第16話 Cの血統 その1
その大義、ゆめゆめ忘れるなかれ 汝、勅諚賜りし者 汝、皇女の刀
飛び跳ねるようにして起きた。呼吸は荒く、寝汗がひどい。周りを確認する。目覚めたのは自分だけだった。ひと息をつく。夜明け前。夢に出た言葉を思い返した。眼が鋭さを取り戻す。果たさねばならなかった。大義のために。
「で、西に向かった先が次の安置になります。他の部隊の先を越すなら今から移動を開始すべきですがなにぶん私たちは今、まるで物資がありません。どうすれば」
「どうするってどうすんの?」
「どうにかなんだろ。急ごうぜ」
「ならん! このままではどうにもならん! でもどうすればいいかわからん! 以上!」
「アリス、自棄になるな。ここに旧市街エリアがある。こういう場所は戦いやすい。遮蔽が多いからね。であるなら戦闘の痕跡もあるかも知れない。運良く物資だけを調達出来るかもしれない」
「でも待ち伏せられてるかも」
「それは安置だって一緒さ。ただ次の安置は周囲が開けすぎてる。弾なし、食糧なしのノーチャンで突っ込むくらいならここを迂回してワンチャン拾う」
「決まりだな」
「……わかりました」
「どうした。納得してないな」
「いえ、違うんです。別のこと考えてました。すみません」
「サワミヤを撃ったヤツのことか」
「もしかしたら」
「ラヴかも、か」
「声が聞こえたんです! あの時」
「サワミヤを撃ち抜いたのはスナイパーライフルの弾だった。少なくとも三〇〇メートルは離れた場所から狙撃されてる。お前が聞こえたならアタシたちにも聞き取れてる」
「でも! 確かにあの声は!」
「アタシも信じてる。アイツはあんな最期を迎えるタマじゃない。でも今は目の前に集中しよう。じゃないと再会も出来ないだろ」
「ユトしゃあああん」
「早く行こうぜ」
それから私たちは旧市街エリアへと移動した。事態は最悪の展開を迎えている。戦地に適したフィールドで多くの部隊がシノギを削っておりました。飛び交う銃声、断末魔、狂気満ち満ちの数え役満。
「とりあえず死体を漁る!」
「無理ですーッ」
「泣き言言うな! 他に手がない!」
「俺から行く!」
「いつになくやる気だな。どした」
「一分経って戻らなかったら退け。じゃあな」
ダイナが飛び出して二分が経った。嫌な汗。滲む涙。疲弊した精神。終わらない戦闘。
「ユトさん」
「仕方ない。いったん退こう」
「でも!」
「言うな! アタシだって……アタシだって!」
思い返せば四人でいた頃がひどく懐かしい。でもコレって戦争なのよね。私は何故戦ってるんだろ。何故こんなに必死なんだろ。いよいよおかしくなりそうだ。
「私行きます!」
「行くってドコへ!」
「ダイナを探します。もう仲間を見捨てたくない」
「馬鹿言うな! 死ぬぞ!」
「言います! もう自分に負けたくないから」
「今要らないからそうゆうエモいの! ああもう! 弾はほぼない。ハッタリでどこまでやれるか。出来るだけ陰を迂回してバカ猫を探す。お互い死角をカバーすること! 以上! いいな」
「行きましょう!」
刹那だった。私の後頭部に嫌な感触。冷たいのか熱いのかわからない。
「そこの女も動くな。ゲームオーバーだ」
終わった。私がデカい声だして無茶言ったからこうなった。ユトさん、構わないで。逃げて。
「ゲームオーバーはテメーだよ」
ユトさんが安心したように笑って言った。音が響いて頭に引っ付いてた硬い感触が離れると敵は力を失って私の足元に倒れた。
「ダイナ……ダイナああああん」
「悪いな」
ダァアン……
「なんで?」
「大義のためだ」
「なにが? どうしてダイナがユトさんを? え?」
ダイナは次に私を狙う。
「ゲフッ、ア リス 逃げ」
「何やってんのよアンタ! アンタがユトさん巻き込んだんじゃないの! アンタが! アンタがユトさんを! 意味わかんない意味わかんない! 何やってんだよ!」
「……」
「うわぁぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああーーーーッ!!!!!!!!!」
汝、チェシャーの血統
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます