第21話 前哨戦

「で? その協力者ってのは何者なの? 信用できるのかよ」

「わからない」

「わからないって、お前なあ。全員助かる道があるって言ったのはお前だぜアリス。それがそんないい加減な」

「私たちは少しでも希望があるなら信じてやるしかない。私はユトさんを助けたいから。その人、ヘイヤは言ってた。自分は皇女を討って全てを元通りにするって。確かに胡散くさかったけど、でも何故だかわかんないけどそれが残された道のような気がした。だからできるだけ協力者がいる。私たちはもう意味もなく殺し合ってる場合じゃない」

「だけどそれじゃあこのコロシアイはなんだったんだよ」

「ヘイヤが言うにはただの余興。心臓皇女はその命を繋ぐために多くの血を必要とする。この大会自体が結局のところ皇女の餌食でしかないってこと。これまでの優勝者だってその後はろくな目にあってない。私も実際に見た。とにかく私たちの目下の敵は心臓皇女なのよ」

「アリス、なんかあんた見てると怪しい宗教の勧誘に乗せられてるみたいだぜ」

「かもね。私も今日まででかなりおかしくなってる」

「まあただ俺も早く帰りたいのはそうだ。それにプリケットのためにももう負けられない。信じていいんだなアリス」

「一緒に戦って」

「ふん、で? 何すりゃいい?」

「機が整えば心臓皇女討伐に向かう手筈だけど先ずは作戦を立てなきゃいけない。これからヘイヤたちと合流するわ。彼らも協力者を募っているけど現状誰がその気になってくれてるかはわからない。合流地点はここ。白痴銃刀店」

「ここはもう禁止区域なんじゃ」

「店自体は特区扱いで影響を受けてない。それに運営のガス発生装置はヘイヤたちが鎮圧済みらしい。それを知ってる参加者は少ないはずだし丁度いい人払いになるでしょ」

「なるほどね。頭が追いつかないが、まあとりあえずここに行けばいいんだな」

「道中は今まで通り危険が伴う。ユトさんも連れてかなきゃならないからシンには護衛を頼みたいの」

「嫌だが任せろ」

「頼むわね」


 道中は思いのほか静かだった。もう生きている数のほうが少ないのかもしれない。元より禁止区域となっていたエリアに近づくほどそのまま放置された死体の数が目立つ。私はこのバカな戦いを早く終わらせたかった。ユトさんやシンと帰りたい。それにラヴやダイナ、ここで命を失った人達のためにも。


「待って」

「どうした」

「誰かいる」

「ジジイと」

「ロボット?」

 私たちは恐る恐る近づく。老人は座ったまま動かない。

「亡くなってる?」

「どうだろな」

 近くには獣人も横たわっていた。なんとなく見覚えがある。

「お前さんがた」

「ガタ」

 即座に銃を構えた。彼らに戦意があるならやるしかない。

「話をせんかね。わしも流石にこのライオン男の相手で骨が折れた」

「あなたは」

「わしはグンゾウ。こっちは相棒のダンプ」

「アイボーノクソジジー」

「戦う気はないのね」

「もとよりこんなくだらん話に乗るつもりはないさ。そこのライオン男ものびてるだけで死んでおりはせん。だがこいつの連れの女の子は助けれんかった。バカめが。戦うことをしなけりゃ手当ても出来たのにな」

「グンゾウさん、私たちはMBRを終わらせようと思ってます」

「それはここでわしとやり合うってことかね」

「カネカネ」

「違う。私たちはそのための協力者を探しています。いきなりで理解できないかもしれないけれどあなたにもお願いしたい」

「気づいたらこのダンプにここに連れてこられた。コイツは言葉足らずで最初はなんのこっちゃわからんでな。だから己に従ってきた。わしは武器など持たんぞ。ぽりしぃってやつだ」

「そういう志しが私たちにはありがたい」

「すまんが先に済ませたいことがある。なんの縁か救えなかった後悔がある。彼女を弔ってやりたい」


 グンゾウさんが少女を埋めるための穴を掘るというので私たちは手伝うことにした。私も彼のように強ければ人を殺めることなくここに立っていられたのかもしれない。後悔がある。夢だと思いたい。これは悪い夢でまだ私はあの喫茶店でボーッとしたままのどこにでもいる女の一人なのだと。こと切れた少女の遺体は砂と血に塗れた姿でこれが現実だった。シンの顔を見るとやるせなさで今にも泣きそうだ。けれど私にはもうその感情さえ巡ってこない。ユトさんともあれから殆ど言葉を交わしていない。私だけが突き動かされているようで孤独を覚えた。

「ヒミに……触るんじゃねえ」

「グンゾウさん!」

「わしをやるか。ライオン丸」

「殺してやる」

「この子は死んだよ。助けれなかった。すまんかったな」

「殺し」

「もう気づいとるんじゃろ。お前さんだって」

「ヒミ……俺は……」

「ライオン丸、お前もわしらと来い。あの子の言うとおりならまだ救いの道がある」

 ライオン丸は子供のように泣いていた。別れを惜しむように少女の亡骸を抱いて。沈痛な空気がひととおり流れて皆んなで彼女を埋葬した。

「ライオン丸」

「ジャバーだ」

「ライオン丸さん」

「ジャバーだ!」

「ジャバ丸」

「殺すぞマジで! 俺はお前らのことなんぞ仲間だとは思ってねえ! だが……ヒミが死んだのは俺がまだ弱いからだ。ジジイ、これが終わったらケリをつけさせろ。それまでは詐欺師をぶちのめすのに付き合ってやる」

「素直でないのライオン丸」

「ジャバーだ!」

「皆んな、そろそろ行きましょう。ユトさん、動ける?」

「ああ、なあアリス」

「どうしたの?」

「戦えなくてごめんな」

 胸が締めつけられる。

「終わらせる。必ず」



「やあやあやあ、久しぶりだねお嬢さん、旦那方がお待ちかねだぜ」

「ミハイロヴィチ、無事だったのね」

「長年このクソ島で商売やってからな。まあそれも今回でしまいか。お嬢さん、俺もこんなとこに閉じ込められて皇女にはムカついてんだ。頑張りなよ」


 店内ではすでにへイヤたちが待っていた。

「この人たちが協力してくれることになった」

「ジャ! おいおいマジかよ」

「どうしたの? ハッタ」

「いや、別に……」

「多いほどいい。俺がヘイヤだ。よろしく頼む」

「早速だけどあなたの作戦を聞かせてくるかしら」

「いいだろう。悪いが作戦上ここにいる全員には死んでもらう」


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