第6話 五〇〇〇兆

はい こんばんわー♪

初見さん いらっしゃい♪

ありユトー❤︎

こんばんわー♪

ユトー! 今日も可愛いよ ○○さんスパチャせんきゅー♪

ありユトー❤︎

初見さん いらっしゃい♪

ありユトー❤︎

こんばんわー♪

ありユトー❤︎ ありユトー……ありユトー ありユ……


「美雲さん? ですよね?」

「ああんッ!?」

「や、なんか配信のときとテンションが違うめ的な感じ的な」

「あれが素なわけねえだろ! 阿呆か?」

 とりあえず美雲ユトとダイナを拘束し、安置まで連行した。私たちの目的は二人と取引すること。

「協力しませんか? もし手伝ってくれるなら縄を解きます」

「ナメてんのか? 命乞い? この美雲ユトが? ふざけんじゃねえよ。やるならやれ」

「俺は協力するぜ!」

「おいバカ猫! みっともねえ真似すんな!」

「二人ともが条件です」

「おいブス! さっさと謝れ! 死にてえのか!」

「誰がブスだバカ! アタシは戦って死ぬ。お前らみたいな奴隷根性の卑屈な魂とは違うんだ」

「生きてナンボだろ! なあ嬢ちゃん! 頼む! 俺は超協力的! 超超協力的! コイツはもういいじゃん。な? 俺頑張るよ!」

「どちらかと言うとあなたのような軽薄な人物がいざという場面で危険ですからね。アリス、二人ともが協力する場合だけ。そこは譲らないでください」

「ウサギィッッ!」

「なんですか? ここで始末してもいいんですよ」

「その前に飛びついて喉元噛み切ってやらあ!」

「喧しい野良だ。アリス、撃ちますね」

「あーーもううるさい! あんたらちょっと黙ってて! ユトさん、お願い。私はあなたと戦いたくない。最後のことは今は考えない。それにもしかしたらこのクソゲー自体をぶっ潰せるかもって考えてる。一〇〇人以上いるんだよ。協力者が多いほど運営側だって困るはず。私はそう思って動いてる。どうしても分かり合えない人はしょうがない。でもユトさんとはそうじゃないって思う。悔しいけど白湯川くんの心を奪った人だから」

「なんの話だよ。バカなんじゃないの? 運営を潰す? これまで開催されたMBRは九回。今回が記念すべき第十回ってわけ。今日の今日まで奴隷と搾取側は立場がひっくり返ってないってこと。相手にするにしたって規模も分かんない。この会話だって監視できるのかもしれない。未知を敵に回してどこに勝算があんのよ?」

「わかりません。でもユトさん達が協力してくれたら今日変えられなかった歴史が明日には変わるかもしれません。私は変えたい。帰りたいから」

「……。アタシは別に帰りたかないよあんなとこ。まあでもあんたみたいなバカなリスナー嫌いじゃない。いいだろう。しばらく協力しよう。但し、勝てる見込みがない時は容赦なく切り離す。それでいいな」

「ユトさん……ありがとうございます!」

 現実の世界ではわからなかったことだ。美雲ユトについては私はちょっと嫉妬していて、あの日も彼は彼女の配信を見てた。追われる者と追い求める者が今、背中を守り合う約束を交わし握手している。向こうじゃ考えられなかったことだ。ユトさんってV体と違ってボーイッシュでこの路線だったら私がハマってたかも。帰ったらチャンネル登録します。


「ヘッヘー! いやー心強いねえ! 四人なら無敵だろッ!」

「ダイナって幾つ?」

「ああ? 歳か?」

「ううん、ちがう。あいきゅー。Intelligence Quotient」

「なんだそりゃ? まあ五〇〇〇兆くらいか?」

「わかった」

 ダイナは嬉しそうにスキップした。私とラヴとユトさんは周囲を警戒しながら進む。案の定、出過ぎてたダイナが捕捉される。前方から弾道あり。でも敵は確認出来ず。ダイナは慌てて物陰に潜んだ。

「アリスって言ったな。どうする? お得意の交渉に出るか?」

「皮肉はやめてくださいよ。どっちにしろ相手が分かんない以上はどうしようもないです」

「おそらくそう遠くはないでしょう。バカ猫がヘイトを買ってくれているうちに我々は迂回して距離を詰めます。アリスはアイツが犬死にしないよう援護に回ってください。敵が覗いてきたら撃ってもかまいません」

「オケ」

「了解」

「おい! 助けろ!」

「ゴーッ」


 ダイナがうごけねーとかくそったれーとか叫びまくったおかげで相手はダイナの隠れてる岩に攻撃を集中させていた。ただ時間がかかり過ぎてる。銃声を聞きつけて別部隊が攻め込んで来るかもしれない。ここからはまだ見えない。二人の奇襲が成功するよう祈った。

「アリスぅう! 頼む! 代わってくれ!」

「無理だよ! 耐えて!」

 このままではダイナがとち狂って飛び出しかねない。お願い! はやく!


タタンッ

タタンッ

タタンッ


 少し離れた位置でマシンガンが鳴った。私はダイナに「今よ!」と告げて一気に前方へ詰め寄った。向こうはもう撃ってこない。いけたか。と、その時だった。左右から一人ずつ。このままだとダイナと私が挟み撃ちにあう。

「ダイナ!」

「わかってる!」

 凄まじいエイムだった。一人一発ずつ。確実に仕留めていく。誰しも才能ってものがある。

「大丈夫かアリス! コッチもやった!」

 ユトさんの声。今回も何も出来なかったけどなんとか勝てたみたいだ。私は期待値をちょっとあげた。MBRをぶっ潰す。ワンチャンあるで。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る