第40話 空飛ぶリス 前編



「さて、行くか。」


僕ら5人を昨晩満腹にした牛っぽい魔物。

狼たちは一頭ずつを数分で食べ尽くし、口の周りに着いた血をペロッと舐めた。

川の水をガブガブ飲んで、少し水浴びもしていた。


「コウ、乗れ。」


魔王様に抱き抱えられるように乗るのも、もう慣れた。

照れは一切なし。


「行くぞ。」


魔王様は後ろをチラッと見て、ライルとジェイクが狼に乗っているのを確認して出発した。

水分補給、腹ごしらえをした狼たちは先ほどよりもスピードが速くなった気がした。


「もう少し離れて乗れ!!!」


「離れたら落ちるんだってば!!!」


相変わらず二人の揉める声が森に響く。




その後、もう一度休憩を取った僕らは夜通し走り続けた。


「コウ、寝ても良いぞ。」


魔王様は僕が眠気に襲われていることに気づき、一度狼を止めた。

ジェイクとライルの狼も止まった。


「いえ、夜ならリーアさんと犯人が止まっている可能性があります。

追いつくチャンスですから。」


眠りしながら運転することはできない。

夜にはタクシーを停めている可能性が高い。

今のうちに追いつかねば。


「コウがそう言うのならば進もう。

眠くなったら寝ろ、支える。」


そう言って僕の頭を撫でる。

不覚にもドキッとしてしまった。


「俺、、、もうダメかも、、、。

眠くて狼から落ちそうだ、、、。」


「ダメだ!俺が支えてやるから進むぞ!

何なら落ちてもいい!」


ジェイクが必死に睡魔と戦っていたが、時々目が閉じている。

そんなジェイクにライルは辛辣だ。

ライルの腕では筋肉の塊のようなジェイクを支えることは出来ないだろう。


「ジェイクさん、、、。

少し休みますか?」


このままでは睡魔に負けてジェイクが狼から落ちてしまう。

残念だがここは仮眠を取るしか無さそうだ。


「コウ、進みたいのだろう?」


魔王様が僕の顔を覗き込む。

僕が進みたいと言えば、彼はどうにかしてくれるのだろうか。

少しだけ期待して、首を縦に一度振った。


「ならば我が叶えよう。」


魔王様がヒラリと狼から降り、木に向かって歩く。

そして木に手をかざすと、強い光が木を包んだ。


「、、、荷台???」


そこにあったのは木で出来た荷台だった。


「まあまあだな。

さて、、、。」


次に魔王様は、自身の両の手のひらを合わせた。

数秒押し付けると、また強い光が現れる。

手を離すと車輪が4つ、手の間から出現した。


「離れろ。」


荷台のそばにいた狼たちを離れさせた。

魔王様が足元にある車輪に手をかざすと、車輪が浮き上がる。

かざした手を荷台に向けて振ると、車輪が荷台にぴったりはまっていた。


「屋根もつけようか。」


魔王様が自身の髪を一本抜き、荷台に向けてダーツのように投げる。

髪は広がり、一枚の布になった。


「幌馬車だ、、、。」


ライルのおかげで1つ、賢くなった。

布のついた馬車は幌馬車と言うのか!


「すっっっっっげえ!!!!!」


ジェイクが目をキラキラさせて幌馬車の周りをぐるぐる回り、眺めている。


「これなら寝ながら進めるだろう?

コウ、どうだ?気に入ったか?」


「魔王様!!!最高です!!!

魔王様万歳!!!」


「本当だな!!!魔王様万歳!!!」


ジェイクも一緒になって魔王様を褒め出した。


「「魔王様万歳!!!魔王様万歳!!!」」


得意げな顔をする魔王様。

魔王でも褒められるのは嬉しいのだと知った。






  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る