第35話 捜索開始 前編



「朝から騒々しいぞ、お前ら。」


魔王様の声がしたが、姿が見えない。

キョロキョロと周辺を見渡す。


「上だ。」


3人で一斉に上を向くと、そこには繭のような物があった。

驚いて見ていると、繭にジワジワと亀裂が入る。


「おはよう、コウ。」


蝶のような羽を生やした魔王様が、繭から出てきて僕に挨拶をする。

驚いて返事ができず、繭と魔王様を交互に見ていた。

羽は一瞬のうちに弾け、光となって消えていった。


「なんだ、あれが羨ましいか?

即席だが、まあ寝心地はそこそこだったな。

今宵はお前の分も作ろうか?」


あの繭は魔王様が即席で作ったベッドだったらしい。

凄すぎる。


「そんなことより!!!

魔王様、タクシーの現在地わかりませんか!!??

今朝起きたら無くなってたんです!!!」


我に帰り、タクシーのことを思い出した。

この人ならどうにか出来るかもしれない。


「わからん。

“あれ“に我の力は通用しない。」


隣でドサっと音がしたと思うと、ライルがその場に膝から崩れ落ちていた。


「そんな、、、リーア、、、。」


絶望した表情に、こちらまで胸が苦しくなる。

ジェイクも拳を握りしめ、震えていた。


「なんだ、あの小娘がどうかしたのか。」


「はい、、、実は、、、。」


タクシーが行方不明なこと、車内にリーアさんが居るかもしれないことを魔王様に説明した。


「なるほど。」


「僕が悪いんです。

鍵をきちんと閉めていれば、、、リーアさんに鍵の開け閉めの仕方を教えていれば、、、。」


悔しさで涙が出る。

下を向き、涙を堪えようとした。

そんな僕の頭を誰かが、ポンと優しく叩いた。


「では、小娘の居場所がわかれば良いのだな?」


魔王様の大きな手が、僕の頭を包んでいた。

なんだか安心感がある。


「小娘を探すぞ、コウ。」


魔王様がニヤリと笑う。


「出来るんですか!!??」


「小娘が生きていれば、追跡することは可能かもしれん。」


わずかだが、希望が見えてきた。



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