自身の派遣要請だろう。
うちの兵が海戦で役に立つとは思えんからな。
その証拠に兵30と有る。
小さい軍船一隻の人数だ。
「取り敢えず泳げる奴を揃えよう」
「いえ、風魔法の使い手を揃えるべきです。帆船であれガレー船であれ船は風に弱いですから。それにマイクロバスに30人なら詰め込めますから、船が沈んでも脱出可能かと」
領内の事はホワイティに任せて、フランと俺を含めた30人がマイクロバスで空を行く。
「キツいけど我慢してや、もうすぐやから」
「アスカランが見えますね」
ノーネット海軍を阻む為軍港アスカランに船を集結させている。
海軍兵達がざわつく。
そりゃ空から変な乗り物が降りて来ればね。
「ヒルダ子爵よくぞ来られた。感謝いたす」
「国王陛下この度は拙い戦力では有りますが、お呼び頂き恐悦至極に御座います」
「苦労を掛けてすまぬな。正直ヒルダ子爵の魔法頼りかも知れぬ。船の数も海軍兵の数も桁が違うからのう。陸戦なら我等が圧倒的じゃが、敵は海洋王国じゃ」
「ざっと見、我軍は百艘くらいですか?」
「そうじゃな。だが敵は九百六十艘と聞いておる」
十倍かあ。
その上海戦に長けた軍。
かなり分が悪い。
国内の経済悪化の為、他国を侵略して少しでも建て直そうと目論んでいるらしい。
「フラン・・・どうする」
「私が召喚獣として動くのは最後の手段でしょうね。ご主人様はメルソドンの事を仰ってると思いますが。此処は短期に敵を壊滅したいですね」
「しかし九百六十艘と成ると」
「ドスバラス海峡は島と浅瀬が多く、決戦すらなら此処でしょう」
「だが群島の沖を回られたらどうするのじゃ」
誘い込むにも敵も地形ぐらい知ってるよな。
この日の軍事会議は空振りだった。
「フランはどう思う?」
「浅瀬に誘い込むのは無理でしょうね。そもそも敵は大型船が主ですし、来る訳有りません」
「ならば狭い所で挟撃か」
「大きな島か長い半島なら可能ですが、間に有るのは小群島です。直接の戦闘に成るでしょう」
「分が悪いな」
「ならば戦わなければ良いのです」
「上陸させろと。一理は有るが」
「上陸させなければ良いのです」
・・・こいつ無茶言うな。
その夜は無い頭で考えたが、コイン魔法で機雷の設置しか思い付かなかった。
戦わず上陸させないなら機雷しか無いではないか。
次の日俺は28名の部下に、俺のコインに向け風魔法を放って貰った。
「あれ?、魔法が吸い取られた」
「火魔法が出来る奴は火魔法も頼む」
集まったのは風魔法300枚と火魔法70枚。
夜の間にフランとマイクロバスに隠蔽魔法を掛けて、敵の軍港入り口に機雷を設置して廻った。
一週間後、夜中真っ暗な中遥か遠くの空が赤く染まっていた。
「陛下大変です敵が敵が」
「どうした?、大軍で攻めて来たか!」
「敵の船が港入り口で衝突事故を起こし大破炎上してます」
「はっ?・・・もう一度」
「ですからノーネットの軍港で敵船同士が衝突大破炎上してます。火は港の町まで燃え広がり大火に成りつつ有ります。ほぼ壊滅かと」
港町は阿鼻叫喚の渦と化していたと斥候達は言った。
軍船はほぼ焼失し町も焼け野原で死者は数えられないとか。
「関係ない人まで・・・」
「国民が戦を希望したのです。関係ない訳では有りません」
「でも・・・」
「メルソドンは革命で滅びました。国は名を変えコーデリフになり、議会制民主主義国家として、ご主人様が旅をされましたよ」
「あっ!」
「かの国は国民が戦をよしとしなかったので、私が国民を扇動し王族の脳内を混乱させました。私は少し手を貸したに過ぎません。国民が国をひっくり返した訳ですが、今回は国民が戦を望んだ代償です。確かに子供や弱い者も焼け死んだかもですが、大人のせいではないでしょうか。あれが無ければ私達が居なければ、こちらの無関係な、弱い力を持たない人が、沢山死んだ筈ですよ。違いますか!?アルミ様」
「・・・・・すまない」
「いえ、私こそ強く言い過ぎました。申し訳御座いません」
「俺は情けない大人だな」
「いえ優しくて私は好きですよ。リィファ様が居なければ私が惚れていました」
「・・・無情とか非情とかは、大人の言い訳に過ぎないのだろうな」
「神はそう思っておいででしょう」
「女神様が俺を弄んだのは、俺のだらしなさに怒ったからかな」
「いえアルストフは邪神ですから」
「はあ?」
「ですからアルストフは邪神と申し上げました。ただ私はあの方こそ真の神と思っております。ご主人様はどうですか」
「成る程な一理有る」
「良いのですか。この度はアルミ様の手柄だと思うのですが」
「それを言うならそなた達の手柄だろう。魔法を込めたのはそなた達だ」
「いえ私どもには魔法を物質に込めて、接触発動などと言う事は無理で御座います」
「関係ない町民も死んだ戦だ。余り浮かれる勝利とはいかぬ。これでよしとしてくれぬか」
「・・・・・私共、アルミ様が御領主で本当に幸せに存じます」
「照れくさ過ぎます。皆さん頭を上げて下さい。出発しますから」
俺達は詰め込まれたマイクロバスでアスカランを後にした。
盗賊退治や貴族の軍隊相手とは違う切ない戦争の後味だった。
やるせない戦いだった。
悲しくて悲しくて、何とかかんとかそんなものが口から出てくる。
「その歌は?」とフランが聞く。
「イム○ン川と言う歌が昔有って、他所の国の卑劣な遣り方で、歌を乗っ取られて歌えなく成ったのね、それで作られたのがこの歌」
「悲しげな歌ですが、素敵な歌ですね」
「かなりヒットした歌だよ。イム○ン川よりはるかにね。世の中は面白く不条理だよね」
「あはは、面白く不条理ですか、言えてます」
・・・・・「主様申し訳御座いません。もう少し季節が進んでいれば、ホワイティを呼んで敵軍を氷漬けに出来たのですが」
「未だ残暑があるからねえ、あの港全て凍らしても直ぐ解けるね。仕方無いよ。それに町民も何人か凍死しただろうし、イバンのブレスでも火事になるし、黒太郎やギザパン使っても敵の数が多すぎる」
帰ってその日は何もかも忘れ寝る事にした。
そして冬が来て春が来る前にリィファの出産がきた。
男の子だった。
丁度男女二人づつになる。
メイドに抱かれた赤子を撫でて、妻にお礼のキスをした。
「リィファご苦労様」
「ありがとっ」
「こちらこそ」
出産前に土魔法で隣国との峠道や、山地の街道を整備しておいた。
隣国の関所までの道も整備した。
しまった、勝手に隣国の道まで整備して、休憩所まで作ってしまった。
でも何も言って来なかった。
隣国の買い付け商人からは喜ばれたので良いかなあ。
ロバで岩塩を積み峠は越えていた。
岩塩の質も埋蔵量も良いもので、継続的な資金に成ったよ。
今年の冬は沢山雪が降ったのに、山地は少なかったなあ?。
「ああ、あれ私が食べました」
「「あっ」」
「へっ?」
(あっ)は俺とフラン、(へっ)は赤ちゃんを抱いたリィファだ。
言ったのはこやつホワイティ。
スキー場が無くて良かったよ。
麦の植わっていない休耕地をホワイティが凍らして、靴に竹の板を付け滑って遊んでたので、俺はパチ屋スーパーでスケート靴を探して交換した。
「どうだホワイティ、スケートってのはこうやるんだ。片足でくるりと回りバックで走る」
昔成らぬ前世の取った杵柄。
この後家族やホワイティからもスケート靴をねだられた。
おまけにリィファの出産祝いに来たエミル様にもねだられた。
「今度ホワイティ貸してください」
「良いですよ」
ハミルトン領にもホワイティにスケート場を作って貰うらしい。
ハミルトン領を前回の海戦出兵のお礼に訪れた皇太子が、ヒルダ領にもお礼に来た際スケート靴をねだられた。
これ王都にもホワイティの貸し出し要請が来そうだな。
平和っていいな。
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