第50話 政略結婚 前編




「猫族と犬族の友好関係のため、私とあちらの長の息子は結婚させられる。」


「政略結婚ってやつか?

ありがちな話だな。」


ルナはギュッと拳を握り締めながら話している。

リーアとジェイクの反応を見ると、こちらの世界では決して珍しいことでも無さそうだ。


「まさか結婚とはねー。

人質とか、生贄とかだと思ってたけど、違ったのね。」


いや、そっちのほうがビックリするだろ!!!

なんで結婚で驚いたんだコイツら。


「で、その結婚と私が攫われたのは何の関係があったわけ?」


「我らは顔が似ている。

代わりに嫁いでもらおうと思った。」


涼しい顔で言ってるが、その発想は大分ぶっ飛んでいた。


「いくら顔が似てても獣人と人間じゃ代わりなんて無理じゃない?

どうするつもりだったの?」


確かに、髪の色、瞳の色は誤魔化せてもモフモフの耳は誤魔化せないだろう。


「私の耳と、お前の耳を切り落として縫って交換するつもりだった。」


ルナがまたとんでもないことを言い出した。

顔色一つ変わらない様子を見ると、大真面目に言ってるのだろう。

怖すぎる。

ジェイクとリーアも固まっていた。


「面白いやつだな。」


僕らがドン引きしている中、魔王様だけが笑いながらワインを口に運ぶ。

この人のツボがわからない、、、。


「そもそも!

なんでアンタは犬族の息子と結婚したくないわけ?

すっっっごいブスなオッサンだとか?」


「いや、歳は同じくらいだ。

見た目もそんなに悪くはない。」


そう言うと、懐から写真を取り出す。

映っていたのは鼻筋が通って、目がくりくりしたイケメンだった。

黒い髪と同じ、漆黒の毛色の耳がピンっと立っている。


「はあ!!??

イケメンじゃん!!!

この人の何が不満なのよ!!!」


リーアが机をバンっと叩いて抗議する。


「この者に不満はない。

ただ、、、。」


そこまで言ってルナは黙ってしまった。

余程言いづらいことなのだろう。


「話したくないなら聞かねぇけど、、、。

なんか困ってんなら言ってみろよ。」


「そうよ!

ここまで話したんだから言いなさいよ!」


ジェイクとリーアは続きが気になって仕方ないらしい。

口にはしないが、、、僕も。


「私が全てを話せば、この結婚を止めてくれるか?」


なぜかルナは僕の方をじっと見て言う。

その目からは真剣さが伝わってくる、すがるような思いが伝わってくる。

僕には何の力もない、ないのに、この子に何かしてあげたくなった。


「僕にできることがあれば。」


思わずそう答えてしまった。




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