第5話 一人目の乗客 中編



初乗り料金は5ペイズで設定されていた。

しばらくして見ると7ペイズに上がっていた。

どうやら森からナギリス城までは1メーター2ペイズらしい。


さて、現在僕の頭の中では会議が開かれている。

お客様に話しかけるか、否かだ!!!

数回タクシーに乗ったことがあるが、話しかけるかどうかはドライバーによって違った。

ああ!こんなことになるならもっとタクシーに乗って先輩方にご教授して頂けばよかった!!!!


「このお仕事されてどれくらいなんですか?」


お客さんのほうから僕に話しかけてきてくれた!!

助かった〜!!!


「実は今日からなんです。

お客様が初めてのお客様です。」


「まあ!記念すべき初めてのお客さんになれて嬉しいわ!」


ミラー越しに見るとニコニコしてくれていた。

ずっと緊張していたのだが、少しほぐれた。


「ナギリスの城には何をしに行くんですか?」


僕からの会話を振ってみる。


「仕事で少し、、、。」


そのまま沈黙してしまった。

聞いてほしくないことだったのか?


「ここら辺にはまだ詳しくないのですが、ナギリスはどんなところですか?」


無理矢理話題を変えた。


「ナギリス王国は自然豊かなところですよ!

特産物はお花らしいんです。

美術館や、博物館もあるようなので行きたいと思っているんです!」


他にもナギリスの美味しいご飯や、地理について教えてくれた。

焼いた肉をパンに挟んだ料理が気になった。

国の東にある闘技場では戦士たちが切磋琢磨しているらしい。

僕の特技がボクシングとかだったら、職業は戦士になっていたかもしれない。

怖すぎるからタクシードライバーでよかった、、、。


「あ!あれが闘技場です!」


彼女が指差す先に、野球やサッカーをするスタジアムのような建物が見えた。

石でできた壁は丈夫そうだ。

一周ぐるりと客席になっている。


「それで、こっちがナギリスの城です!」


映画でお姫様が住んでいるようなお城が見えた。

一番高い塔の上には国旗が風に揺れている。

城の前には広場があり、噴水やベンチが見える。

ワゴンで商売をしている人もいるようだ。

観光客なのか、国民なのかはわからないが大勢の人で賑わっている。

教科書で見た昔のヨーロッパのような服装をしている人が多い。


空を見上げている数人の人と目が合う。


「空飛んでるとこあんま人に見られんなよ〜!

魔族だと思われんぞ!」


神の言葉を思い出す。

しかしさすがは最強タクシー、ボタンひとつで透明に出来てしまう。


その後、お客さんが空から美術館や博物館もどこにあるか教えてくれた。

ナギリスの国には随分詳しくなった。

今後お客さんを案内することもありそうなので、正直ありがたかった。

初めてのお客さんが親切な人で、僕はラッキーだったかもしれない。


「城の裏手に停めてもらえるかしら?」


お客さんが指を差しながら言う。


「承知しました!」


ハンドルを切り、城の裏手を目指した。


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