第3話 キラキラネーム
「なんで鳴子をわざと鳴らしたんや!」
「相手の射線を見るためです。我々にはまだ奇襲するほどのスキルがありませんからね。入り口付近なら撤退も取れる。ともかく相手の位置を認識することが大事です」
「で! どっち!」
「とにかく右に走りましょう。少なくとも左に三人。前方に二人います。なんとかして五人倒せばこちらの勝利です」
「どやって勝てるの! 素人なんですけど。だいたいアンタ丸腰じゃん! 腕ないじゃん!」
「ハンデ、というやつです」
「何ヨユーかましてんだよ!」
「来ますよ!」
右に旋回した私たちを追うようにラヴが言ってた前方にいた二人が飛び出してきた。私は慌ててマシンガンを構えたけど一気に詰められて木の裏に逃げ込んだ。汗が止まらない。熱帯夜くらいにジリジリとした嫌な熱気が纏わりつくのに体温は凍ったようにヒンヤリする。緊張と恐怖に阻まれて身体が言うこときかない。死ぬ、そう思った。額に硬い何かを押し当てられる。
「女ァ。おめ初心者だな。震えちゃってさ。ウケる」
「助けて……ください」
もう一人も近づいて私に銃を向けた。いつでも殺せる。殺気が分かる。ビビりちらかした私のことを弄ぶように挑発を繰り返す敵二人。
「見捨てられたのか? 可哀想に。ここじゃチームワークがものを言う。とにかく生き残るにはな。孤独は死。残念だったな」
孤独。そうだ。私はいつだって孤独だった。白湯川くんの気を惹こうと努力してきたつもりだったけど全部ダメだった。彼はなんで私と付き合ってたんだろう。私はナゼ彼と一緒にいたかったんだろう。まあもうどっちでもいっか。
バスンッ
「え、何コレ」
赤い液体が顔にかかる。私に銃口を突きつけてた一人が倒れて覆い被さった。絶叫した。すぐさま押し退けた。
「お嬢さん! そいつを盾にして身を守っとってくださいよ!」
しばらく銃声が続いてちょっとして止んだ。その間、私は何をしていいか分からずずっと耳を塞いでた。怖い、怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い
「お嬢さん!」
「え」
「とりあえず仕留めました。ですがすぐに別チームが来るでしょう。音を立てすぎた。一先ずここを離れましょう」
「いや」
「駄々こねてる場合ですか」
「もうイヤ! どうして私がこんな目に遭わなくちゃいけないのよ!」
「……確かにそうですね。あなたには荷が重すぎたかもしれません。ですが今はちょっとだけ私を信じていただけませんか? 理不尽を申しているのは承知の上でお願いします」
「もう……おいてかないでよ」
「掴まって。運びます」
バケモンの背中はぬるくてクサくて大きくて、それは部屋のベッドには到底敵うはずもなく最低のプレイスだったけど、なんというかこう誰かに身を任せたのって久しぶりな気がした。寝ていいすか。いいかげんにしろ。
森の中で見つけた小屋。誰かがいた形跡はあるけどラヴが言うには
「ラヴ。これって戦争なの」
「当たらずとも遠からずですね。そういう側面もある。確かにコレは代理戦争です。馬鹿げた話ですが我々は駒。どこかで見ている偉い人達のチェスゲームなんです。我々はこの世界で奴隷として生まれます。権力を一握の血筋が独占し、残りはクズのような扱いを受けます。しかし、そんなクズに彼らは少し夢を与えることにしました。自らの権力争いを代替させる代わりに勝者には未来永劫の自由と莫大な資産を付与すると。それがこのマジカルバトルロイヤルというわけです」
「馬鹿ばっかじゃん」
「そうですね。命をかけてやることじゃない。ただ、奴隷の一生とは惨めなものです。それならばという者が多いのも事実。結局は飼われた生き物の立場のままなのに」
「アンタもバカよ。それに私は関係ないじゃん」
「我々にはキャリーという手段が許されています。一度限りですが異界の住人を招待出来る。また異界の住人を招いた際には貢献手当として特別な装備が支給されるのです。私はコレ」
「懐中時計?」
「に見えますよね。コレはクロック型のモーションセンサー爆弾です。設置した付近二メートル以内をセンサー感知して爆発する。支給品の中では……まあハズレですね。一度しか使えないので」
「もっと強そうな人を勧誘すればよかったじゃん。軍人とか、プロレスラーとか。なんで私?」
「まあそういう者が大半ですね。私の場合は……直感です。ビビビときた」
「もうなんてツッコんだらいいかわかんないわ」
「お名前、聞いてませんでしたね」
「私? 私は……」
あんまり好きじゃない名前なんだよな。キラキラネームってバカにされてきてんのよ。
「ん?」
「
「アノマロカリス?」
「ワザとだろ! 青咲! 青咲アリス!」
「アリス。よろしくお願いします」
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