第32話 魔王の思い 後編



「お前、タクシーという物を知っているか。」


最近魔族たちの間でタクシーなる物が噂になっていた。

タクシーが気になり、家臣の一人に尋ねた。


「ああ、魔族たちの間で流行している乗り物のことでしょう。

なんでも人間が操っているとか。

その人間は魔族にも丁寧で、親切だそうですよ。」


人間とは弱く、愚かで、我らを見ればすぐに騒ぎ出し、攻撃し、逃げ出すのだ。

長い時を生きているが、魔族に親切な人間など知らぬ。


「、、、少し席を外す。

外の空気を吸ってくる。」


「承知致しました。」


家臣に嘘をつき、城を抜け出した。


「またのご利用お待ちしてます!!!」


森の中で聴きなれない声を聴いた。

見たことのないような乗り物には、男が一人乗っていた。


「あれか、、、。」


警戒されないよう女子の姿になる。

タクシーに近づく。

設定は魔物に攫われた人間の女だ。


「乗せて頂けますか!!!」


口調は部下たちを真似た。

すぐに乗ることを許可された。

ナギリスまで我を運ぶそうだ。


ジャケットを渡し、自宅に泊まることを提案された。

噂通りに親切な男らしい。

まあ、人間に好ましい女子の姿なのだから当然だろう。

自宅で突然元の姿に戻れば、、、コイツは暴言を吐くか、命乞いでもするだろう。




「これはタクシーと言って、人を運ぶ乗り物なんです。

目的地を言って頂いて、運んで、お金を貰う仕事なんです。」


あの後、魔物に遭遇して正体がバレた。

それでもコウの我に対する優しさが変わることは無かった。


「どんな攻撃をしても傷がつかないようになっていて、内部でもお客さんからの攻撃は効かないんですよ。」


その言葉を聞いて、思いつく限りの攻撃をしたがタクシーに傷がつくことはなかった。

ドラゴンを召喚しようとすると、さすがに止められてしまった。

嘘は吐いていないようだ。


「では、これに乗っていない今ならお前を殺せるということか?」


魔王から殺すという単語が出た以上、コイツの接し方も変わるだろう。


「そうなんですよ。

僕自身は弱いので、タクシーから降りてると危険なんですよね、、、。

もっと鍛えたりしたほうがいいのかな、、、?」


そう言って考え込む。

怯えたり、攻撃してくる様子はない。


「あ!ごめんなさい!

タクシーのこと知りたいんですよね。

ここにあるメーターが回って、距離に応じてお金が増えていく仕組みなんです。」


「ここを押すと透明になるので、飛んでも怪しまれないんですよ!」


「まだ使ったことないんですけど、一応地中も進めるみたいなんです!」


その後も我に対する態度は変わらず、タクシーの説明をしていた。


「お前、魔王城専属のタクシー運転手になるのはどうだ?

金ならある、いくらでも払おう。」


「いえ!大丈夫です!」


即答で断られるのは予想外だった。

怖がっている様子もない。


「なぜだ?

良い条件だと思うが。」


「この国も、家も、人も、気に入ってるんです。

魔王城へも呼ばれれば行くので、いつでも呼んでくださいね!」


断れば殺す、と言えばコイツの気は変わるか?と頭に浮かんだが、言わなかった。

このまま、この関係性が好ましいと思った。


「お前は面白いな、気に入った。」


こんなにも人間を好意的に思ったのは生まれて初めてだった。


この時はまだ、コイツのために人間と平和条約を結ぼうだなんて思いもしなかった。




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