90.死・死・死!
共にとぐろの内側に収められていた二つの足音が、私を見下ろすように止まった。草壁の方では無い足音の主が、冷厳と告げる。
「異存は無いか。裏切り者よ」
ラブカが現れるのと同時に聞こえて来た声と同じく、鉄村
私はアスファルトに伏して動けないが、草壁と肩を並べる格好でそこにいる。グラウンドで見せていた能天気な印象はすっかり失せ、視界に捉えずとも刺すように私を見据えているのが張り詰めて行く空気で分かる。
鉄村清冬の声が合図のように、とぐろの内側で
私の動きだけを封じる為に、人間には有害にならないギリギリの濃度で毒を調整したのか。これでは自殺によるリセットを入れても、すぐに動けなくなる。
既にいつ喋れなくなるか分からない所まで蝕まれている私は、伏したまま
「
口を開けたラブカが、私を呑み込もうと迫って空気が唸る。
辺りの瓦礫から湧き出したゴーレムの腕が、易々とラブカの胴を掴んで放り投げた。腕は瓦礫から起き上がるゴーレムの一部となると、宙で舞うラブカへ追撃を打ち込もうと走り出す。
壁の穴から入って来ていた石灰岩のような蟹の一匹が、阻むようにそのゴーレムの前に出た。だが両者の体躯は、人とサッカーボールぐらいに乖離している。裁がラブカと蟹への反撃の為に、ゴーレムのサイズを調整したと分かった。矢張り蟹は跡形も無く蹴り砕かれ、然しゴーレムも蟹に触れた爪先から亀裂が走り砕け散る。
蟹の肉片とゴーレムの瓦礫が降り注ぐ中、宙のラブカは身をくねらせると体勢を整え、こちらとは全くの別方向へ槍の如くに飛び出した。
私は途切れそうな意識を尾に集めながら、ラブカが飛んだ方を盗み見る。
あれが裁がいる方向か。
裁は迎撃に備え
再度
私は一滴の力で頭を上げ、葉を茂らせ視界を遮ろうとする夾竹桃の枝の隙間から、鉄村清冬を睨もうと視線を泳がせる。即座に何かに腹を貫かれ五感が途切れた。だがすぐに引き返して来て、左腕の欠けた手足を使って後ろへ跳ぶ。腹を貫いたらしい夾竹桃がずるりと抜け、あっと言う間に地上へ置き去りにされた。
案の定私の魅了を食らって再起不能に陥るより、私を殺してのリセットを選んだか。SNSをバズらせたようにメディア上からでも通用すると把握しているかは知らないが、私の魅了とは相手と目が合わないと働かないのは父から街の魔術師に知られている。
先程まで私が伏していた辺りの地表を貫き現れた無数の夾竹桃が、赤い雨のように毒液を撒き飛び向かって来た。
尾で地面を殴った際の衝撃で辺りの空気を動かしたので、夾竹桃の毒は幾分薄くしてある。とは言っても猶予が無いのは変わらない上、どこぞに『一つ頭のケルベロス』を落とした手前だが!
意を決し、辺りの景色を目に焼き付けると脱力した。即座に夾竹桃に串刺しにされるが、リセットが入りすぐに復帰する。焼き付けておいた景色を頼りに迫る夾竹桃を往なし足場にすると、ラブカのいる方へ跳んだ。
敢えて死ぬ選択を取るとは思っていなかったらしい草壁の攻撃が、意表を突かれてやっと止まる。その僅かな隙に、裁を探すように土煙漂う地上を這うラブカの頭へ狙いを定め拳を固めた。
私に気付いたラブカが頭を上げて視線が合う。
裁がセンター周辺を隔離するように作った壁を躱そうと地下から接近していた石灰岩のような蟹が、地表を破って私の前に立ちはだかった。
「ッ邪魔臭えな!」
吐き捨てながら拳を蟹へ放とうとしたその時を待っていたように、ぶちまけられたビビットオレンジに視界を奪われる。
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