第15話 四人目の乗客 後編



自宅に到着して、タクシーを停めた。

彼女を玄関に案内する。

街は静かで、今起きているのは自分と彼女だけなのではないか、そんな気がした。

少しドキドキする。


「お!コウさん今お帰りか!

遅くまでお疲れさん!」


声を掛けてきたのは常連客の魔物だった。

人間の姿に化け、街でよく買い物をしている。


最悪だ!彼女は魔物にトラウマを持ってるかもしれないのに!

人間の姿に化けているから、彼女には魔物だとバレないか?

彼女が気づく前に退散せねば!


「ありがとうございます!

おやすみなさい!」


いつもなら世間話をするのだが、今宵はそうはいかない。

すぐに会話を終わらせようとした。

彼女を守るために!!!


「おやすみ!

って、、、ん?その女、、、。」


魔物が彼女をじっと見ている。

しまった!顔を知っていたのか!!??

もしかしたら魔王城で遭遇したことがあるのかもしれない、、、。

こんな美人だ、一度見たら忘れられないだろう。


「やっぱり!魔王様ですよね?」


、、、魔王、、、様???


「おい、バラすな。」


彼女から煙が噴き出た。

次の瞬間には彼女は2メートルはありそうな大男になっていた。

ハリウッドに出てきそうな顔は変わらずに美形だった。

黒いマントに黒い髪、真っ黒の角。

まさに、魔王。


「うっ!!!」


叫ぼうとしたのに口が開かない!!!


「悪いな、コウ。

今騒がれては困るのだ。」


魔王が魔法で僕の口を塞いだらしい。

行き場を失った僕の叫び声は、空気となって鼻から抜ける。


「タクシーとやらが魔物たちの間で話題になっていた。

我も試してみようと思ってな。」


「さすがは魔王様!

下々の流行にも敏感なのですね!」


魔物が尊敬の眼差しを魔王に向けていた。

目がキラッキラしている。


「今宵はコウの家で世話になる。

明日には城に戻る、大臣たちには内密に、な。」


「かしこまりました!!!」


魔物は夜の闇の中へ走っていった。


「今宵はタクシーとやらの話し、聞かせてもらうぞコウ。」


ニヤリと笑った魔王様の美しい顔に見惚れてしまう。

今夜は寝かせてもらえる気がしない。




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