第4話 発端と参加

 かつてこの国は争いの絶えない土地でした。いくつかの権力者達は互いに国の最高権力を得るために衝突を繰り返します。しかしながら拮抗した軍事力はやがて彼らを疲弊させ、内乱によって国自体が消滅することは目に見えていました。そこでそれぞれの代表は休戦協定を締結し互いの立場を再認識するべく会議の場を設けました。ですが彼らの頭には常に相手を出し抜くことで自らが王になるという野心ばかりがあり、会議自体が成り立つのは困難でした。一堂に会した彼らは無論武装しており、その場ですぐ諍いが起きても不思議ではありませんでした。身も蓋もない自己中心的な主張は妥協点を取ることなく、会議は平行線を辿ります。痺れを切らせたある代表者は遂に引き連れた部下達に命じて他の代表者へと銃口を向けさせます。彼らには話し合いなど到底無理な話でした。

 その時でした。一早に攻撃的になった代表者の首が胴から切り離され宙を舞ったかと思うと、連れられた部下達も同様に血飛沫をあげて卒倒したのです。これに際して各代表達は一斉に攻撃体勢を取りますが暗がりから現れた何者かが静止を促すように声を上げました。各代表はその威勢に気圧されて沈黙します。一瞬で数人を屠ったとはいえ相手は一人。その場で撃退するのは容易いことでしたがここで彼らの纏まりのなさが露呈したのです。襲撃者は彼らから敵意を奪い去ると落ち着いた声で語り始めました。自分たちが手を汚さずとも勢力を決する手段があると言って聞かせたのです。彼はその方法を説明すると自らが殺めた死体を指差して自分もその者の代わりに参加を表明しました。代表者達は何者とも分からぬ襲撃者の言葉を受け入れることにしたのです。

 国の南西部に浮かぶ小さな島に百人の奴隷達が集められました。奴隷達は初め自らに起きている事態が理解できませんでした。島の中央に集められた彼らは設置されたモニターの起動を確認します。モニターの向こうには彼らをこき使ってきた国の権力者達が並んでいました。その光景に怖れをなす者、憤る者、事情も分からず慌てるだけの者。反応は様々でしたが周囲は一気に騒々しくなりました。やがて黒いローブで目元を隠した怪しげな男が話し始めます。

「あなた達には自由を求めて戦ってもらいます」

 第一回マジカルバトルロイヤルの始まりでした。





「名前ダサくね?」

「それが彼らのセンスです」

「じゃあつまり百分の一になればいいってことよね?」

「正確にはキャリー可能な我々が全員権利を行使したとして最大二百分の一を目指さねばなりません」

「あ、そっか。ってちょっとまって。私たちチームなんだから二人で生き残ればいいんじゃないの?」

「いえ。自由を得るのは一人だけです。過去の実績から言ってもそれは間違いありません」

「何よそれ! じゃあ私はマジで参加損じゃん! デメリットしかないじゃん! 何? じゃあ仮に私たちだけになったらラヴと私が殺しあうワケ?」

「そう……なりますね」

「やってらんねえ! 帰る! もうホント帰る! ふざけんなふざけんなふざけんなふざけんなああああ! 信用出来ない! 何よそれ! 何がチームだ!」

「アリス。落ちついて」

「落ちつけ? どの口でほざいとんじゃボケえ! ちょっと! ちょっとだけ、頼りになるなって……思いかけてたのに。もしかしたら二人で助かるかもって」

「アリス。まだ八〇チーム以上が生き残っています。今は彼らよりも生き残ることだけを考えましょう。もしも」

「なによ……」

「もしもあなたが生き残って、私と二人だけになった時はあなたに優勝をお譲りします。だから死なないでください」

「ごめんけど信用できない。今は協力するけど、でもラヴのことは信用しない」

「構いません。一先ず頑張りましょう」

「銃の撃ち方教えて」

「その意気やよし。いいでしッ!? アリス! 伏せて!」

 背後で爆発音がなった。背中に熱風を浴びて焼けそうに熱い。


「聴こえますかァ? あははは! じゃあ第二砲撃! 発射ああああ!」

 メガホンマイク越しに下卑た笑い声が響く。たぶん若い女の子。他にもいるのか? ともあれ小屋に潜んでいたのがバレたのだ。森に入って最初に撃ってきた連中かはわからない。ただ武器は爆発物だ。小屋から逃げないと。私たちは声のする逆方向に走った。小屋は直後、木っ端微塵に吹き飛ぶ。

「ゲーーーッム オーバアアアアアヒャッホウ! あはははあはははあははは♪」

 今更ながらイカれてる。私はなんだか悔しくなってテキトーにマシンガンをぶっ放した。

「ッテーーーーッ!! 誰だチクショーーーーッがあ!」

 メガホンが悲鳴した。

「うそ……」

「ナイスです。アリス。いくらか弾は無駄にしましたが全弾ではなかった。さ、行きますよ」

 あーあ、このクソゲーに参加しちゃった。

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