第12話 サワミヤケンゾーの世界 その1
「ようこそメニーオーダーズへ」
洋食屋のシェフのような佇まいの男はニコリと笑んで私たちを出迎えた。店内はこぢんまりとした、どちらかといえば昔ながらの喫茶店のような趣き。客は私たち三人だけのようだった。
「あの……」
「ええ、ええご注文は既に承っております。ハイこちら。皆さまがお召し上がりになられたい食事も既にこのとおり」
また笑う。どうなってそうなったのか。どんな手品かはわからないけれど、たしかに私が食べたかったオムライスがそこにある。それもいわゆるふわとろでない、チキンライスに薄焼き卵をまいたそれ。お母さんの作ってくれるオムライスとまったく同じ見た目の。隣にはモ○エナ。まさか!? ユトさん!! こんな時にエナドリ!? ユトさんは不機嫌な、それでいて照れたような顔を覗かせる。ダイナは……なんだあれ。プレートに豚カツとナポリタンとカレーとハンバーグと蟹がてんこ盛りになった何か。アホの夢という出立ち。いや待てこんなのおかしいよ。
「みんな口にするのはちょ」
ダイナはやる。お前はやるんだよこういうケアレスなそのソレ! 食べていた。
「うんめえーーッ」
「ハイありがとうございます」
急に店内の照明が落ち、周りは真っ暗になった。でもまだお昼過ぎ。窓から日差しが……窓もないッ!!?
「ようこそメニーオーダーズへ。ワタクシはここのマスターシェフ、サワミヤケンゾーと申します」
状況が飲み込めない。え? だってここは中立区域じゃ? 違う。思い込んだ。そう思い込んだだけだ。しまった。疲れからか黒塗りのレストランに衝突してしまった。ごめんみんな!
「さあてここからがメニーオーダーズの真骨頂でございます。あなた方はワタクシの
黒に染まる。
「聞こえるかアリス」
「ハイ。姿は良く見えないですけどなんとなくその辺に気配を感じます」
「ダイナあ! いるか!?」
「うめえたまらなくうめえ」
「アレはもうダメだ。それと……」
「わかってます。四人、いますね」
「さっきのケンゾーってコックか」
「分からないですけど嫌な感じがします」
真っ暗闇の中、私とユトさん、それからダイナの三人とあともう一人不気味な気配を放つ何かがそこにいた。たぶん。そいつはさっきの男と違って、というか人というよりは獣のような、わりかし鈍感な私でもわかるほどの殺気を放っている。それがサワミヤケンゾーの先程まで私たちに見せていた雰囲気とは結びつかない。言うなればライオンの檻の中に餌として放り込まれたかのようなそんな気分。そのとき突然マップモニターが動く。
「聞こえますか? お客様。いえ、食材の皆様。あらためましてマスターシェフ、サワミヤケンゾーでございます。あなた方は今オーダー待ちの最中にあります。既にお客様はご来店され空腹の中はちきれんばかりの飢えとご格闘されております。あなた方が生き残る道は一つ、命ある限りそのお客様と戦うこと、そして勝つことです。この世には頂点捕食者なる強者がおり、その者だけが食物連鎖の頂きを優雅に眺めるのです。さてそれは誰か。ナイスファイトを期待します。今宵のお客様は少々手荒い。山猫の殿方、あなたならご存知でしょう? マーダー・シャンプウロの名を」
「ブヴーーーーーッッ!!」
何かを口から吐き出すような擦れた音がした。
「シャンプウロがここにいるのか?」
「はい」
「そんなわけ。だってアイツは捕まって処刑されたはずじゃ」
「当店は誰でもお越しいただける風通しの良い店です。最初の英雄にして最悪の殺人鬼であってもお断りは致しません。それでは……オォーダァーー!! かくも愛しき仔豚三匹vs殺人狼!! Bon Appetite」
モニターが消えると辺りに光が戻る。けれど先ほどとは違う、これは家? 二人の姿は見えない。私はわけも分からず壁にもたれてへたり込んでしまう。
バギイイイィ!
私の顔一つ分右横。壁から斧の刃が突き出ていた。
「シャイニン嫌ァアアアアアアアア!!!!」
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