第22話薬事法違反やろこれ。

関所より北は街道が十字路に成っていて、東西からの馬車等がそれぞれ北に向かっていた。

流石に南の山地はアレでも二千メートルの山があるので、徒歩の人しか見掛けない。

馬車は無理なのだ。

だから俺等のゴーレムと思われた乗り物は人目を引く、別の意味でも。


他の馬車と一緒に街道を北上していたら、行商の親子が徒歩で行くのが見えた。

マイクロを止めて「乗られますか?」と尋ねたら、暫くあんぐりして「よっ、よろしいので?」と言われたから、勿論ですよと乗せてあげた。


「んっ?・・・んん。もしかして子作り渓谷で九年ぐらい前にお会いしました?」

「えっ!、あっああ。あの時の馬車のご夫婦の旦那様ですか」

「これは奇遇ですね。お元気で何よりです。」

俺はマイクロを走らせながら。

「何を行商しておられるんですか」

「山を越えた隣国で薩摩芋を今は育てています。その苗を今回は分けて欲しいとの事で」

「えっええー。あの山地と国境を越えて来たんですかー」

「ええまあ。それくらいの儲けには成りますので。それ程飢饉とかでは貴重な芋ですから」

「なっ成る程。で、どれくらいこちらの国にはご滞在を」

「1ヶ月程度ですかね?」

苗の成育を確かめて帰るらしい。


夕方前にサンバハルと言う国境に近い町に着いた。

親子と別れ俺達は宿を取って落ち着くと夕飯をとる。

食事中に娘が聞いてきた。

「お父さんさっきの親子ってうちの領地の人だよね」

「ああ山間部に住んでるみたいだな。昔はノウスに居たんだけど。でもずっと行商してるんだなあ。大変だ」

「娘さんが凄く綺麗です」

エミル様の長男が言ったけど、本当に綺麗な女性に成っていた。

だけどね、君それ言ったら俺の娘とハミルトン家の縁談が遠退くね。

まあ何となく娘もこの長男には気が無さそうだけど。

エミル様の長男もそれは同じかな。

「それはそうとあの芋はアミル様の芋ですよね」

護衛の一人が言った。

「丁度あの親子に会った頃にハミルトン領の自由市場で売り出したよ。勿論神様スキルの店の商品だけどね」

「あれ一度冷めても温め直したら凄く甘くなりますね」

もう一人の護衛さんが言う。

そうなのだ、紅はるかは冷めても一度レンチンすると前世では、安納芋の糖度を超えていた記憶がある。

まさに蜜芋なのだ。


翌日町を出る時に偶々あの親子の娘さんに会った。

様子がおかしいので尋ねると。

「母が旅の疲れで熱を出して寝込んでしまいました」

「お仕事が有るのにそれは大変ですね」と、長男君が言った。

俺は「どんな感じですか?」と尋ねる。

「少し熱が高いかなと思います。夏風邪なんか引いた事無かったのに」

「アミル様の梅酒有れば私目に売って頂けませんか」などと長男君が言うものだから。

ストレージからポーション仕立ての梅酒瓶を出して、「君からお金は貰えないよ。今回はサービス」と言っておく。

チラリとパチ屋スーパーを覗くと薬屋がある。

・・・・・それ!、完全に薬事法違反なやつだから。

そう思いながらも感冒薬を交換して長男君に梅酒とともに渡した。

薬の飲み方と、梅酒はお湯割りで風邪薬とは時間を変えて飲むことを伝えて別れた。

「気になるなら長男君は町に残る」

「あっ、いえ・・・そんなんじゃ有りまおんせん」

「・・・温泉?。聞き間違いか?。もしかして噛んだ?」

「ニケール君カミカミ」

娘が茶化すと、長男君が顔を真っ赤にして怒ってた。


この子判り易いのう。


成る程長男君はああいった娘が好みですか。

我が娘器量が少し足りなんだのう。

でもお前は父から見ても可愛いぞ。

そんな親バカ心をくすぐられる。


目的の町ストゼロへ直行した。


ストゼロはいわゆるドワーフの職人町だが、他にも多種多様の種族が暮らす町でも有る。

その為あらゆる産業が豊かで、近くに鉱山も有るのだが、ノウスよりはるかにデカイ。

町の名のせいでは無いと思うが、焼酎造りの酒蔵も多い。

ブループラムリカーなんて名産品を売ってたりする。

・・・梅酒じゃねえかって突っ込みが頭に浮かんだ。

ここ6年の産品だからそうだろう。

近くの森で採れる多くの薬草がブループラムリカーには浸け込まれているので効能も確かだ。


俺の精○コイン入り梅酒よりおすすめしたい。


後にこっそりサンバハルに転移して、母親の容態を確かめたら、すっかり回復してて芋の苗植えの指導をしてた。

うん、良かった良かったよ。

後々に娘さんはハミルトン家に輿入れするが、まさかの領主家跡取りなどとは思いも無く、驚いていた。


因に我が長女はこの時の護衛の一人と結婚して、平民の暮らしを謳歌している。

らしいちゃあ、らしい。


おっと話が逸れた。

マルクはストゼロの町でとある親方に教えを乞う事に成っている。

鍛冶場を訪ねて驚いたのは、コイン魔法で鑑定してみたら、反りの無い日本刀に近かった剣だ。

親方に「これ、砂を付けて冷却温度や時間を遅らせて、反りを付け無いの」って言ったら・・・。

親方がプルプル震え出したのを覚えてる。


反りが有ると衝撃が緩和されるのは前世の知識として有る。

反り過ぎると実用性に欠ける。


この鍛冶屋の技術はかなりの物だと、国を越えてまでマルクが師事したいのが分かる。

国外にまで名を知られる鍛冶屋なんてそう無いだろう。

マルクに護身用の魔法付与コインがまだ多く有る事を確かめて、俺等は観光に勤しむ。


「父さんここうちの領都ぐらい有るね」

「うん規模は同じだな」

「昔は広く湿地帯だったと文献に有りますから、ずーと広大な平地が続いてる様です」

「成る程土地の広さがヒルダ領とは違うのか。空から関所に降りる時は霞んで見えなかったな。博識だなニケール君は」

「いえそんな事は」

「どーせ私は馬鹿ですよ」

「まあお前は冒険者の真似事が好きだからな。にしても領都や王都ならどれ位の広さに成るやら」

「王都は五十万を越えるらしいです。国の人口は我が国の5倍だとか」

仲が良い国で助かるな本当、ニケールの話でそう思う。

「大昔は我が国と戦争した様ですが、あの山地と海に阻まれて我が国に負けたと有ります」

「そんなに高く無い山地だけど兵糧や兵を多くは運べんからな。海は海軍力が物を言う。あの時の海賊船を思うと凄いんだろうな」

「それだけに海賊団は厄介だそうです。父が言ってました。あと国境にはやたら魔物が多いそうです」

「まあわざと狩らないからね。山地はそうでも無いけど」

陸地の魔物は空を飛ぶ奴でもない限り駆除出来るが、海は潜られると手が出せ無い。

海洋性魔物にとっては天然の要塞そのものなのだ。


「そう言えばアルミ様は昔、父の船に迫った魔物を撃破したそうですね」

「あの時は内心焦ったぞ、何せ魔法を4つも避けられたからな」

「へえ~、今も海の魔物は相手し難いですか?」

「あれから直ぐ改良したぞ」

「魔法なんて改良出来るんですか」

「魔物も人も生きるものは何かしら熱等を出す。それを追尾する様に魔法付与した。だから空でもある程度命中させられるぞ」

「そっ、そんな魔法初めて聞きました」

「父のは神様スキルだから出来るのよ。普通の人が魔法を改良したらなん十年掛かるか」

「成る程」


その日はストゼロに泊まった。






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