第55話 父の登場 後編




「魔王様御一行、こちらへ。」


僕らはいつの間に“魔王様御一行“になっていたようだ。

先ほどから村人にそう呼ばれた。


「魔王様と!タクシー運転手と!勇者御一行な!」


ジェイクが訂正する。

勇者御一行が魔王様御一行はまずいもんな、、、。


「失礼致しました。

魔王様、勇者御一行様、、、タクシー運転手、、、様?」


案内を任された村人の顔はフードで見えないが、声から困惑の色が見える。

タクシー運転手なんてこの世界に僕しか居ないもんな、、、。


「この木の頂上で族長がお待ちです。」


案内されたのは一本の大きな木の根本。

この先にはどうやって進めばいいのだろう。


「、、、登れませんかね?」


案内人は困っている様子だった。


「我々は猫の姿で登るので、人間の方が登ることを想定していなくて、、、。

族長は魔王様ならば登れるだろうと仰っていまして、、、。

降りて来るように伝えましょうか?」


「いや、良い。」


魔王様が案内人の申し出を断り、僕らの方を振り返る。


「コウ、我のそばへ。

お前たちは自力で来い。」


僕だけをグイッとそばへ引き寄せると、魔王様と僕の体が一気に空中へと浮上した。


「うわあああああああ!!!!」


高さ、スピードへの恐怖に思わず魔王様にしがみつく。


「黙ってろ、舌を噛むぞ。」


恐ろしい忠告にすぐに口を閉じる。

開かないように、強く、強く。

眼科には森が広がる、ジェイクたちはもう見えない。

透明にしているのでその姿は見えないが、相当距離があるはずのタクシーを停めた場所すら見えた。


「着いたぞ。」


数秒でドキドキ!魔王様と空の旅!は終わった。


「すごい、、、。」


木の頂上、幹をぐるりと囲むように大きなツリーハウスがあった。

ツリーハウスの周りは展望台のようになっていて、柵で囲まれていた。

椅子やテーブルもあり、テーブルの上にはご馳走が並べられている。

魚、肉、フルーツ、野菜、どれも新鮮で美味しそうだ。


「お待ちしていました、魔王様。」


ツリーハウスからルナの父親が出てくる。


「食事をご用意致しました。

ごゆっくりとおくつろぎ下さい。」


「感謝する。」


魔王様が食卓に座ろうとする、僕を引き寄せたままなのに。


「魔王様!

ありがとうございました!

もう怖くないので大丈夫です!」


お礼を言ってすぐに離れた。


「そうか?

怖いのなら手でも繋ごうか?」


僕を揶揄ってケラケラと笑う魔王様に、メイド服を着た猫族の人たちが見惚れている。

どの種族から見てもイケメンなんだな、このチート魔王様は。




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