第14話 サワミヤケンゾーの世界 その3
私たちは逃げるしかなかった。素手で挑むには屈強すぎる殺人鬼を前にしてどこへともなくこの狭いようで広すぎる部屋を。逃げても逃げても追ってくるシャンプウロ。無理ゲーすぎる。
「Arghhhhhhhhhh!!!!!!!!!!!」
「イヤーーーーーッ!!」
「ちょっと黙れ!」
「黙ったら死にます!」
「何か手立てがあるはずだ!」
「そのこころは!?」
「今はわからん」
「Arghhhhhhhhhh!!!!!!!!!!!」
「「「Arghhhhhhhhhh!!!!!!!!!!!」」」
考えろ私。ラヴならどうする。教えてほしいのに隣にいない。不意に寂しさをくらう。考えろ。祈れ。なんとかなると。
「緊急停止」
「バカ! 止まるな! 殺され」
「おいコラ殺人鬼! お前なんか怖かねえよだ!」
「いかれつちまつた悲しみに」
「考えがあります」
「「そのこころは!?」」
「シャンプウロはこの世の者じゃないんですよね。それに変化する内装。おそらくコレは幻覚です! 精神攻撃!」
「正気か!?」
「貫けそのデカ斧で! やれるもんならやってみろ!」
ザンッ
斧が私の身体を引き裂いた。真っ二つになる。大丈夫。これは、幻覚だから!
「うぉりゃああああああ!!」
ふっとムラサキ色したモクモクが上がってボワッと散った。
「お見事お見事。このサワミヤ、貴女の勇気には敬服致しました」
出たな変態コック。サワミヤは満足気に、自信に満ち溢れた佇まいでダイナを手刀で気絶させユトさんの背後へと接近した。まずい。
「しかしこれは物理」
「は?」
「イ……イヤァーーーーーッ!」
サワミヤがサーベルでユトさんの背中から腹部を貫いていた。口から血を吹くユトさんを見て私は叫んだ。
「あ、アリス、いま……ならやれる。コイツをアタシごと撃って……早くッ!」
ユトさんは残った力でサワミヤの袖を掴んでいた。
「ダメ、イヤ、出来ない!」
「全滅するぞ! 撃て!」
「無駄ですよ。彼女には撃てない」
「頼む!」
「イヤ、無理、なんで? なんで私なの」
アリス、しっかりしてください 大丈夫です
どこからか声がした。ハッとした瞬間ダァンと大きな銃声が響いたかと思うとサワミヤの身体が崩れ落ちていた。
「バガァな……わたくしが 死ぬ?」
ユトさんが前のめりに倒れる。貫いていたはずのサーベルは消えている。
「ユトさん!」
「大丈夫……これも幻覚だ。ちっとキツめだけど」
サワミヤは血を吐きながら悶えていた。ダイナはまだ気絶してる。誰が撃ったの。私? なわけない。あの声は……
「わたくしガァ! 死 ぬ? そんな ことグァ ありあるありるワケがぁ 《心臓皇女》の寵愛を受けた わたくしガァあああ!」
サワミヤの全身からムラサキ色のモクモクが噴出するとレストランだった建物の壁が剥がれ落ち廃墟が露わになる。風が吹いて煙がかき消えると辺りはもう夜だった。遠くの空に一機のヘリコプターが見えたかと思うとそれはまたどこかへ飛び去っていく。
「コイツがサワミヤの正体か」
「カブト……ムシですかね?」
「アリスの言うとおりコイツ自身には物理的な攻撃力はなかったんだ。でもおそろしい敵だった。誰だか知らないけれどコイツを始末してくれなきゃ全滅してたな。あと起きろクソ猫!」
「んニャ?」
「ダイナ。心臓皇女って言葉に覚えある?」
「あと五分、あと五分と十五分だけ……」
「起きろ!」
「るせえな! 知るかよ! 俺だって運営サイドのこたあ殆ど知らねえんだよ!」
「でもこういう敵が今後も現れるかもってことですよね?」
「なんだかキナくさい話になってきたな」
あの瞬間、震える私の耳元で声をかけてくれたのは誰だったのか。不思議と安心感があった。私の判断ミスでみんなを危ない目に合わせてしまったこと落ち込むけど泣き言は言ってられない。《心臓皇女》その謎を探るべくかはともかくとして私たちは安地へと向かった。
❤︎❤︎❤︎
「ほう。メニーオーダーズが破られたとな。して何者じゃ?」
「青咲アリス、美雲ユト、ダイナ・マイトデッカーの三名との戦闘中に敗北となりましたが実際にサワミヤを討ったのは別働隊だった可能性があります」
「そちは余の問いが理解できておるか? 誰がやったと聞いておる」
「た、ただいま調査ちゅウボァ!」
「無能に用はない。しかしはてさて今大会。少しはおもしろくなりそうじゃな」
鼓動は城内を響き渡る。脈動は狂喜を歌う。
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