第6話 一人目の乗客 後編
着陸のほうが難しいかな?
揺れが大きいかな?
と心配していたが、驚くほど静かにタクシーは着陸した。
メーター見ると17と表示されていた。
上がり方の法則はまだまだわからないが、30分間の飛行で最初の5から12増えていた。
「17ペイズになります。」
お客さんのほうを振り返り、声を掛けた。
「お釣りはけっこうですので。」
そう言って銀貨を一枚渡された。
銀貨ってことは100ペイズ?
83ペイズも多くもらってる!!???
3ペイズで安いパンと水って聞いてるけど、これ多すぎるんじゃないか!!??
「こんなに頂けません!!!」
お客さんにお金を返そうとする。
「いいんですよ、これから頑張ってほしいので。」
そう言ってニッコリ笑っている。
「でも、、、。」
僕はオロオロしてしまう。
普通なのか!!!??
タクシー業界ではよくあることなのか!!??
「そうだ!じゃあ次に乗った時に返して頂くっていうのはどうかしら?
次の時までの約束があるって素敵でしょう?」
優しいのに押しが強い。
「、、、わかりました。
次に会う時はもっともっと稼いで倍の額でお返しします!!!!」
僕の見栄を張った言葉に、お客さんは口元を隠してクスクス笑っている。
「ご利用ありがとうございました。
お仕事頑張ってくださいね!」
お客さんが降車する時にそう声を掛けた。
「仕事なら今、終わりました。」
運転席の窓の側まで来てそう言った。
僕の頭の中は ? でいっぱいだ。
「仕事には研修が必要でしょう?
お前にも研修させたほうがいいかな〜って思ったんだよな〜!」
話しながらお客さんの姿が霧のように流れて行き、そこに立っていたのは見慣れた顔だった。
「研修ご苦労さん〜!
これでお前も立派なタクシードライバーだな!!!
あ、姿消すの忘れただろ?
俺だったから良かったものの!!
もう忘れんなよな〜!」
口をパクパクしている僕に向かって神が一方的に話しかけている。
「あ〜、街見て気づいたかもしれねえけど、この世界にタクシーって無いから!
まずは地道に人乗せてクチコミで流行らせていけや!な!
大丈夫!タクシーって便利だしお前儲かるぞ〜!」
またサラッととんでもないこと言ってる。
「研修なら別に姿変えないでよかっただろ!!!
ていうか姿も変えられんのかよ!!!」
やっと出た言葉がそれだった。
「おいおい!俺神様だぜ?
姿くらい変えられるだろうよ〜!
俺のままだったらお前絶対適当に走っただろ?
わかるんだな〜!俺には!」
確かに。
こいつが乗ってきたら会話なんてしなかったと思う。
「これにてね、研修は終了なんでね!
あとは生きるも死ぬも何でも勝手にしてください〜!」
勝手に呼んで、勝手に就職させて、最後にはこれだよ!!!!
もう神様なんて信じない!!!!
「そう言えば、また乗ったら金倍にして返してくれるんだっけ?」
神が馬鹿にしたように笑っている。
「返すわけねーだろ!!!!!
今から腹いっぱい飯食って残らずさっぱり全部使い切ってやるわ!!!」
俺がそう言うと、神がケラケラ笑う。
「お前、元気だな〜!
ま、頑張れよ佐伯交通!!!!」
神の体がフワリと浮いて、どんどん空へ上がっていく。
数秒後には空に溶け込んで消えた。
「二度と現れんなよ〜〜!!!!!」
空にそう叫んだが、神に聞こえたかどうかはわからない。
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