第8話 ババンババンバン羽衣伝説

 非常時爆睡叱られの後、私たちは島の南に位置する廃病院を拠点にしていた。元々の老朽化に加えて、十回目ともなると所々に戦闘の痕跡が残っててボロボロだった。残っている薬品や包帯なども経年によって使えそうもない。ここで朝を待つ。薄気味悪い。考えてもみればこの島ではこれまでに九回もこんな馬鹿げた殺し合いがあったわけで沢山の人が亡くなっているわけだ。敗けた九九名の中には家族もいたはずで、帰らないその人の身内はきっとこのMBRのおぞましさと非情を感じたに違いない。それでも志願者は絶えないという。定員一〇〇名の枠を取り合うところから既に戦いは始まっているのだ。つまりこの戦場にいる奴隷民の人々は好戦的なわけで、尚且つ私たちみたいなキャリーされてきた人間の中にも受け入れてしまった人もいる。実際ユトさんにはもう躊躇いが見られないし、私も正直わからない。生きるために必死なところはある。今こうして行動を共にしているけれど、いつかはという考えは不意によぎる。やっぱり大元の権力者側を絶たねばならないという気になる。それはこの国の人たちが望まないことだったとしても。


「絶対覗くなよ」

「何度も言うなよ。俺たちが信用出来ねえってか?」

「ラヴはともかくあんたが一番信用ならないから」

 さて、唐突に始まったのはお風呂回です。呑気だと思うかもしれないけれど土と泥で汚れた体は年頃にとって致命的だ。別に周りの目を気にしてるわけじゃない。誰がために鐘は鳴り、自分の為にシャワータイム。そういうこと。なんとまだこの病院、水道は使えるみたいで私とユトさんは風呂、といっても水浴びに等しいが、それに浸ることにしました。


「なあ、ラヴ」

「なんです」

「あいつら無防備だよな」

「何を考えてるんですか」

「やっぱ護衛は必要だよな」

「それはそうかもしれませんが、それだけのようには聞こえませんね」

「いい子ちゃんぶるなよクソうさぎ! オメエにはオスとしての本能がねえのか!」

「あなたには理性がないのですか? 畜生でもやりませんよそんなこと」

「俺はやるぜ」

「お好きに。失敗しても荷物が減るだけです」



 あー、さっぱりする。若干冷えるけどそれでも天国に一番近い場所かもしれないかもしれないことなくなくない。白湯川くん元気かな? 私がいなくなって心配してくれてるかな? いや、そりゃしてるでしょ! してくれなきゃヤバくない? ちょっと待って! なんでこういう思考回路になっちゃうの私の馬鹿カバヒポポポポス! え、ヤバい浮気とかしてないよね? ちょちょちょーい! 想像力豊かすぎか! すぐ帰りたい! 今帰りたい!

「アーーーッン ユトすぁーーんッッ」

 即席の浴室、私は外で見張ってくれていたユトさんに助けを求めた。シーツで作ったカーテンを開けるとそこは雪国ではなかったけれど、ボコボコにツラを腫らしたダイナが正座していました。

「アリス……おま」

「え」

「服」

「は」

 猫は原型を失った顔で、けれどそれでも分かるくらいの助平なニヤつきで「おおきに」と言った。


「記憶ヲォオオオオ!!! 飛ばせぇエエエエ!!!」

 アリスの右手が真っ赤に燃える。

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