第10話王都にて謁見すの巻。

エミルさんに付き添われて来ました。

王都です。


「また来るとはね」

「嫌なんですか?」

「色んな都市に行くのは好きですよ。元々旅が目的でしたから」

「それは国王に謁見するのが嫌と言ってるのと同じですわよ」

「本音はその通りです」

「正直ですけど、その発言はこれより一切禁止です」

「ですよね。分かりました」


王都の門をくぐり入る時、エミルさんはカードを提示したので、貴族でも出すのかと感心した。



「ノウスを出る時嫁さんに(さよなら)って言いました」

「さよならですか?」

「はい、俺の知ってる土地では、海の男は漁に出る時さよならって言います。それは海に出ると生きて帰れないかも知れないと言う事です」

「王に捕らわれると?」

「可能性は否定出来ないです」

「確かに無いとは言えません。けどね、私は違う考えですわよ」

「それは」

「王軍はヨンセルの様な悪徳傭兵の高ランク者を正す為に有ります。貴方程の傭兵は居場所も敵意の有無も確かめねば成りません」

「そんなの無いですよ」

「それは私も知ってます。でも王は貴方の人となりは御存知有りませんことよ」

「自分で確めたいと?」

ガタッ!、・・・「どうしました」

俺も馬車の外を見た。

王都内で馬車が急停車したのだ、何かしら有るのだろう。


大男と少年がもめている。

「どうかしたのですか、こんな大通りで」


「あっ、お貴族様すいやせん。コイツがわからず屋な者で」

「何を言うか、お前が私の腕を掴んだからだ」

「・・・どうして掴んだのですか」

「ヘイ、この屋台で物を買ったのに銭を払わないんでさ」

今のエミルさんの間は何だろう?。

「後で使いの者が払うと言ってるだろう」

「こういう屋台は即金なんだよ、ツケは効かねえんだ。逃げられたら仕舞いだろうが」

「私が逃げるとでも言うのか」

たまらず俺も口を挟む。

「世の中には色んな人がいるんですよ。貴方だけ特別扱いは平民の間では出来ません。ましてや屋台は日銭で遣り繰りしているのです。ですから今払ってあげて下さい」

「・・・その、今は・・・持ち合わせが無いのだ」

「では俺が払っときます」

突然腕を掴まれた。

「エミルさん?」

「ここは私に払わさして下さい。その人顔見知りです」

「そっそうですか」

エミルさんは屋台の主と大男に詫びを入れていたが、流石に二人とも恐縮した感じだった。

身なりの良い貴族風の少年も、屋台主と大男に謝っていた。

と言うよりエミルさんに無理矢理頭を掴まれ下げられていた。

「ご免なさい」

「私にでは無く、お二人にです」

少年は今度は自身で深く頭を下げ謝った。

「知らなかったとは言え、本当にご免なさい。御二人ともご免なさい」

「坊っちゃん今度は気を付けなせえ、庶民は必死で生きてやす。日銭は貴重な物なんですぜ」

「はい分かりました。有り難う御座いますおじさん」

「結構素直な坊っちゃんだったんだな、良かったよ解決して。そこの貴族のお姉さん有り難うやんした」


「馬車に乗られます?」

「あっ、はい」


この少年は何者だろうかと思っていたけど、しばらくして馬車が王城門に着いた。

門兵に全員カードを見せて、少年も一緒に入る。

正門で少年はエミルさんに、「先程はすいませんでした、エミル・フォン・ハミルトン伯爵。ここで失礼します」と言って別の方向へ走って行った。


俺はエミルさんに促されて正門から王城ヘ入って行った。

長い廊下だけど結構曲がりくねって分かれ道も多い。

「これ、迷いますね」

「それが目的ですから」

「ああ、寺町ですか」

「てらまち?」

「俺の知ってる土地では、寺町の道は敵兵を防ぐ為に、道が狭くて複雑に曲がってます」

「成る程正解ですわ」

でもエミルさんは迷う事無く有る部屋に入った。


「ここで数日お待ち下さい。謁見は直ぐには出来ないので」

「はい、それは良いのですが厠等はどうしたら」

ガチャっと音がして待女風の中年の女性が入ってきた。

「エミル・フォン・ハミルトン伯爵様御苦労様です。アルミ様の待女を仰せつかりましたキルク・ウェグナーツと申します。ここからは私目にお任せ下さいませ」



厠の場所や風呂の使い方等それから、新しい服や帯ひも等を貰った。

キルクさんは気品の漂う中年女性で多くの人の待女を勤めたそうだ。

ある貴族の三女で、身分は今は平民だそうな。

家は継げないので、市井で働き小さな商家の嫁に成ったけど、夫が亡くなって彼女は義弟に商家を譲り今に至るそうだ。

夫の財産を義弟が分けてくれたので生活には困っていないらしい。

俺は弟さんも出来てる人だとと思った。


「謁見の挨拶の仕方とか・・・」

「無いですよ」

「えっ、本当に?」

「そもそも貴族の挨拶を平民に無理矢理させたりしません。不快を与えない平民の挨拶で結構です」

・・・良かったよ。

前世でRe:なんとかってパチスロ打ってたから、ラノベの世界観が強くてね。

「服は特別にご用意しました。サイズは中間の物です」

それはラノベの神官の様なすっぽり被る白い清楚な服だった。

「3日後に時間が取れたそうです。お会いに成りますか」

「それは勿論、忙しい中時間を割いて頂きましたので」

「いえ、こちらが呼びつけたのです。貴方様に選ぶ権利が御座いますから」

「お気遣い有り難う御座います。その日程でお願いいたします」

「分かりました。側近の方にそうお伝え致します」


キルクさんが出て直ぐに食事が運ばれた。

若い女性で俺より下に見えたから16から14くらいかな?。

あんな若い子働いているんだ。

キルクさんが戻って来て、「あの者は粗相は無かったですか、私の姪で新人な者ですから」

「いいえ、そつなくこなしておられました」

「有り難う御座います。では私目隣の待女部屋におりますれば、ご用のむきはお呼びくださいませ」

飯は旨かった。

流石王城だけは有る。

キルクさんの姪ごさんは花嫁修業だそうな。

もう嫁ぎ先も決まっているらしい。



さて謁見の日が来た。

あの迷路の様な廊下を再び、エミルさんとキルクさんに付き添われて、謁見の間に向かった。


扉の向こうに人は殆どいなかった。

横には待女と執事の様な男性が数人いるだけ。

正面には正装をした少年と、側近の男性の間に、玉座の様な椅子に座った王様。

王様は冠を被ってはいない。

衛兵もいないとは思わ無かった。

後で聞いたけど、衛兵は両脇のカーテンの後ろに待機しているとか。


「初めて御目にかかります。アルミと申します」

王様は立ち上がって言った。

「うむ、この度はハミルトン家の争乱に巻き込んで申し訳ない。そしてエミル・フォン・ハミルトンを助けてくれて有り難く思う」

「いえエミル様は良いお方なので助けるのが本筋で有りました」

「そうだのう、色々聞いてはおったがまさか男兄弟が、まさかあそこまでするとは思わなんだ。どうやら叔父のドナヴェルが焚き付けたらしい」

「あの伯爵様はどうなりますか?」

「ふむ、領地併合の折りに死刑とした。罪が明らかで裁判も早かったゆえにな」

「ハミルトン家にはもう一人子女がおられましたが」

「あの者に罪は無いので、公爵家の預かりと成っておる。わしは人の良いユノトーン子爵家に嫁がないかと申したら、快く承諾してくれた」

「有り難う御座います。エミル様も心配しておいででした」

「そちの家族にも悪い事をした。この場で謝罪をいたす」

王様は何と膝を曲げ正座で謝ってくれた。

「そこまでして頂いて恐悦至極に御座います」

「・・・そこで、早速悪いのだが、お主を特級傭兵に登録しておいた。正直に言うと他国の者に成られては困るからのう」

「あっいや他国民に成るつもりは毛頭ございません」

「そうか安心したぞ。それでじゃが、子爵位の爵位も用意するがどうじゃ」

「あっ、お言葉だけで充分です。それではおいそれと立ちションも出来ません」

王様も含め周りが大笑いした。

「言っちゃった」

俺は頭を掻いて恐縮した。



ノウスヘの帰り道俺は、貴族への感想や王様の事を、エミルさんに話した。

「そうね貴族も中には叔父様の様な人が希にいるけど、大多数は王様の様に気さくなものよ」

「気難しいしきたりも有りそうですが、キクルさんの様な方が多いのですね」

「あの人は特に庶民に成ってるからよけいよね」

「あと、ユノトーン子爵家って出て来ましたけど」

「公爵家・・・前国王の弟さんの三男で、しばらく他の町で平民として暮らしてたけど、次男の方が亡くなって、結婚もして無かったから家督を継いだのよ。だから庶民的で領民からも好かれているわ」

「成る程。それはそれとしてあの大男ともめてた少年は王子様に似てたんですが」

「まあ本人だからね」

やっぱりだ。

謁見の時、王様の側にいた少年だ。



ノウスに帰ってしばらくしたら、エミルさんから手紙が来た。

内容は妹とユノトーン子爵の婚姻が決まったとの事。

ユノトーン子爵は穏やかで実直な妹さんが大層気にいったらしい。

ただ最後に、式に私と同席して欲しいとあった。

待て待て待てーぇ。

何で俺が・・・。

エミルさん曰く、私には今家族がいないので同席出来る者がおらず、妹なら貴方を見知っているし、同じく命の恩人でも有るので御願いしたいと有った。

断れないよねこれ。


職業斡旋ギルドにはエミルさんが話をつけてくれて、代わりの人が鉱山村ヘ荷を運んでくれるらしい。

そんなの簡単にはと、思っていたらエミルさんの配下だった。


手紙に貴族様の結婚式に出る服装が分かりませんと書いて出したら、即座にお任せ有れと、仕立て屋が手紙を持ってやって来た。

あ~もう用意してたなエミルさん。


かくしてユノトーン子爵領へとエミルさんと向かうのであった。

ユノトーン子爵領は王都を経由して西の街道を3日掛かった。

直線の進路には山と深い森が有り危険なので街道は無いそうだ。


王都から近く街道の要所であるユノトーン領は豊かな町だった。

「ノウスより一回り大きな町って聞きましたけど」

「昔は王家の直轄領で、王都の壁とか言われてたのよ」

「それってもしもの時の王都の守りって事ですか?」

「そうね今は他国とは健全な関係だし、辺境の町も守りが堅固に成ってるから、むしろ王都の麦倉と言われてるわ」

成る程辺りは麦の畑が広がっている。

大きな穀倉地帯の様だ。

「大豆も育てる必要が有ったから、味噌や醤油はここで生まれたのよ」

そうか偶然だけど、ここで味噌と醤油が造られる様に成ったんだ。

おかげで鰻丼や味噌汁が口に入るのだ、うん感謝だね。



流石にこんな麦畑地帯で魔物が出るわけも無く、一行は無事にユノトーン領カナウって町に着いた。

「ここが領都カナウですか」

「南と北に1日程の距離でカナギとカナビって、衛星都市って言うか衛星町ね、それを持つ珍しい町よ。まあ人口が増えて衛星町に流れたって事かしら」

全員の身分証確認して入門。

きっちりしているなと思ったし、混雑緩和の為入り口が3ヵ所も有った。

実際に見ると、この町はノウスの一回りじゃ無い、二回りいや三回りくらい有る。


結婚式自体は滞りなく行われて、何事も無かった。

新郎の挨拶で俺の護衛が無かったら、新婦はこの場に居なかったと御礼を言われた。

少し小っ恥ずかしい。


お祝い金に女房の梅酒ポーションを添えて出した。

流石に俺の梅酒ポーションはまずいと思ったからね。原料がねえ。

でも梅酒ポーションの事は、こちらにも伝わっている様で、凄く喜ばれた。

あっ、梅酒自体が・・・(汗)。

もう遅かった。(あはは)

うちの町で酒蔵が梅酒造るので、来年からはもっと普及しますよと言ったら、梅酒の造り方を聞かれたので教えた。

うん、この町でも造って貰うと助かるから。

でもリィファさんの梅酒ポーション売れなくなるかも。




帰ってみたら鉱山村ヘの輸送の仕事が無くなってた。

エミルさんの配下の人がある少年へ丸投げして、その仕事を俺が返して貰うと少年の収益がヤバいらしい。

こちらは輸送の仕事が無くても生活には困らないので諦めた。



仕方無く・・・。

しばらく魔物狩りと称して町の外でスロットルをしてたら、違う機種が出てたので打つ事に。

「追風に帆かけて窓の月・・・何じゃこりゃ」


やりながら液晶画面を見るととんでも無かった。

日本でこの機種出したら警察に捕まるよな。

神様の趣味かな。

困った神様だ。

こっこれは、打ち難い。

AV見ながらスロットル打つ様なものだ。

でも嫌いじゃ無い。

げっ、何万枚出たんだこれ。

気付くと億万長者を超えていた。

他国の金貨なので換金が大変だけど、10数億に成ってる。


借家じゃ無くて家でも買おう。

そう思ったらその機種は消えていた。

神様の悪戯?。

『これでギーガンの金貨は無くなったわね。今度からは商品との交換にしてあげるわ。対価は前世のスロットルと同じね。お店はこちら』

話に聞いた事は有るが、ちょっとしたスーパーみたいだ。

「女神様は何で俺にこんなに優しいんだ」

『前世でだらしなくルーズで役に立たなかった貴方が、折角転生出来たのに、命を捨てて迄人を救おうとしたわよね。あの時貴方のコインに神の力を授けたの』

「2回目にコインが武器に成ったのはその為か」

『その後も貴方はおごらず人を助け、お金に強欲でも無かった。普通はスロットルを一杯回して金貨を得ようとするのにね』

「農家に生まれてお金を稼ぐ事の大切さを女神様に教わったからね。今回久々に回して止まらなく成って焦ったよ」

『あの台を打ったら沈没したギーガン号のコインを、全てあげようと思ってたのよ。海深く眠らしても仕方無いからね』

「革命が起きた大陸の国から、逃げようとした国王の船ですか」

『流石に語り継がれてるのね』

「勿論です大金と共に沈んだ船ですから」

『あれは私が沈めたの。余りに酷い国王だったから、革命を促して体制を潰したわ』

「でも貰い過ぎです」

『貴方なら適切に使えると思うからよ。それに国がどうこう成る金額でも無いわ』

・・・・・。

『お詫びも有るのよ。貴方をちょっと前世から弄び過ぎたからね』

「いや俺の前世は・・・どうしょうも無い人間だったから、でも現世は凄く充実してます。有り難う女神様」



さて帰るか。

バカやって無いで仕事探そう。
























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