第3話 俺
ああ、どれくらいたったのだろうか。
いつからこんなにこうしているのか。
俺は研究者だ。おほん、無論な世界は終わってしまうのだ。ひょんなことから始めた研究だったが、専門的な知識は実は持ち合わせていない。ただ一人で、ずっとあることを調べていた。だから、まあ研究者とは言えないのかもしれないけど。
俺が見たのは、幽霊だった。死んだはずの祖母、いなくなったはずの父、死んだのか、と思った。
ある日家の近くの公園で、それは俺の前に現れた。俺は、俺は無念があったのだ。父親に、あの憎い親父に、言いたいことがあった。だから、まあ、話しかけたんだけど。
答えなかった。というか、聞こえていないようだった。うつろな目をして徘徊していた。これは、恐怖だ。
それ以来、この現象に執着せざるを得なくなった。もちろん、幽霊なんて誰も信じないから、一人で調べるまで。案外、その方が楽だったのかもな。
それに俺が見たものはまあ、現実的に考えれば、幻だ。俺の脳が勝手に作り出したのだろう。
だが、だが、確信がない。確信がないから、俺は研究することを選ばざる得ない。
だから、地球が滅びるなんて、この世界が終わるなんて、思いもしなかった。
やはり、ヒントは世界中にあった。この地球のすべてに。アプリを片手に世界を駆けずり回った。
意外トントン拍子で物事が進んでいく。分からなかった事実が明らかになる。俺は全力を注いだ。
砂漠を歩いていた。ただ漠然と、行き詰っていた。この近くの地域に幽霊に関する噂があるらしい。見た、という者がいるというのが正しいだろう。だから、そうだ。ほとんど噂レベルの話を信ぴょう性を精査して、真実にたどり着くための確率を挙げる。これが近道なのだ。俺の確信だが。
めんどくさい。と思うこともあった。はあ、すべて投げ出してしまいたい。まあ、それは俺が人間だからだろうけど。そうだな、自分から誘っておいて後で恥ずかしくなるタイプの人間なのだ。俺は。後々後悔する。
でも、俺の欲求はずっと満たされない。答えを知るまで。真実にたどり着くまで。だから、ついのめりこんでしまう。
それで、ああ、そうだ。砂漠、砂漠。本当に驚いた。見てしまった。幽霊を。だって、その女は透けているのだ。親父たちを見たのは、夜だったからか、透けているかどうかはっきり覚えていないのだが。彼女は、透き通っている。周りの砂を透過している。
だから、話しかけてしまった。
「誰だ。」
その言葉しか出なかった。足も膝も震えている。手にはナイフを握りしめる。幽霊だったら効果ないのに。
「私・・・」
その女は答えた。透き通る声で。美しいと思った。俺の中の心の不純物を取り除いてくれ。そう思うほど。
ぐらついた心を立て直す間もなく、彼女は言う。
「私・・・」
どうやら私という音、言葉というよりも。しか発することができないらしい。
見つけた。確信を持つ。この女は、現実だ。
それからはずっと、研究に励んできた。その女は、俺の実験の素になった。どうやって連れていこうか悩んだが、さあ、だって透き通っているだろう。だから。でも、手を引っ張って見たら、案の定なのか、触れた。
本当に不思議だ。この一言に尽きる。
刺さるようなストレスを身に着けたようで、俺は軽やかだった。そうだな、今までと比較して、だろう。どこか、浮ついている。この感覚。なぜ、このような感覚を人は感じるのだろうか、もう、そうだな。探求ってやつはどうしようもなく続いてしまうらしい。
女は、きれいな容姿をしてい年は、まだ10代だろうと推測する。本当にその位に見えるのだ。この、得体のしれない女は。でも、まあ年齢なんてないのかもしれないが。
圧倒的多数。この言葉を俺は忘れない。そうだ。
実存を追及する。この女は透き通っている。なのに触れることができる。この矛盾を解き明かす。解き明かすつもりだった。それから何年も。
でも結局、俺は70歳になった頃、見つけたのだ。
とんでもないことを。この女の正体を。
この女は端的に言うと、この世界の正統な居住者だ。え?どういうことか。それはそのまま、この女性は俺とは意思疎通はできない。だって、住んでいる次元というのか、まあそんな感じのものが違うのだ。
俺たち人間は自分が正統な居住者だと無意識に自覚しているだろう。この世界にいて当たり前ってこと。でも、それはもう、昔のことだ。
俺が行き当たったのは、この世界はすでにもう別の何かの物だったってことだ。
そこらを徘徊する幽霊、つまりそいつらの物だ。
この世界は圧倒的多数になった幽霊によって成り立つ。そうなったのだ。
じゃあ、俺ら人間は?
そうだな、どうやら消えてしまうらしい。もう、誰も気づかないうちに何人も消えている。そいつらは死んで幽霊になるでもなく、消えていくだけ。
俺は傍観者になったらしい。ただ、見つめる権利を与えられた。といった方が良いかもしれない。世界のルールが変遷する過程で生じたバグといった方が良いだろう。
俺は、もう、どうやら消えるらしい。
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