第18話 それぞれの決意

「シン、準備完了よ」

「ああ」

「大丈夫?」

「問題ない」

「そう。はい、コレ」

「プリケット」

「何?」

「おれ、これが終わったら結婚するだ」

「フラグってやつ?」

「違う! 何回も言ったろ! 結婚式の最中だったんだぞ!」

「そうね」

「そうねじゃねえ! 絶対に死ねない」

「だからあなたを選んだのよ。生への執着。あなたなら勝てる。そう思いました」

「ふざけんじゃねえ! 泣けてきた!」

「ほんと泣き虫。でも勝ち残ってきたじゃない。見込んだとおりでした」

「あと何チーム残ってんだよ」

「運営の報告どおりなら残り20チーム。まもなくこのゲームも終わり。もう少しよ、シン」


 とっとと終わらせて、必ず結婚するんだ。


☆☆☆


 ジャバ・ウォーカーは疲弊していた。自らは闘争を求める。故に戦うことをやめれない。同じく異界から連れ立った伊達ヒミカもまた戦闘狂の自分に似て決して弱音を吐かずここまで付いてきた。二人は戦うことで己を示してきた。勝ち残るためには手段を厭わず計略としての共闘或いは裏切りを繰り返し実際に勝ち続けた。安全エリアもかなり縮小され残りの参加者も僅かとなった今。彼らは勝つことだけを考えた。だがジャバーは疲弊していた。ここまで共にあったヒミカを最後には撃たねばならないといった考えに。MBRが始まった当初はそこに躊躇いなどなかった。同様にこれまでも幾度となく他者を出し抜いてきた彼である。ヒミカにはこの大会の非情なルール、勝者は一人だけということを既に伝えており、最後に残るのは自分だと告げた。伊達ヒミカはそれに対して「負けないよ」と言った。この局面においてジャバー自身の脅威はこの連れ添った相棒なのかもしれない。これ以上自分の意志がブレるのは危険だ。彼は戦いの中で疲れ切ったヒミカに銃口を向けて囁いた。

「すまんなヒミ、少しだけ順番が狂った」


☆☆☆


 ハンプダンプと加能グンゾウはここまで誰とも戦わなかった。グンゾウは言った。戦わなければ負けぬ。ハンプダンプは繰り返した。戦ワナケレバ負ケヌ。グンゾウは歌った。かーなーらーず最後にわしが勝つぅ。ハンプダンプも歌った。カーナーラーズー最後ニワシガ勝ツゥ。

「わしじゃ!」

「ワシジャ!」

「わしじゃて!」

「ワシジャテ!」

「このポンコツがあ!」

「コノポンコツガア!」

「いいえ私がポンコツです」

「ソウデスアナタガポンコツデス」

「……」

「…………」

「ふんッ まあええわい。そん時までは死ぬなよボロロボット」

「フンッ マアエエワイ ソン時マデハ死ヌナヨ老イボレジジイ」


☆☆☆


 島に設けらたMBR運営屯所は全てで五箇所。ここで参加者の動向をチェックし本部へと連絡が届けられる。当然周囲には万全の警備がしかれており参加者がこれを制圧することは不可能に近い。万に一つ、屯所が襲撃されるようなことがあれば残りの各所、或いは本部に通達され即座に鎮圧される。故に誰も及ばない。

「とはいえいまだに信号通信による定期連絡で正常か異常を判断する怠慢システムのおかげでこうして屯所が制圧されても本部の連中は気づかない。仮に直接連絡が入っても声紋データが自動反応して問題なしと応えるように書き換えてある。引きこもりネットオタクの技術をなめるなよってんだ! なあ? ラ」

「無駄口叩くな。それからヘイヤと呼べ。どこで傍受されるかわからん。お前はハッタだいいな」

「はいはい、でも面白くなってきたじゃないの。まさかあんたがこんなこと企んでるなんてな。だったら先に教えろっての」

「早くしろ」

「はいはい、ヘイヤさんっと」


〈エリアの安全化を実行しました。これより一帯の消毒作業を開始します。エリアの安全化を実行。一帯の対人排除システムを停止します。〉


☆☆☆


「おはよう、ユトさん」

「アリス、すまない」

「いいんだよ。動けないんだから。ちょうどよかったよ。食糧物資が残ってる場所があって。でも応急処置しかできないからまだ動かないでね。あと」

「なあアリス、アタシたちはまだ戦う意味があるのか?」

「……」

「もともとこの世界の人間じゃないアタシたちが戦ってなんになるんだ」

「帰んなきゃ」

「勝てるのは一人なんだぜ。ラヴもダイナも、みんな死んだ」

「だから帰んなきゃ。みんなで」

「どういう意味だよ。どうやって……ごめん」

「いいよ。私もどうやるかなんてわかんないけど、でもなんとかする。必ず、絶対」

「……そうだな。なんとかしなきゃな、アイツらのぶんも。頼むぜ、相棒」

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