第18話爵位授与。

子作り渓谷側では無く、南の広い街道からヌーシャテル軍は侵入した。

事前に広範囲に渡りコインを埋めておいた俺は、主力で有るヌーシャテル卿の部隊が通るまで、前衛部隊をスルーした。

申し訳ないがヌーシャテル卿以外の人物も巻き添えを食う。

影武者の可能性も否定出来ない為だ。


間違いないあれがヌーシャテル卿のいる本隊だ。

遠くの崖上からパチ屋スーパーで買った双眼鏡を見ながら魔法を発動させた。


フランは前方の隊の司令官や下士官の脳に情報を流している。

後方の大爆発に驚いた下士官が慌てて街道を戻って行く。


後方の部隊は大混乱だが、その下士官達の脳にフランがヌーシャテル卿が死んだ情報を流す。


前衛から戻って来た下士官は状況に唖然とし、直ぐにヌーシャテル卿を含む本隊の中枢が全滅した事を理解し、急いで前衛の司令官の所へ走る。


前衛部隊は慌てて撤退を始めた。


俺はヌーシャテル軍がいなく成った処で、街道を土魔法で出来るだけ元に戻した。

「うん、来たね」

近くにいたエミル軍の斥候達に事の顛末を話した。

当然爆発は知っているし、ヌーシャテル軍の主軸が巻き込まれたのも理解している。

土魔法で街道を普請したのも見られただろう。


少しして何とエミル様本人が来た。

この先の丘陵の草原に陣を既に構えていた様だ。

正直にヌーシャテル卿を亡き者にした事を伝えた。

「本人で有ると思われます」

「そうですか」

「王の裁量を仰ぎますので、今の村から出ないでおきます」

「解りました。」

「急使を王都へ直ぐに向かわせろ」とエミル様は部下に命じた。



数日後勅使はヌーシャテル領とエミル・ハミルトン領へ向かった。

それととある村へも勅使が向かう。

王都の議会はヌーシャテル伯爵の改易を言い渡した。

これによりヌーシャテル一族は全て平民へ落とされた。

一族を前に勅使は言う。

「王議会はヌーシャテル伯爵の一存で軍を動かしたと判断し、他のヌーシャテル一族は処刑をせず一般市民とする。元ヌーシャテル領は新たに子爵を拝命する者が治める事とする」


エミル様もとには、ハミルトン家には全く御咎めは無いと報告された。

それとは別に何やら報告が有るようだ。


例によって自由市場で商いをしていると、何やら仰々しい馬車の一行がやって来た。

俺の前に身なりの良い、大きく派手なバッジを付けた御仁が来たので、焼き芋と紅茶を出してあげた。

「ここらでアルミと言う方が物売りをしてるそうだが、あなたは御存知無いかな?。にしてもこの芋は甘くて美味しいな。紅茶も凄く香りが良い」

とそこへ別の見覚えの有る荷台の下部の馬車が来た。

トットッと歩いて一人の人物が来る。

「アルミちょっと話が・・・」

「あれ?、エミル様何が御用で」

「・・・んっ?、ちょっ勅使様」

「ああこれはハミルトン卿。この芋凄く甘くて美味しいですぞ」

どうやらあのバッジは勅使の証だった様だ。


にしても気さくな勅使の爺さんだ。

露店のベンチで話を始めた爺さんによると。

「あんた、子爵に成ったぞ」

「はっ?・・・いや、要りませんよそんなモノ」

「拒むとヌーシャテル卿殺害の罪で罰せられらぞ」

「そっ、そんな無体な」



「頼むわこの通り、この爺に恥を搔かさんでくれ」



そんなこんなで俺は今王都にいる。

爵位の授与式を終えて帰る処だ。

後見人としてエミル様の旦那様を含め、馬車が3台と護衛が8人。

アルミ・ヒルダ子爵と言う何か悪人めいた名前の貴族の御帰還だ。

領地経営何て前世から現世に至る無学の俺にどうせよと・・・。

「あたいがやるよ」

そう言ったのはあのフランだ。

まあ人間に化けているので問題は無いけどねえ。

こいつ神獣だけ有って頭が良い。

同じ眷属でも、元は玩具扱いだった俺とは違うのだ。

「ゆっ優秀な部下がいて助かるよ」

「心にも無い事を・・・」

「しゅっ、しゅつぱーつ」



「こら!、アルミ。あんたの馬はゴーレムなんだから、私らに速度合わせなさいよー」

後ろから大声でフランに怒鳴られた。

普段の速度で走ってしまったのだ。

だから後続を大きく離して走った様だ。

「「「えええーゴーレム!?」」」

「あっ、バレた」


「ったく乗り心地悪いわねこの馬車。アルミ魔法で何とかしなさいよ」

「全く人使いの粗い部下だなあ」

魔法でスプリング機能を付け足し、荷台内の座席に緩衝マットを敷いた。

「ああコレコレ。アルミ殿から買った馬車に付いてた物だ」

エミル様の旦那様が呟いた。

元ヌーシャテル家の執事やメイドも驚く程快適に成ったらしい。



先ずはエミル様の領都に到着。

未だに町の名前が覚えられない。

旦那様を下ろして、色々お世話に成ったから、パチ屋スーパーで景品交換したものを渡して、明日は新領地へ向かう。


「監察官さん昨日は良く眠れましたか」

「ああ久々の良いベッドでぐっすりですよ」

「それは良かった。旅の宿は割りとベッドのクッションがあれですからね」

「私の様に旅慣れた監察官でも快適なベッドにはそう当たらないです」

「ですよねえ」

新領主と有って、監察官の指導の下施政をする事に成る。

この監察官も男爵位だが治める領地は持っていない。

王都詰めの文官をしている優秀な人らしい。


途中一時住んだ村に寄って挨拶と御礼を込めて、パチ屋スーパーでの景品を色々渡した。

「アルミ殿の魔法鞄は沢山入るのですね」

「ええ凄く重宝していますから、時折これで商売してました」

「私も高額で買った物を持ってますが、仕事道具で満杯です」

「良かったら今度お作りしましょうか。俺・・・私作れますから」

「・・・それは凄いですが、持ち合わせが無いですね。それと私目の前では俺で構いません」

そうこうする内ノウスに着いたので、ここで一泊する事にした。


ある一軒が気になって馬車を停めた。

「アルミ戻って来たのかい」

「あっおばさん」

「家はそのままだよ」

事情を話し家を捨てたが、どうやらそのまま置いててくれたらしい。

中を見ると掃除もしてある。

「「おばさん有り難う。それでねおば・・・」アルミ、僕がここに住んでもいい」

「えっ!?」

「鉱山村の師匠の所は住み込みだけど、休みの日にはここに来たい。だって領都は遠いから」

「・・・おばさん。この家また使わして貰って良いかな」

「何言ってんの。この家はあんたが買ったんだから、今も昔もあんたのもんだよ」

「有り難うおばさん。マルク一度領都に行って皆に紹介してここに来るからな。おばさんまた来ますので、その時はマルクが住む事になります。よろしくお願いします」

「あいよ、マルクまたよろしくね」

「はいよろしくお願いします」

「で、アルミあんた何で領都なんかに行くんだい?」

「えっ?、ああ訳有って領都に住まなくちゃならなく成ったんだ」

仰々しい監察官の馬車を見て一言。

「王家の紋章!?。あんた何かやらかしたのかい。まさか領都預かりの身に成ったのかい。新しい領主様の預かりとかかい」

「いやいや、確かに前の領主の件に関わったけど、犯罪者扱いはされて無いから」

「本当かい。大丈夫かい」

「くっくく、大丈夫ですよ。むしろ昇進ですから。くっくく」

「監察官さん笑う事あ無いでしょ」

「監察官?」

「おばさんこの人これから暫く領主の施政を見張る方ですよ」

「えっ、じゃああんたも役人の1人として行くんだ。ちゃんと良い領主か見といといてね」



そして宿に監察官と泊まり、翌日家の管理をしてくれたおばさんにも、パチ屋スーパーから色々渡して領都に向かった。


領都迄5日かけ長かった旅が終わる。

「サンドブラスターの城壁ですな。やっと到着しましたか」

監察官が馬車の窓から覗いてそう言ったのは、緩やかな下り坂から町の城壁が見える辺りだった。


城門手前で「待て何者だ止まれ」と、衛兵に止められた。

後ろの馬車から監察官さんが降りて来て、衛兵に身分証を見せた。

衛兵は慌てて馬車の紋章を確認し、敬礼一番「失礼しました。お通り下さい」と告げた。

「あの馬車新領主様も乗ってたんだろ。お顔見たかったなあ」

もう一人の衛兵との話し声が聞こえたけど、今目の前にいたからね。その新領主とやらは。

「あーはっは」

監察官笑やーがったよ。

「きゃはは」

フランお前もかー!!。

メイドの一人が曰く。

「だってアルミ様。馭者をなさってますから。普通馭者を自らされる領主はおられません」

「・・・・・そりゃ・・・そうだ」


監察官に言われた大通りを真っ直ぐ行くと、何やら大層な屋敷が見えて来たよ。

・・・あんな所に住むのかやだな。

俺は貧乏性なんだよ。


翌々日紹介を終えたマルクはノウスへ護衛と向かった。

俺はそれから1ヶ月以上も書類の内容を頭に叩き込まれた。

「アルミは物覚えが悪いな」

「うっせえ、元来農家の穀潰しなんだよ俺りゃあ。あったま悪いから傭兵家業してた訳でな。てかこれからおめえの役だかんなこの仕事」

「あたしゃとっくの昔にこの領地の視察は終えてるよ」

「転移魔法使えていいよなお前」

「何言ってんのさ、あんたもコインに願えば出きるじゃ無い」

「「えっ?」あんたもしかして知らなかったのかい」

「えええー」

次の日書類の山から逃げようと転移魔法使ったら、フランに見つかって引きずり戻された。

ううう、書類嫌い。

はあ~3ヶ月掛かったぜ。

「まだ出来て無いけどね」

フランが言う。

呆れた監察官が、やっと領内視察が出来ますなと吐露した。


だから俺を子爵なんかにすんなよなあ。




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